詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

ひんやりの思い出

2019年07月24日 | 
冷たいもの
長ネギ
ボタン

ボンレスハムを巻き付けるタコ糸のように、ぎゅうぎゅう詰め込んだショッピングバッグを肩にかけると、ひんやりとしたものが頬にピタリと触れた。不意打ちのキスでもされたように、年甲斐もなく恥じらい、慌てて両手で持って遠ざけると、外に飛び出している長ネギの、つるりとした白い肌だった。

日が傾き始めた日曜日。テレビも音楽も鳴っていない部屋で、ひとり洗濯物を畳んでいると、ひんやりするものが指に触れた。幸福な場所を信じさせてくれた父がいなくなってみると、まるで魔法が解けてしまったように、家族は灰色じみて、何より、わたしの無力を知らされる。そう思って、同じ色に染まって、ぼんやりしていた。触れたのは、柔らかく手が埋もれるウールの白いポロシャツの。胸もとを律儀に留めていく貝ボタン。

尖った冷たさでなく
こちらに寄り添う温度差で
触れてくるのはどちらも
夏になっても
ひんやりしている媒質に
包まれていたものだから
土と水と。


冷たいもの
ノート

何も書けない、と倒れこむ頬の下の白いページ。書くべきことなどないように思っても、音楽のように風景が流れ続ける。なぜか少し翳りのある。電気をつけずにいて、ふと部屋の暗さに気が付いたとき。母が買い物から帰ってくるのを待っていた。ひんやりは幼い頃の楽しいぜいたくだったから。

セミの騒がしさが屋内のしずかさを印象づけるように、夏はひんやりに触れた思い出の季節だから。



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