MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2425 低金利政策は誰のため?

2023年06月15日 | 社会・経済

 日銀は6月15、16日の二日間、金融政策の方針を検討する定例の「金融政策決定会合」を開くと発表しています。

 報道によれば、会合では物価高が国内経済にもたらす影響や、大規模金融緩和の長期化に伴う副作用などを点検するとのこと。消費者物価の高騰を踏まえ米国を中心に先進各国が金融引き締めに走る中、長短金利操作を柱とする現在の緩和策に言及するに至るのか、市場関係者が注目しています。

 植田日銀総裁は総裁就任以来(しばらくは)粘り強く金融緩和を続ける姿勢を示しています。しかし、(もはや日本だけともとれる)低金利政策の継続やそれがもたらす円安が、政府・日銀が目指す2%の物価安定目標の実現や経済の好循環に本当に好影響を与えるのか。この機会にぜひ、腰を据えた議論を行ってもらいたいと感じるところです。

 そもそも、古典的な経済理論に基づいた「低金利→消費の拡大→安定成長」という図式は、実のところ「絵に描いた餅」に過ぎないのではないか。実際、ここ20年余りも続けてきた日本のゼロ金利(場合によってはマイナス金利)政策が、本当に景気にプラスの影響を与えてきたのかどうかが検証された気配はありません。

 一般国民の感覚から言っても、「景気が良い=金利が高い」というイメージの方が強いはず。貯金を食いつぶしながら暮らす高齢者や少ない給料をコツコツ貯めている(ごく普通の)サラリーマン世帯にとって、100万円定期に預けても100円しか利息が付かなければ、安心して大きな買い物などできないのが普通です。

 「黒田バズーカ」の栄光を名残り惜しむかのように日銀がこだわり続ける低金利政策について、6月15日の経済情報サイト『現代ビジネス』にGINZAXグローバル経済・投資研究会代表の大原浩氏が「日本衰退の原因は低金利、発展のために金利を引き上げるべきだ 二極化も老後不安も低金利のせい」と題する興味深い論考を寄せているので、備忘のために小欄に概要を残しておきたいと思います。

 「金利引き上げ」は最終的に日本経済を成長させるカギとなる。少なくとも現在の日本の発展のためには「利上げ」が必要であり、(一時的な混乱や景気の低迷があったとしても)長期的には利上げこそが日本を発展させる力の源になると、大原氏はこの論考に綴っています。

 (超)低金利というのは一種の麻薬のようなものであり、使い続けていれば、それなしには生きていけない不健康な体になってしまう。現在の日本経済はまさに低金利という麻薬に依存しており、金利を引き上げることによってそれらの「患部」を「除去」しなければ「健全化」は図れないというのがこの論考における氏の見解です。

 低金利は、借り入れ側の企業などには有利だが、預貯金を行う国民の側からすれば「富を奪われている」ということになる。言うまでもなくそれは、国民が「本来もらえるべき金利を受け取ることができない」状態に置かれているということだと氏は言います。

 低金利政策によって「借り手」は大いに潤ったが、預貯金を中心とした資産を持つ国民は富を奪われてきた。「国民が本来受けとるべきであった富」が低金利で奪われる一方で、低金利の「借金」で大儲けしたのが、企業(事業を行う個人)と「バブル投資家」だというのが氏の認識です。

 融資を受ける立場の企業は、いわゆる「ゼロ金利政策」で「タダ同然」の資金を湯水のごとく調達できた。これは大きなメリットで、近年の不動産などの投資市場のバブルも(超)低金利によって引き起こされたものだと氏は話しています。

 (IT・インターネット)ベンチャーバブルも同じこと。大多数の国民が預貯金などの低金利で富を奪われる一方で、低金利によるバブルで大儲けした人々が存在するということです。

 金利を上げることで、そうした「本来もらえるはずの金利」を国民が再び手にすることができるようになる。これによって、市場が活性化し国民の老後不安も大幅に減少すると氏は言います。

 企業への融資や住宅ローンなどの「借り手側の都合」で金利引き上げは忌避される傾向があるが、「高金利」は特に、コツコツと(老後のための)預貯金を貯めている一般国民の大きな安心感につながるというのが氏の指摘するところです。

 「老後2000万円問題」というものが一時期話題になったが、実際のところ(2000万円の貯蓄があっても)65歳で定年し毎年100万円ずつ取り崩していけば85歳でゼロになってしまう。現在の日本人の平均寿命を考えれば、2000万円でも不安に駆られるのは当然だと氏はしています。

 しかし、例えば、かつてはそれほど高くなかった5%でも利息が付けばどうなのか。そうなれば、元本を取り崩さなくても毎年100万円もの利息が(年金の他に)手元に入ってくる。もちろん、インフレ分は考慮しなければならないが、それでも「老後不安」の多くが解消されると思うというのが氏の感覚です。

 なお、そこで大切なのは、「インフレ率を上回る金利」を維持することとのこと。2022年度の消費者物価上昇率は3%であったが、これを上回らなければ実質的な「マイナス金利」となり、それだけ「国民の富」が失われるということです。

 さらに、高金利のメリットはそれに留まらない。(心理面から言って)国民もまた、利子という一種の「不労所得」は思い切って使うだろうと氏はこの論考で指摘しています。

 預金を頼りに暮らしている人は、ほとんど金利がつかない預貯金を取り崩すことには大きな抵抗がある。しかし、利子収入であればもっと(ずっと)気軽に使える。不労所得である利子収入は(予定外の「もうけ」として)、労働などによって得られた所得よりも景気浮揚効果が高ということです。

 さて、なるほど言われてみれば、ゼロ金利でメリットがあるのはお金を借り入れて投資をする企業や一部の人ばかり。(額に汗しながらコツコツと貯金を積み上げてきた)一般国民の感覚では「金利の引き上げ」は「金融引き締め」ではなく、これまでの努力が報われる政策として、(少なくとも政治的には)歓迎される存在となり得るかもしれません。

 例え虎の子の貯金であっても、そこに多少の利息が付くなら孫に小遣いの少しもあげたくなるもの。「低金利は消費を促し経済を活性化させる」とする専門家の話に多少の違和感を抱いていた私としては、この論考における大原氏の指摘に「さもありなん」と膝を打ったところです。



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