【国民栄誉賞】井上靖の小説「比良のしゃくなげ」は、解剖学の大家で、ある有名大学の名誉教授である主人公のモノローグで成り立っている。同じ大学から元の同僚が文化勲章の受賞者に選ばれ、弟子が「受賞祝賀会」での祝辞を依頼してくる。老教授は自分の業績の方が当然受賞に値すると考えていて、嫉妬心と自負心から祝賀会出席と祝辞を拒絶する。
これに限らず、文学の賞とか、国民栄誉賞などもみな同じだろう。死後授賞なら、嫉妬する方が先に死んでいたり、「自分も死んだらもらえるかもしれない」と思うからあまり問題にならない。
文化勲章が芥川賞なら、国民栄誉賞は直木賞か…
国民栄誉賞は芸能人の場合は、ほどほどの年齢に達して与えられるから、「晩節を汚す」事態にはあまりならないからよいが、スポーツの世界は体力的ピーク年齢が早いから、引退後も30~40年も生きることになる。もらってからが大変だ。「そんなもんいらん。もろたら立ちションベンもできんようになる」と断った選手もいるそうだ。
あれは、ちゃんとした年金などが付いているのだろうか?
イチローは「今は現役だからいらない。もらえるのなら引退後にもらいたい」と断ったそうだ。
松井は引退と授賞が同時になった。長嶋だけでは政権の人気取りの役に立たないと安倍首相が判断したのだろう。
しかし38歳、先が永いなあ。
諸岡達一『死亡記事を読む』(新潮新書, 2003)を見ると、「元プロ野球選手は寂しい」という章がある。著者は元毎日新聞記者で「死亡記事アナリスト」と名乗っている。野球が好きで野球選手の死亡記事はぜんぶ切り抜いてあるそうだ。
これを見るとスポーツ選手が若死にした場合は別だが、応分の歳で「つつがなく」死去した場合の記事は、扱いが小さい。スポーツ欄にしか載らない場合が多い。
ひと昔は、引退後の選手が犯罪にかかわり、スキャンダル記事が出ることがあったが、最近は見かけない。
病院勤務の頃、「こっちが授業料をもらいたいような医者が、カープの新人と同じ額の年俸をもらうのはおかしい」と院長が息巻いていたことがあった。しかし医者の給料はあまり上がっていないが、プロ野球選手の給料は医者の何倍にもなった。それだけ観客動員数の増加やテレビ放映などによる球団収入が増えたのであろう。
小説「死霊」を30年以上書き継いだ埴谷雄高や親子二代にわたり、新群書類従である「広文庫」を編纂した物集高量(もずめたかかず)は、前者は晩年、後者は一時、生活保護を受けたが、もともと文化的功績の割に経済的報酬がなかったから、あまり意外な気はしない。
現役の時に華やかであればあるほど、引退後(定年退職後といってもよい)の生活が落ち込むと、みじめに感じるだろう。
上述の賢人ソロンは、アテネの法を制定すると、アテネ市民に「100年間は法を変えないこと」を約束させて、10年の休暇を取り、他の都市に頼まれて法を制定する旅に出た。ソロンが小アジアのリディア王国の首都サルディスを訪れると、そこのクロイソス王は王家の宝物庫をソロンに見せ、「この世で一番幸せな男は誰だと思うか?」と訪ねた。
密かにソロンが自分を一番幸せだということを期待していたクロイソスは、「それは沢山の息子を立派に育て、人並みに裕福な暮らしを送り、アテネが隣国と戦ったおりに、敵を壊滅させ見事な戦死をとげた一市民テロスです」と答えた。王が「では二番目に幸福な人は誰か?」と尋ねると、女神ヘラの祭礼に間に合うように、母親を乗せた牛車を引いて長距離を神殿まで駆けつけ、それに感動した人々が祝宴を催したところ、飲み食いしたあげく寝入ったまま息絶えた二人の兄弟の名をあげた。それを聞いて、「わしの幸福には何の価値もないと申すのか!」と王は怒り出した。
ソロンは平然として、「生きている人の幸福はすべて偶然によるものです。されば人は生きているうちは幸運な人とはいえても、誰も幸福な人とはいえなのです」と答えた。これはヘロドトスが『歴史』(岩波文庫)の第一巻に記している。
やがてリディア王国はクロイソスの在位14年目に、ペルシアのキュロス王に滅ぼされ、抵抗したクロイソスは火あぶりに処せられる。薪束に火がついたとき、ソロンの言葉を思い出したクロイソスは、胸も張り裂けんばかりの大声で、彼の名を三度呼ぶ。
不審に思ったキュロス王が、火を消させ、クロイソスを火刑台から降ろし、わけを聞くと、「その賢人こそ、わしが会うてみたいと思っていた人だ」と処刑の中止を命じ、助命を行う。このあたり、ドラマチックな要素が満載で、やはりヘロドトスは「歴史の父」とよばれる由縁である。
(プルタルコス『英雄伝 2』, 岩波文庫, 1952の「ソロン伝」にも同様の話があるが、河野与一訳がよくないのか、プルタルコスの文章が下手なのか、ヘロドトスにはとても及ばない。)
…というわけか、文藝春秋編『見事な死』(文春文庫, 2008)に載っている元スポーツ選手は、ジャイアント馬場、貴乃花(双子山親方)、仰木彬(元西鉄監督)、村山実と早死にした人ばかり。団体で国民栄誉賞をもらった女子サッカーの人たちなんか、行く末が気になるなあ…
これに限らず、文学の賞とか、国民栄誉賞などもみな同じだろう。死後授賞なら、嫉妬する方が先に死んでいたり、「自分も死んだらもらえるかもしれない」と思うからあまり問題にならない。
文化勲章が芥川賞なら、国民栄誉賞は直木賞か…
国民栄誉賞は芸能人の場合は、ほどほどの年齢に達して与えられるから、「晩節を汚す」事態にはあまりならないからよいが、スポーツの世界は体力的ピーク年齢が早いから、引退後も30~40年も生きることになる。もらってからが大変だ。「そんなもんいらん。もろたら立ちションベンもできんようになる」と断った選手もいるそうだ。
あれは、ちゃんとした年金などが付いているのだろうか?
