徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ベルギー・ティアンジュ原発の危険性調査~実はもっと危険だった!

2018年02月01日 | 社会

 ドイツ公営放送WDRの今日(2018年2月1日)放映された「Monitor」という報道番組で、ベルギー原発の実態が明らかにされました。

これまでティアンジュ原発の危険と言えば、主に2号機の圧力容器に発見された「ひび」が問題にされてきましたが、新たなWDRの調査では、実は1号機の方が危険であることが判明しました。問題とされているのは「前触れ事象(Precursor-Fälle)」と言われる事象で、過去3年間だけでベルギー国内に14回起こり、そのうちの8回がティアンジュ原発2号機だったという事実です。ドイツ側の専門家たちはこれらの「前触れ事象」は原子炉の安全性を評価する上で重要なことであり、わずか3年の間に8回も原子炉の基本的機能にかかわる部分(例えば冷却装置など)で不具合を起こした1号機は、明らかに技術的な問題を抱えており、このまま行くと炉心溶融の危険性が高まるという意見ですが、ベルギーの原子力安全庁(FANC)はこれを真っ向から否定し、「前触れ事象は原子炉の安全性を評価するのには適していない。ベルギーの原発は厳格に監視されており、安全である」と主張するばかり。

こうした前触れ事象がチェルノブイリ原発事故の前にもあったと言います。もしその時にもっと詳しくそれらの事象の原因を解明しようとしていれば、あの過酷事故は起こらなかったのではないか、と考える専門家もいます。

ドイツ・ベルギー両国は昨年原子力安全に関する協定を結び、定期的に情報交換などをすることに合意したにもかかわらず、現在までに会合は1回しか開かれておらず、また、その際にはティアンジュ原発2号機の停止について議論されたが、1号機の前触れ事象8件についてはベルギー側から一切情報が提供されなかったそうです。前触れ事象が起こるたびに原子炉を緊急停止していたにもかかわらず、その情報が近隣住民にも提供されなかったことは、改めてベルギー側の住民保護の姿勢の弱さを浮き彫りにさせたと言えます。この1号機は1960年代の技術で建設された非常に古い原子炉で、本来ならばとっくに廃炉になっていたはずなのですが、ベルギー政府は直前で10年間の運転延長を認可してしまいました。

もしベルギーの原発が過酷事故を起こせば、ベルギー国内ばかりでなくオランダ全土およびドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州ほぼ全域が放射能汚染されることになるため、特にティアンジュ原発に近いアーヘン市では住民にヨードが配布されました。オランダの安全院も独自調査をし、オランダ・ベルギー・ドイツの防災対策の連携が不十分であるという報告を今年1月に出し、3国の防災対策の見直しを求めました。ただし、その報告書では「事故が起こる確率は低い」とされ、「ベルギーの安全対策と監視はうまく機能している」という疑問の残る評価がされています。

ベルギーの原子力安全庁(FANC)は安全にかかわる情報はすべてホームページで発表しているというスタンスをWDRに対して示しましたが、実際にホームページを調べてみると、「前触れ事象」に関してひと言も言及されていないことが明らかになりました。意図的な隠蔽なのか、前触れ事象に対する見方の違いによるものなのかよく分かりませんが、近隣住民が不安になるような姿勢であることは確かです。

ドイツ連邦環境相は今後もベルギーに古い原発の停止を強く求めていく姿勢を示しましたが、欧州裁判所に提訴することは控えるとのことです。

もう一つWDRの「Monitor」で指摘されたことは、ティアンジュ原発に使用される燃料棒がドイツのウラン濃縮プラントから提供されているということです。これはドイツの「脱原発」政策の矛盾を表すもので、反原発団体からも批判されていることです。つまり、ドイツの「原発」は2022年までにすべて停止する予定ですが、ウラン濃縮プラントに関してはその限りではないという矛盾です。脱原発はあくまでもドイツ国内のことであって、他国が原発を稼働させることについては異存はなく、燃料棒を提供することで、間接的に他国の原発推進に貢献しているわけです。

参照記事:

Zeit Online, 1. Februar 2018, "Tihange: Risse, Pannen, aber kein Plan zum Katastrophenschutz(ティアンジュ原発:ひび、故障、なのに防災計画なし)"

Dutch Safety Board, "Cooperation on nuclear safety", Den Haag, January 2018(ドイツ語版:Untersuchungsrat für Sicherheit, "Zusammenarbeit auf dem Gebiet der nuklearen Sicherheit(原子力安全分野における協力体制)", Den Haag, Januar 2018)

WDR1 "Monitor", 1. Februar 2018(ビデオ)


ベルギー・デゥール原発、またしても事故

ベルギー・ティアンジュ原発の暗黒史


書評:恩田陸著、『不安な童話』( 祥伝社文庫)

2018年02月01日 | 書評ー小説:作者ア行

しばらく「浮気」をしてましたが、また恩田ワールドに戻ってきました。『不安な童話』は1999年の作品で、比較的恩田色が少ないので「入門」として適していると見られているようです。

