ここ何日か仕事で根を詰めていて、プライベートな時間が犠牲になっていた反動で、今日は思いっきり読書三昧しました。
久々に有川浩の文庫が出たので、早速購入した『キャロリング』。
「クリスマスに倒産が決まった子供服メーカーの社員・大和俊介。同僚で元恋人の柊子に秘かな思いを残していた。そんな二人を頼ってきたのは、会社に併設された学童に通う小学生の航平。両親の離婚を止めたいという航平の願いを叶えるため、彼らは別居中の航平の父親を訪ねることに――。逆境でもたらされる、ささやかな奇跡の連鎖を描く感動の物語。」
と背表紙の粗筋を読んで、こじれた恋愛関係と、両親の離婚の危機に直面している傷ついた少年を絡めたお話しなんだろうと思って、読みだした最初の一行でびっくりしました。
「こちらを向いた銃口にはまるで現実感がなかった。」
プロローグは不穏に始まり、「大和俊介、享年三十二――墓碑銘どうする?男は思いつくまで待つつもりはないようだった。」と不穏に終わります。
なんで子供服メーカーのしがない社員でヘタレな恋愛を見せてくれるはずの主人公がいきなり物騒な銃口を向けられる羽目になっているのか、ミステリータッチで始まる物語は、全然ミステリーでなく、いろんな立場の人たちのいろいろな生い立ちや思いを描く、「根っからの悪人はいない」的なお話しでした。
大和俊介の不幸な生い立ちや不器用なキャラと両親の別居でどちらか一方の味方になることを迫られる航平の絡みや、トラウマゆえに柊子とすれ違って別れてしまったこととか、航平の両親のやり取りとか、その辺は実にうまく描写されていて、説得力があるのですが、航平の父の勤め先である整骨院の院長のところに借金の取り立てに来るチンピラが実は気弱な使えない奴らで、とかその上司である「赤木ファイナンス」社長の選択肢のない気の毒な生い立ちとか、その辺は「どうかな」と疑問が残る感じです。少しご都合主義的なキャラ設定のような印象がなくもないような気がします。身内に義理堅く優しいやーさんが居ることは別に否定しませんし、森本梢子の「ごくせん」に出て来るような年端も行かない子供のうちに親に捨てられて、たまたまやくざに拾われたのでそのままその世界に入った、みたいな生い立ちも無くはないのかもしれません。でも、他人を陥れたり傷めつけたりしてお金を稼ぐような生業は、自己都合を優先し、他人に対する共感力にどこか欠けている人でないと続けられるものではないんじゃないでしょうか。なので、「赤城ファイナンス」の面々の行動が説得力あるようなないような、どちらかというとない方に振り子が揺れるような気がして、それゆえに物語に素直に感動できないように思えました。いろんな泣けるシーンはあるのですけど、ストーリー全体を振り返ると、「でも」というひっかかりが残ってしまう気がしました。それがちょっと残念でしたね。