『球形の季節』は話が見えてくるまでに少々時間がかかりますが、東北の谷津(やつ)という村にある4つの高校(男子校2校、女子高2校)で広まった奇妙な噂がなぜか真実になるというファンタジー系のストーリーです。4つの高校共同クラブである「地理歴史研究会」のメンバーが噂の出所を確かめようと4校一斉アンケートを実施します。この「地歴研」のメンバーとその友人たちが主要な登場人物ですが、視点が固定されていないため、一部「ん?これは誰の視点?」と戸惑うことも。
その世界観は、系統的には『夜の底は柔らかな幻』や『終りなき夜に生れつく』に連なる「不思議な土地」「別次元につながる場所」を題材としていて、谷津という土地ではよく行方不明者が出るという設定で、いなくなった親しい人の帰りを祈って石を拾って持ち帰り、洗って他のところに積み上げるという風習があります。多感な年頃の高校生たちがその不思議な「アレ」へ跳ぶか跳ばないかあるいは跳べるか跳べないかで振り分けられるような、奇妙な終わり方をします。
現状に満足し、「特別」を望まず、外に出たいとも思わない少女・みのりが、飛ばずに残る者を代表し、彼女が谷津に伝わる石の祈りを継承する決意を固めるところで話が締めくくられていますが、本当に誰かが居なくなったのかどうかについては明記されていません。このため読後感がすっきりせず、なんとなく不思議ワールドに放り出されたままのような感覚が残るような気がします。この不思議な余韻が恩田陸らしいと言えばそうかも知れません。