2、Kさん伝授の漢詩「莫生気」の全文は以下のとおりだ。
人 生 就 像 一 場 戯 因 為 有 縁 才 相 聚
相 扶 到 老 不 容 易 是 否 更 該 去 珍 惜
為 了 小 事 発 脾 気 回 頭 想 想 又 何 必
別 人 生 気 我 不 気 気 出 病 来 無 人 替
我 若 気 死 誰 如 意 況 且 傷 神 又 費 力
鄰 居 親 朋 不 要 比 家 庭 小 事 由 他 去
吃 苦 享 楽 在 一 起 神 仙 羨 慕 好 伴 侶
3、概略の意味は以下のとおりだ。
人生は一幕の劇のようなものだ
縁あったが故に一緒になって今日に至った仲なのだ
だが、お互いに支えあって老いてゆくのは容易ではない
とは言え、だからこそ互いに労り大切に生きて行こう
日常の些細なことで気持ちを荒げたりしてはいけない
後で思い返せば、そんな必要も無かったと思うものだ
他人が気持ちを荒げても、自分は腹を立てないでいよう
腹を立てて病気になっても誰も、代わってはくれないから
もし私が怒り狂ったとしても、そんなことは誰も気にかけない
だから自分が気持ちを荒げれば、自分が傷つき無駄骨を折るだけだ
ご近所や知り合いと自らを比べてみても仕方なかろう
子供や孫のことにあれこれ口を挟まないように心していよう
苦しみも喜びもお互いに分かち合い、
神様さえも羨むような良き伴侶であり続けたいものだ
4、上記のような「怒り」に関する訓言は、わが国にもあるにはある。
例えば、「健康十訓」の中には「少憤多笑」、「人生五訓」には「・あせるな、・おこるな、・いばるな、・くさるな、・おこたるな」の戒めがあるし、徳川家康の「人生訓」の中には「・堪忍は無事長久の基、怒りは敵と思え」などの訓言もある。
しかし、前記の「莫生気」のように、「怒り」そのものをテーマにした人生訓は、やはり中国独特の国民性や風土に由来して伝えられて来たものだろう。
ところが、前記Kさんの話によれば、中国でも古くから伝えられている「莫生気」も時代の変化で人口に膾炙されなくなりつつあり、若い人はあまり知らないだろう・・とのことだ。
洋の東西を問わず、これも当然の時代の成り行きなのだろうか。いずれにしても、格言とか人生訓は、時代を超えて語り継がれる「普遍性」と「説得性」がなければ、訓言としての価値も薄らいで行くのではないだろうか。
その点では、大先輩から教えられた本稿の「莫生気」も傾聴に値する名句であることは確かだ。けれども、若い頃から「人のあるべき生き方」を教え込まれて来たKさんが、今も大切にしているこの「莫生気」の人生訓が、中国大躍進の時代の波の中で次第に失われつつあるとすればそれは、隣邦の友として、とても寂しくて残念なことである。
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