「非日常からの呼び声」展 ー平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品ー  国立西洋美術館

2014年06月25日 | 美術
外は雨。本日3番目の展覧会は、西洋美術館の収蔵作品より平野啓一郎氏がセレクトして解説するという珍しい展覧会。

いつもの学芸員のコメントとは一味違う、美術に造詣が深い作家としての視線は、作品をより面白く見ることがきて楽しい。
作家の声と芸術家との声が両方聞こえてくるようで、昔から鑑賞している収蔵作品も違った作品に思えてくる。

何度も常設展で目にしたデューラー、モローに混じって、あまり目にすることのないムンク作《雪の中の労働者たち》(個人像・寄託)や、ドーミエ作《マグダラのマリア》などを鑑賞できたことがうれしい。

そして、様々なテーマを経て最後に展示されていたクールベ作《波》。これこそが私の西洋美術鑑賞の原点。小6のころに初めて訪れた西美で、様々な絵画に触れた中、心を掴んだあの《波》。

同時に、あの時そばにいた二人の人を思い出し、涙が溢れそうになった。雨の美術館。

「ジャック・カロ展」    国立西洋美術館

2014年06月25日 | 美術
「リアリズムと奇想の劇場」なんて副題は不要。

見ればわかる。

17世紀初頭の宮廷や市民の生活情景、聖書の物語、戦争の悲惨さ、残酷な人間の性、美しく厳しい自然等々、、、細いエッチングの線一本一本に、その黒白の世界にこそ
すべてが描かれている。

ドーミエやゴヤの版画と同様、すべてを表現しようとするカロの筆致には圧倒される。

会場にムシメガネが用意されていて、細かいところまでじっくり鑑賞することができたおかげで、現代の私たちが覗く先にも、ルネサンスの時代より普遍的な人間の営みが感じられる。
美も醜も表裏一体、善悪も同様。脈々と続く人間の業を、まっすぐな視線でカロは描いている。


東京都美術館での「バルティス展」も見たが、今の私の心にはバルティスの美意識、世界観より、カロの写実が訴えるもののほうががストレートに響いた。