徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:恩田陸著、『蛇行する川のほとり』(集英社文庫)

2018年02月13日 | 書評ー小説:作者ア行

『蛇行する川のほとり』は、作者が感じていた「少女たち」を封じ込めたいと思って書いた小説とのことで、作中でも「正しい少女」とか「少女と女のバランス」とか「すでに死んでいる少女」など並々ならぬ「少女」という存在に対するこだわりが伝わってきます。

演劇祭の舞台装置を描くために高校美術部の先輩・久瀬香澄に彼女の家での夏合宿に誘われた鞠子。香澄の家は蛇行する川のほとりにある「船着き場のある家」としてその地域では知られた建物で、10年前の不幸な事件以降空き家になっていました。その事件とは首を絞められて殺されたらしい女性がボートに乗って下流に流されていたのが発見されたというもので、未解決の事件。その事件が起きた人同じ日に近くの音楽堂で女の子が置きっぱなしになっていた工事のための梯子に上って転落死する事件もありましたが、後者は「事故」として処理されました。

この2つの事件が徐々に解明されて行きます。

第一部「ハルジョオン」は鞠子視点、第二部「ケンタウロス」は香澄の幼馴染・芳野の視点、第三部「サラバンド」は鞠子の親友・真魚子の視点、そして最後の真実を語る終章「hushaby」は香澄の視点で書かれています。

語り手は少女たちだけですが、香澄のいとこで10年前の事件を気にしている月彦と、その友達で転落死した女の子の弟でもある暁臣も香澄の家での夏合宿に参加しており、少女たちに揺さぶりをかける重要な役割を果たします。

「ハルジョオン」は、ここ2・3日に読んだ小説『キャロリング』、『島はぼくらと』にも登場していた春先の野の花ですが、正しくは「ハルジオン」、漢字では春紫苑(春に咲くキク科の紫苑)と書きます。よく似た「ヒメジョオン(姫女菀)」と混同されて「ハルジョオン」と呼ばれることが多いらしいですが、3作連続で「ハルジョオン」にお目にかかるとは思いませんでした。花言葉は「追想の愛」。

花の話はともかく、ストーリーの方は、なんと言うか、少女たちの描写に力が入った「恩田ミステリー」だなと思いました。登場する彼女たちはタイプは違えどみんな美少女。特に香澄は規格外の美少女のようですね。そういう設定がファンタジーがかってる感じがします。たまにそういう子がいることは確かでしょうが、私は実際には見たことありませんし、大部分の少女たちは顔の造形だけで言えば「やや美人」から「やや崩れてる」あたりに収まり、後は性格的なものとか雰囲気とかで「かわいい」、「優しい」、「真面目」とかに分けられるのではないかと思います。男子にチヤホヤされるタイプの子たちは大抵やや派手めで、男子とあまり関わり合いにならない少女たちは「清楚」だったり「地味」だったり。煩わしかったり、怖かったり。

作者は少女時代に自分もまぎれもなく「少女」であったにもかかわらず、その自覚がなく、自分を周りの少女たちとは別物に感じていたらしいですが、それには私も共感します。女子は色んなグループに分かれますが、私はそのどれにもぴったりと収まることがありませんでしたし、また一つのグループに属し続けるために空気を読んで回りに合わせる努力もしませんでした。かといって、確固たる自分の世界を持っていたのかと言えばそうでもなくて、その自分の中途半端さがもどかしかったと記憶してます。

第二部「ケンタウロス」の語り手である芳野は、すでに「絵を描く」という確固たる自分の世界を確立していて、鋭い観察眼で同世代の少女たちを見ているので、非常に興味深いです。

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2018年02月13日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

瀬戸内海に浮かぶ冴島を舞台にし、そこからフェリーで本土の高校に通う島で4人きりの同級生・朱里、衣花、源樹、新を主人公にした小説。これが何の賞も受賞していないのが不思議なくらいの読後感さわやかな素晴らしい作品です。青春小説というくくりだけではもったいない、島で生きる人々の逞しさや優しさや懐の深さ、美しい風景とゆったりと流れる時間が情感細やかに描かれていて、思わずそういう島に移住してみたいと思わせてしまうだけの力があります。

いわゆる過疎地ではなく、島の村長が積極的に外からの移住を助成し、特にシングルマザー支援に力を入れているため、子供も増えてきているというなかなか未来のある島です。それでも島の子供たちは本土のフェリーで通える高校に行くのでなければ、中学卒業後に島を出ざるを得ないので、親たちはそれまでの15年間を大切にしているというくだりも素敵ですし、移住者と元からの島民の間や島民同士、移住者同士でも複雑な人間関係があるにせよ、島の子供たちはみんな「うちの子たち」と見なされる共同体意識とか、こういうところで育っていれば自ずと郷土愛というものも生まれるんだろうな、と思える環境です。

そうした島の情景描写と子どもたちの友情や淡い恋心とかばかりでなく、お話の赤い糸はさる有名な脚本家の「幻の脚本」です。ある日この「幻の脚本」を求めて自称作家の怪しげな人物が冴島にやってきます。なかなかの小物ぶりの鼻につくいやな奴だったので、朱里、衣花、源樹、新の4人はこの人を追い出そうと偽の脚本を作って渡します。彼らはそんなものが島にあるわけないと思っていましたが、それが事実で、かなり身近なところにあったことがあとから意外な形で判明します。それがまた興味深いものでした。

老若男女問わずみんなにお勧めしたい1冊ですね。

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