イチローは「今は現役だからいらない。もらえるのなら引退後にもらいたい」と断ったそうだ。
松井は引退と授賞が同時になった。長嶋だけでは政権の人気取りの役に立たないと安倍首相が判断したのだろう。
しかし38歳、先が永いなあ。
諸岡達一『死亡記事を読む』(新潮新書, 2003)を見ると、「元プロ野球選手は寂しい」という章がある。著者は元毎日新聞記者で「死亡記事アナリスト」と名乗っている。野球が好きで野球選手の死亡記事はぜんぶ切り抜いてあるそうだ。
これを見るとスポーツ選手が若死にした場合は別だが、応分の歳で「つつがなく」死去した場合の記事は、扱いが小さい。スポーツ欄にしか載らない場合が多い。
ひと昔は、引退後の選手が犯罪にかかわり、スキャンダル記事が出ることがあったが、最近は見かけない。
病院勤務の頃、「こっちが授業料をもらいたいような医者が、カープの新人と同じ額の年俸をもらうのはおかしい」と院長が息巻いていたことがあった。しかし医者の給料はあまり上がっていないが、プロ野球選手の給料は医者の何倍にもなった。それだけ観客動員数の増加やテレビ放映などによる球団収入が増えたのであろう。
小説「死霊」を30年以上書き継いだ埴谷雄高や親子二代にわたり、新群書類従である「広文庫」を編纂した物集高量(もずめたかかず)は、前者は晩年、後者は一時、生活保護を受けたが、もともと文化的功績の割に経済的報酬がなかったから、あまり意外な気はしない。
現役の時に華やかであればあるほど、引退後(定年退職後といってもよい)の生活が落ち込むと、みじめに感じるだろう。
上述の賢人ソロンは、アテネの法を制定すると、アテネ市民に「100年間は法を変えないこと」を約束させて、10年の休暇を取り、他の都市に頼まれて法を制定する旅に出た。ソロンが小アジアのリディア王国の首都サルディスを訪れると、そこのクロイソス王は王家の宝物庫をソロンに見せ、「この世で一番幸せな男は誰だと思うか?」と訪ねた。
密かにソロンが自分を一番幸せだということを期待していたクロイソスは、「それは沢山の息子を立派に育て、人並みに裕福な暮らしを送り、アテネが隣国と戦ったおりに、敵を壊滅させ見事な戦死をとげた一市民テロスです」と答えた。王が「では二番目に幸福な人は誰か?」と尋ねると、女神ヘラの祭礼に間に合うように、母親を乗せた牛車を引いて長距離を神殿まで駆けつけ、それに感動した人々が祝宴を催したところ、飲み食いしたあげく寝入ったまま息絶えた二人の兄弟の名をあげた。それを聞いて、「わしの幸福には何の価値もないと申すのか!」と王は怒り出した。
ソロンは平然として、「生きている人の幸福はすべて偶然によるものです。されば人は生きているうちは幸運な人とはいえても、誰も幸福な人とはいえなのです」と答えた。これはヘロドトスが『歴史』(岩波文庫)の第一巻に記している。
やがてリディア王国はクロイソスの在位14年目に、ペルシアのキュロス王に滅ぼされ、抵抗したクロイソスは火あぶりに処せられる。薪束に火がついたとき、ソロンの言葉を思い出したクロイソスは、胸も張り裂けんばかりの大声で、彼の名を三度呼ぶ。
不審に思ったキュロス王が、火を消させ、クロイソスを火刑台から降ろし、わけを聞くと、「その賢人こそ、わしが会うてみたいと思っていた人だ」と処刑の中止を命じ、助命を行う。このあたり、ドラマチックな要素が満載で、やはりヘロドトスは「歴史の父」とよばれる由縁である。
(プルタルコス『英雄伝 2』, 岩波文庫, 1952の「ソロン伝」にも同様の話があるが、河野与一訳がよくないのか、プルタルコスの文章が下手なのか、ヘロドトスにはとても及ばない。)
…というわけか、文藝春秋編『見事な死』(文春文庫, 2008)に載っている元スポーツ選手は、ジャイアント馬場、貴乃花(双子山親方)、仰木彬(元西鉄監督)、村山実と早死にした人ばかり。団体で国民栄誉賞をもらった女子サッカーの人たちなんか、行く末が気になるなあ…
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