クロ現でやっていた桐野夏生さんの作品を読んでみたので感想を書いてみたい。
※最近この手の記事が増えているのは感想をどういう切り口で描くのがよいかという試行錯誤のためである。
・あらすじ
お弁当屋の工場の夜勤で働く4人。
年かさのヨシエ、しっかり者の雅子、自堕落な邦子、気弱な弥生。
それぞれに問題を抱えながらも工場で働いていたが、
アクシデントで弥生が夫を殺してしまう。
どうてんした弥生は雅子に相談したところ、死体を分割して分からないように各地に遺棄し罪を逃れるようにすることを進言された。
一見非常識な判断だが、雅子は弥生を救うため、ヨシエと邦子は金のために
その手伝いをすることに…
なお、本編中では一人称を語る人間が何回か変わるが、
一番出番が多く、小説終了視点で一人称視点を語る雅子を主人公とみてよいだろう。
・人間関係の危うさ…仲間とか
最初は仲の良い仲間4人という文脈で始まっていたが、ヨシエは姑の介護と娘の進学費用の捻出に苦心、雅子は家族との関係が冷え切っており、邦子は借金で身を滅ぼしかけているなどそれぞれ問題を抱えており、ヨシエにせよ邦子にせよ、金のためなら犯罪にでも手を染めるし、ヤクザ側にでも寝返る、というような関係性で、話が進むに従って誰が誰の味方なのかが分からなくなってくる。
先のことが分からない、ということなので小説としての面白さといえる。
しかし、邦子という人物は擁護する全然ないクズみたいな性格(私見)で、彼女主体のパートは結構胸糞が悪かった。酷い退場の仕方をしたが、何も感じなかったし。関係ないが、ルックスはYAWARAにでてきた邦ちゃんがさらに歳を取って太ったようなものを想像した。
・人間関係の危うさ…家族とは何か
ヨシエ、雅子、弥生の3人には家族がいる。
が、この小説における"家族"は、それぞれを支え、救う存在というよりは
一方的に彼女らから搾取したり足を引っ張ったりする"枷"として描かれている。存在が重荷なのに、"家族だから"という理由一つで切り捨てることもできない。生活の余裕の無さでいうとクソ娘1の金の無心&まとも娘2の学費&姑の介護という意味で恐らくヨシエが一番と思うが、この人の必死さを見ていると、時には家族は邪魔でしかない存在になることがあるんだということ、世の中の一定の人間はそういう思いを抱きながら家族と付き合っているのだということを思った。
また、これくらい金に困る生活をしていると、金一つで非常識な犯罪にも手を貸してしまうということが実感として分かった。
たまたま、自分の身の回りにはそういう人がいないが…
・人間関係の危うさ…解り合う…ニュータイプ?
ネタバレになるのであまり書けないが、雅子以外の3人は終盤は退場する。
そこで雅子はとある人物に命を狙われ危険な目に遭うが、
それと同時にその人物と言外に心を通わせるシーンがある。
これは、前の段落で描いていた"家族は枷になりうる存在"の対極として描かれていたと思う。全体的に救いに乏しいストーリーだが、仲間でも何でもない人間に"自分の心を理解してくれる存在"という救いが。
それは誰のことだったか。
あなたにとって大切で救いとなるのは誰か。あなたのことを縛る枷は誰か。
そんなことを思わせた。