<旅愁>
一分六十秒を区切って断続する
電気時計のはねる様なリズムが
いつか長針と短針を重ならせ
午前零時の高原の風が
薄汚れた駅の待合室を吹き抜ける
透きとほった空の果に
私の孤独をこだまさせて
チカリと 風が光って消えた
明け方の汽車を待つ・・・ ・・・
それが希望といえようか
だが 私は
旅人の哀愁を
満足したセンチメンタリズムで噛みしめる
いらだたしくこみあげる不安を
悲しいあきらめで包む時
他国に旅する淋しさが
小さな夢をつくるのだ
六十秒を区切って動く
あの電気時計のリズム・・・ ・・・
一分毎の静止の間に
せわしなく旅の一時の
はかない夢の足音が聞こえる
1949年6月5日
センチメンタリズム⇒いたずらに感傷におぼれる心理的傾向・態度
理性や意志よりも感情を重視して、詠嘆や悲嘆を強く表現したもの。感傷主義。