まずエピローグで女流画家・高槻倫子が海辺のアトリエで自分の死を予感しながら憑りつかれたように絵を描き、自分が生まれ変わって戻ってくることを宣言します。

本編は彼女の死から25年後経ち、彼女の遺作展が開催され、そこへ向かう「私」が嫌な予感にとらわれ、どんどん気分が悪くなっていくところから始まります。「私」古里万由子は初めて見るはずの絵にデジャヴュを覚え、一番大きな海の絵を見た時に「鋏が」と言いながら悲鳴を上げて気絶してしまいます。後日彼女の(仮の)勤め先である大学教授・浦田泰山の自宅にその画家の息子・高槻秒が訪ねてきて、万由子が母の生まれ変わりではないか、と突拍子もないことを言い出します。彼の母親は海辺でハサミで刺されて殺されたのだと。母の遺言の通りに絵を渡したい人たちがいるのでそれに万由子も同行して欲しいと頼み込みます。万由子は気乗りしなかったものの、泰山の方が「生まれ変わり」説に興味を示したので、その流れで秒が絵を渡しに行くのに付き合うことになるのですが、すると次々と事件が起こります。

こうして見ると、25年前の殺人事件の真相を探るミステリーで、最後に判明する意外な犯人も含めて面白い推理小説だと言えます。でもそこに至るまでに起こる悪意ある脅迫電話や脅迫状、展示会場の放火、万由子の家の前にぶちまけられた魚のアラと赤いペンキ、最初に絵を渡しに行った画廊主の失踪、3番目に絵を渡しに行った女性が万由子と電話中に襲われる等、ホラーサスペンスに近いものを感じます。

そこに万由子の前世の記憶と思われるもののフラッシュバックや特殊能力ー倫子も失せ物を見つけたり、予知能力的な特殊な能力を持っていたーという恩田スパイスが加わり、どこのジャンルにも収まり切らない独自性が発揮され、「盛りだくさん」で贅沢な印象を与えます。

万由子が本当に高槻倫子の生まれ変わりだったのかどうかについては、本編ではかっちり説明がついて決着がついたような印象でしたが、エピローグで「いや、やっぱりそれは違うのでは」というような余韻が残り、どこか結論が曖昧になるのはやはり恩田作品らしいと言えるのではないでしょうか。

文章も読みやすく、一度読み出したら最後まで一気に読んでしまいました。

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三月・理瀬シリーズ

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書評:恩田陸著、『黄昏の百合の骨』(講談社文庫)

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神原恵弥シリーズ

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その他の小説

書評:恩田陸著、『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎単行本)~第156回直木賞受賞作品

書評:恩田陸著、『錆びた太陽』(朝日新聞出版)

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書評:恩田陸著、『七月に流れる花』(講談社タイガ)

書評:恩田陸著、『八月は冷たい城』(講談社タイガ)

エッセイ

書評:恩田陸著、『酩酊混乱紀行 『恐怖の報酬』日記』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『小説以外』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『隅の風景』(新潮文庫)

 

書評:東山彰良著、『僕が殺した人と僕を殺した人』( 文春e-book)~第34回織田作之助賞受賞作品

2018年02月01日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『僕が殺した人と僕を殺した人』は著者によれば『流』と対を成す長編小説で、『流』がポジなら、こちらは「ネガ」なのだそうです。

少なくとも回想の時間軸である1984年の台北は『流』とも共通で、殺された葉尊麟(イエ・ヅゥンリン)の話題もちらっと出てきます。両作品は80年代の台北が舞台となっている以外は全く関連性がありません。

『僕が殺した人と僕を殺した人』の「現在」は2016年からの3年間のアメリカ。と言っても主な時間は殺人鬼サックマンがデトロイトで2015年11月7日逮捕され、2016年1月に「わたし」が弁護士としてサックマンこと幼馴染のユンに接見し、被告の希望通り死刑のある州に移されることになるまでです。

この「わたし」が誰なのか、なぜサックマンの弁護を引き受けることになったのかが一種のミステリーになっています。

「私はサックマン自身について話そうとしている。今から30年前、わたしはサックマンを知っていた。
1984年。
わたしたちは13歳だった。あの年阿剛(アガン)の家の榕樹(ガジュマル)がやたらと茂っていたのを、いまでもよく憶えている。」

という導入部なので、現在の時間は2014年ではないかとツッコミを入れたくならないでもないですが。。。

とにかくこの導入部の後で、語り手のユン、牛肉麺屋の息子・アガン、喧嘩っぱやいジェイの3人の少年が、13歳の夏の濃厚な時間を過ごします。兄を亡くしたばかりのユンは、心を病む母親の療養で両親が渡米したため、幼馴染のアガンの家に居候することに。不良少年のジェイもまた、家庭にややこしい問題を抱えていて、3人は葛藤や苛立いらだちをそれぞれ胸に秘めながら友情を育んでいきます。女性の私から見るとかなり暴力的な友情の育み方ですが(笑)なんというか、拳で分かり合う関係?
アガンの弟ダーダーを交えて4人でブレークダンスに夢中になり、ストリートデビューとか、縄張り争いだとか、およそ私には無縁の青春ドラマが展開していきます。また、何か重要なことをする前にそれをしてよいものかどうかを神仏に問うと言って、「ボエ」という赤い三日月型の木片を二つ地面に投げて、それぞれが裏と表に分かれると神仏の承認が得られたことになる風習が登場するのも興味深いですね。『流』の時と同様、台北の情景描写が非常に生き生きとしています。著者の原風景みたいなものなのかもしれませんね。

その少年たちが立てた計画の不幸な顛末が、30年後の「わたし」がサックマンの弁護を引き受ける理由に繋がっているということが徐々に分かってきます。そこに至るまでに相当のページ数が費やされているので、現在の時間軸を見失いそうになるくらいです。

「ぼく」(ユン)の人生は1984年を境に狂い出し、どう30年後の連続殺人犯サックマンに繋がっていくのかが最後に明かされていますが、運命のいたずらというか、気の毒な人生ですね。彼に殺された子供たちももちろん気の毒ですが。

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