徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:辻村深月著、『盲目的な恋と友情』(新潮文庫)

2018年02月12日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『盲目的な恋と友情』は2編構成で、主人公も二人います。第1章は「恋」で、主人公はタカラジェンヌの母をもつ一瀬蘭花(いちのせらんか)。自身の美貌に無自覚で、恋もまだ知らなかった彼女は、大学のオーケストラに指揮者として迎えられた茂実星近(しげみほしちか)と恋に落ち、人生が一変します。彼の裏切りの発覚後も離れられず、彼の指揮者としての将来が絶たれて後は加速度的に泥沼化。

この章は蘭花と茂美以外の男との結婚式から始まりますが、ほとんどのページは茂美との恋愛の描写に費やされています。

第2章は「友情」で、主人公は蘭花の親友・傘沼留利絵(かさぬまるりえ)。有名な画家の娘で、大学オーケストラのコンマスを務め、観劇やクラシック鑑賞など蘭花と芸術方面の話が唯一合う友達ですが、容姿コンプレックスから蘭花のもう一人の親友でどちらかという派手な美波とはあまり折り合いがよくなく、ある事件をきっかけに絶縁します。留利絵は自分が蘭花の一番の親友で、彼女の母親からも信頼されていること、彼女の茂美との恋愛による苦悩を自分だけがそばで支えてあげられることに価値を見出しているような、少々歪んだ精神構造を持っています。

この章もラストは蘭花の結婚式ですが、第1章で描写された部分より後の経緯が書かれています。

なかなか重い話ですが、ぞくぞくしました。

贅沢を言えば、相手方の茂実星近の語りも欲しかったですね。彼自身は、自分の師事する指揮者の妻との関係を実際どう考えていて、蘭花のことはどう思っていたのか興味津々なんですけど。

蘭花の恋愛に溺れている感じ、苦しくても離れられない葛藤もさることながら、留利絵の半端じゃない容姿コンプレックスやトラウマも綿密に描写されていて、鬼気迫る感じすらしました。

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書評:辻村深月著、『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)



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2018年02月12日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『ハケンアニメ!』は辻村深月の初のお仕事小説とのことですが、面白い!タイトルの「ハケン」の意味するところが何なのかしばらく分かりませんでしたが(笑)

とにかくアニメ制作現場に関わる人たちの胃がキリキリ痛むような苦労の末に生み出されるこだわりのアニメ作品にたいする愛がたっぷりと感じられる小説です。

伝説の天才アニメ監督・王子千晴が、9年ぶりに挑む『運命戦線リデルライト』。プロデューサーの有科香屋子が渾身の願いを込めて口説いた作品で、わがまま監督の願いを聞き入れて、脚本家を3人も降板させた末に監督自身が脚本を手掛けると言い出し、その挙句に連絡もなしにいきなり監督がバックレるという何とも胃の痛い状況からストーリは始まりす。同じクールには、期待の新人監督・斎藤瞳と次々にヒットを飛ばすプロデューサー・行城理が組む『サウンドバック 奏の石』もオンエアされ、ハケン(覇権)をとるのは、はたしてどっち?そして、両作品に関わる「神原画」ともてはやされるアニメーター並澤和奈と聖地巡礼で観光の活性化を期待する公務員・宗森周平とのちぐはぐなやり取り。

章ごとに主人公が交替する連作になってます。どれも面白いですが、特にアニメーター並澤和奈が自分の殻に閉じこもった純オタクから聖地巡礼の仕事で「リア充」の宗森周平と関わっていく中で徐々に視野を広げて認識を改めていく成長過程と、人から初めて「かわいい」と言われたことでオタク女子のねじれた劣等感が氷解するシーンがすごくいいなと思いました。

過酷な現場で薄給。アニメーターが食っていけないのは有名です。だからこそ、好きじゃなきゃやってられない、良くも悪くも「愛」のある人たちしかいない業界なんだろうなと思います。

私はアニメは作品「だけ」を楽しむタイプで、キャラクターグッズやらフィギュアやらの世界はノータッチなんで、制作側にとっては全然ありがたくないファンですね(笑)

この小説の中で作成されるような「魔法少女もの」や「ロボット」ものは全然見てないですが。。。

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