1.治療手術のための入院(12月15日~21日)
(1)どこを、どう、安全に切除(剥離)するのか、検査段階で詳しく説明を受けているので全くではないが、さして不安はなかった。
当日は、点滴の他に、手術室でマウスピースを口に銜え、酸素吸入器具、心電図用の電極等も取付けられた。
姿勢は、検査時と同じ左横向きで、バンドで体を固定され、口元には吐血、嘔吐に備えての容器等も備えられ実に異様な感じだった。
こうして、学術的には「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)と称する手術を12月16日に受けた。
(2)手術・検査に関する説明受と同意書の提出
事前に一読しておくよう指示され、実施日の前に担当医から概要説明もあった。説明資料の表紙には、自筆署名欄があり、検査の度にその同意書にサインした。因みに、初診以降説明を受けた手術・検査資料内容の要旨は下表のとおりである。
(3)無痛無意識、束の間の患部剥離手術
部屋の時計は12時20分を示していた。聊か大袈裟だが、12月16日は、生まれて初めて、小なりと雖も体内にメスが入り、臓器の一部が切り取られた記念すべき日でもあった。程なく全身麻酔が行われ、N医師から「そろそろ眠くなりますよ・・・」と声をかけられたところ迄は記憶がある。しかし、その後のことは全く覚えがない。
表現が適切ではないかも知れないが「案ずるより産むが易し」の思いがした。
「もう終わりましたよ・・」と看護士に体を揺すられ、声をかけられて初めて手術の終りを知った。手術室とは別の部屋に寝かされていた。
「起き上がるのは未だ無理です。ふらつき感がなくなったら起き上がっても大丈夫です・・」と係の看護士に指示された。意識はもうしっかり戻っていた。
部屋の時計は既に3時半を過ぎていた。後で聞き知ったのだが、手術時間は約1時間ほどだったとのことだった。
(3)予定通りの手術結果
手術直後、妻は別室で、N担当医から剥離した現物を見せられ、「手術は予定通り無事、何の懸念もなく終了した」こと。「患部を含む約2cm四方の赤黒い粘膜(ケース入り)を浅く剥離した」こと等についての結果説明を受けていた。
妻の感想は、「経験豊富で親切な先生の世話になってよかった・・でも、血が付いた生々しいケース入りの粘膜をよく見る気にはとてもなれなかった・・」とのことだった。
2.術後の懸念・関心事
(1)出血と痛みの有無の確認
手術後当方は、剝ぎ取られた患部跡(傷口)からの出血はないか、痛みが出ないか心配だった。担当医にもその関心はあったようだ。
その理由は、当方が、7年前頃から持病の「心房細動」に伴う血液さらさら薬(イグザレルト)を服用中のため、少しの出血があっても血が止まりにくい体質になっているからである。
術前2日前頃迄に服用を止めれば、手術中の血の止まりは良くなる。しかし、その場合は、何かの「きっかけ」で、血行不良に伴う脳梗塞等のリスクを生ずる虞があることをN担当医も懸念しておられた。
N医師の判断は、「同薬の服用は続けさせる。手術直後に所要の止血処置をする。もし、手術中に予想以上の出血がある場合は被膜処置をする」方針であることを事前に聞いていた。
出血が進行中か止まったか、それは排便の色で判るとのこと。このため、ナースステーションのチーフから排便後は「看護士が便の状況を直接確認した後に流す」よう指示されていた。
(3)便の色・状況の変化
術後の翌日点滴も終了、2日目朝から潰瘍5分粥食で食事出来るようになった。その日初めて出た排便は「イカ墨のように真黒でゼリー状」だった。手術時の出血が便に混じって酸化した証拠であり、その状況の継続は「傷口からの出血継続のサイン」だと知らされた。3日目、2度目の排便時は色も灰色に変わり、4日目は概ね普通の便色になっていた。時折下腹部付近で感じていた「チクチク感」はこの時点ではなくなっていた。
こうした状況は、ナースセンターから担当医に定時的に報告されていたようで、毎夕回診に来られているN担当医から、12月20日の夕「出血も止まり何の懸念もないので予定どおり、明日退院Okです」との許可を受けた。
(4)ピロリ菌の処置に関する二人の医師の診方の差
前病院のM医師(消化器科担当部長)は、胃の手術後、然るべき時期に除菌治療(特定薬の服用―約1週間)をした方が良いとの意見だった。
この点に関し、退院前日の面談時にN担当医に尋ねたところ「その必要はない」と明確に否定された。「確かにピロリ菌は、“がん”を含む胃病の原因になることは確かだが、それが胃病の全ての原因ではない。今日、統計上も高齢世代のピロリ菌罹患率は約80%になっている。
この菌が、胃酸を中和して胃壁に潰瘍を作る迄には何十年もの年数を要する。80代の貴方が、余生の間にピロリ菌が原因で胃潰瘍等になることはまず考えられないので、退院後除菌治療を受ける必要はありません・・」との説明を聞いた。
さもありなんと説明受の時点では納得したものの、「果たして本当にそうなのか」疑問は今も残ったままだ。
3.退院予定患者・家族に対する食事管理説明受け
退院予定の2日前、専属の栄養管理士による食事管理説明会に出席した。この説明会は、退院予定患者と家族をまとめて概ね毎週行われているとのこと。術後の食事管理に失敗し、再入院を余儀なくされる患者も中にはいるとの事例紹介もあった。
患者にとって、摂取が望ましいもの・避けた方がいいも別に、列挙された夫々の飲食材の功罪について詳しい説明があった。
胃癌治療受けの患者は、特に、アルコール類・生もの(刺身・寿司類等)・刺激性の強いもの・熱い飲み物等は最低一ヶ月程度は慎むのがベターだとの指導もあった。
元々胃腸がそんなに丈夫でない当方はその指導を守り、今も続けている。
4.検査・治療入院諸費用
地元クリニックでの胃カメラ検査、前病院での諸検査費等を含む検査・入院費は、概算約10万円位(自己負担分)だった。このうち、国立がんセンター病院での諸費用は、下表のとおりである。
低コスト負担で「がん」対処が出来たのだから保険適用の有難さに感謝である。
しかし、当方の入院諸費用にも、年々増える国の医療保障費(H27年度約9.4兆円)が適用されていることを思うと、正直何だか申し訳ない心情である。
5.退院後の予定と心得
年明けてH29年1月13日、術後初の検診を受けた。問診のみの診断で、次回2月23日に内視鏡による検査(病変の跡の回復状況等の確認)を受けることになっている。
その検診結果に関わらず、本年12月16日(術後1年)には最後の内視鏡検査がセットされている。その時点で異常なければ、晴れて当方の胃癌は最終的に完治したものと看做されるのだそうだ。
剥離手術で当面の「悪玉細胞群」を潰すことは出来た。しかし、真の判定は未だ先である。12月の最終検診で、その「がん敵」が完全に除去されたとのエビデンス(証し)が得られることを切に期待している。
だから、その最終判定が得られる迄は、体内冷戦はなお続くと自覚している。
それ故に当方は、N担当医はじめ世話になった院内関係各氏のアドバイスを今後も忠実に順守し、「先の長い冷戦に勝利」出来るよう今後とも的確な自己管理を続けたいと願っている。