ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【中沢さんからの手紙】難波先生より

2019-03-26 11:25:52 | 難波紘二先生
【中沢さんからの手紙】
 久しぶりにロンドンの中沢和江さんから、お手紙を頂いた。要点は3つあって、順不同で転記すると、
① 谷崎潤一郞はノーベル文学賞の候補にはなったが、受賞はしていない、というもの。
 これは私の誤記(「買いたい新書」の「日本ミステリー小説史」の評文中の記載)で、日本のノーベル文学賞受賞者は、これまでのところ、
1968年:川端康成、
1994年:大江健三郎、
の二人だけです。間に1970年、三島由紀夫の割腹自殺が入ります。
この件は私の勘違いでしたので、お詫びして訂正いたします。

②「処方」と「時効」がともに英語で「prescription」と表記されることについて。
「OED」(オックスフォード英語辞典)によると、「時効」の初出は1449年であるのに対して「処方」の初出は1568年であり、処方→時効という言葉の発生は考えにくい、とのこと。

 私は辞書の受け売りのような権威主義が大嫌いです。Prescriptionがラテン語のpraescriptioに語源をもつことは、どの英語辞典を見てもはっきりしています。
 ところが「AED」(アメリカ大学辞典=American College Dictionary)を見ると、prescriptionには4つの意味が載っており、第1が医学用語の「処方」、第4が法律用語の「時効」となっています。さらに「コリンズのラテン語・英語辞典」を見ると、「praescriptio」に処方・時効という意味はなく『序文、命令、規則』の意味をもっています。
 それとは別に「usucapio」という女性名詞があり、「使用による所有または獲得」と説明されており、これが「時効」の概念に近いと思います。似た言葉にusurpo(所有に入れる。立ち入る)という法律用語があります。Usuは英語のuse(使用する)の語源だと思います。
 つまり法律語の「時効」の概念に「持ち主の不使用ないし管理義務放棄がある場合に、一定の期間を置いて不動産が使用者のものとなる」というusurpoという言葉が当てられているのが、説明可能となります。

 私の知る限りモリエール「いやいやながら医者にされ(Le medicine malgre lui)」(岩波文庫:原著は1666年刊)と「病は気から(Le malade imaginaire)」(岩波文庫、原著は1673年刊)に処方・処方箋という言葉が出て来ます。

 医学は科学であり、用語には伝播性と連続性があるので、医書がラテン語で書かれていた時代から「処方」という用語には連続性があると思われます。カルテや薬剤師がいつ出現したのか、今はわからない。

 これに対して法学における「時効」という概念と用語は、ローマ法の時代、教会法の時代、国民国家の形成と慣習法やコモンローの影響で大きく変わったので、ラテン語も当初のUsucapioからPraescriptioに変化した可能性があります。
 これについては手許の法哲学や西洋法制史の本を調べて見ましたが、「時効」の推移については載っていません。
『時効』を意味する言葉が、患者を治療する医者の言葉になるなど、私には考えられません。

③ 「ユートピア」に対するディストピアのディス(Dys-)は「悪い、困難な、病気の」を意味するギリシア語の接頭語だというご指摘。

 これはそのとおりだと思います。医学では赤痢をdysentery (enteronは腸を意味する)、読字不能症をdyslexia、消化不良をdyspepsiaと呼びます。Dys-の付く言葉は、大矢全節「英和医学辞典」(金原出版)では5頁にわたり載っています。
 医学が病気の人を治療する学問である以上、健康の反対である病気に対してdys-という言葉を前に付けるのは当然でしょう。
 私が述べたのは日本では最近、「ディストピア(dystopia)」、「ディストピア小説」という言葉が流行っているが、反理想郷、反ユートピアの意味で使われている(「現代用語の基礎知識 2018」)。
 トマス・モアの「ユートピア(Utopia)」のタイトルは「どこにもない国」を意味しているのに、日本では『理想郷』の意味になっている、ということを指摘しただけです。

 もうこういうペダンチックな話はいいかげん止めにしたいものです。
 立場を変えて、貴方のメールが何らかの具合で私に送られ、それに対して私がいちいち細かいところの誤りを指摘したら、貴方は一発で参りますよ。

(無断転載禁止)

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