MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1086 そこのお醤油とって…

2018年06月07日 | アート・文化


 キッコーマンから販売されている「しょうゆ卓上びん」が、3月30日付で「立体商標」に登録されたとの報道がありました。

 立体商標制度は、立体的な形状を「商標」として登録し保護する制度です。日本では1996年に導入され、これまでに「アディダスの運動靴(三本のライン入り)」やケンタッキー・フライドチキンの「カーネル・サンダース人形」などが登録されてきたということです。

 なで肩で赤い注ぎ口を被ったその形だけで(醤油の)香りまで伝わってきそうなこの醤油刺しは、1961年(昭和36年)に世に出て以降、実に半世紀以上にわたってお茶の間の(さりげない)必須アイテムとして親しまれ、認知されてきました。

 この瓶を見て、お刺身や焼き魚などの並んだ食卓を思い出さない日本人はほとんどいないと言ってもよいかもしれません。「ちょっと、そこのお醤油とって…」と言われれば、誰もがこの瓶を手に取るはずです。

 大きさや重さと言い、手に取った際の感じと言いまさに絶妙で、どのくらい傾ければどのくらいの量が注がれるかを、日本人の多くが身体で理解していると言っても過言ではないでしょう。

 キッコーマンによれば、開発当時、しょうゆ差しは液切れが悪く垂れてしまうものが多くあったそうです。そこで当時の開発担当者が、新進の若手デザイナーであった榮久庵憲司(えくあん・けんじ)氏に依頼。「持ちやすく、液だれしにくく、倒れにくい」三拍子そろった卓上びんのデザインに取り組み、試行錯誤の上誕生したのがこの醤油刺しだったとされています。

 また、その一方で、デザインにあたっては(機能面ばかりでなく)当然ながら「美しさ」も重要な要素であったということです。

 卓上に置いたときにデザインとして美しいものであること、容器はできるだけ透明にし醤油の色を美しく見せると同時に残量が一目でわかるようにすること。さらには、女性が卓上びんの首を持って注ぐ際、手がきれいに見えるようにすることなどをデザインのコンセプトにしたということです。

 これまで、立体商標に認められてきたものの多くは、「文字」や「ロゴ」などの図形が印刷されていたということですが、今回の「しょうゆ卓上びん」については、文字などがなくても“キッコーマンの卓上びん”と認識できることが認められた数少ない事例だとされています。

 4月23日のYahoo newsに掲載されていた弁理士で金沢工業大学客員教授の栗原潔氏の解説(「キッコーマン醤油容器が高いハードルを越えて立体商標登録」)によれば、立体商標として商品または容器形状そのものを立体商標とする場合、商標登録へのハードルは非常に高くなるということです。

 商標権は更新料さえ払えば永遠に権利を存続できる強力な権利であり、一般的な形状を特定の企業に独占させてしまうと弊害が大きい。なので、長年の使用により消費者(需要者)に対して強い識別性を発揮している形状でなければ、一般に立体商標としては登録されないということです

 このため、これまで(こうしたハードルを乗り越えて)形状のみで立体商標登録されたのは、「コカコーラのボトル形状」や「ヤクルトの容器形状」などのいくつかの例しかないと栗原氏は説明しています。

 ちなみに、形状のみでは立体商標登録できなかった例としては、福岡のひよこ饅頭やサントリーのウィスキーの角瓶などがあるということです。「ひよこ」はいったん登録され無効審判もクリアーしたものの知財高裁で逆転、角瓶は結局商品名を入れた状態で立体商標登録したとされています。

 デザインを見ただけで商品イメージが浮かぶものとしては、例えばBicのライターやボールペン、ジッポのライター、レイバンのサングラス、ジープやフォルクスワーゲンなどの車たちなどの(いわゆる)工業製品がまず思い浮かびます。

 もっとシンプルなものでは、手持ち棒の付いたチュッパチャプスやチョコレートのキットカットの意匠などを思い浮かべる人もいるかもしれません。

 一目で「それ」とわかるアイテムが生活や文化に溶け込み、(場合によっては)時代背景や生活水準、使う人の性格やものの考え方までをも示すアイコンとして機能する。

 優れたデザインというものには、単なる機能や美しさを超えたそうした不思議な力がこもるものだということを、慣れ親しんだ醤油の瓶の姿から改めて感じさせられたところです。




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