【パラドックス】日曜日の「産経」書評で、池内了が井山弘幸(新潟大人文学部教授)「パラドックスの科学」(新曜社)を紹介していた。井山は東大理学部化学科を出て、科学史を専攻した。科学史では村上陽一郎が有名だが、確か東大教養学部の卒業で、実験科学の基礎がない。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130707/bks13070713520005-n2.htm
取り寄せてざっとめくり、舌を巻いた。オーソドックス(Orthodox)、パラドックス(Paradox)はともに、Doxe(言説, 見解)という意味のギリシア語に、位置を表すギリシア語接頭辞Ortho-(正位置の)、Para-(反対位置の)がついたものだ。
著者は「パラドックスの科学史」をこの本でたどっている。そして「新たな発明発見は、定説(オーソドックス)に反対の異端説(パラドックス)により達成され、科学が進歩してきた」と科学史の中から膨大なエピソードを探してきて、面白い物語に仕上げている。
福沢諭吉は「およそ文明の進歩はその起源をたどると、すべて異端妄説(つまりパラドックス)にある。昨日の異端妄説は今日の定説である。学者たるものは、臆することなく異端妄説を唱えなければならない」と述べている(「文明論の概略」, 岩波文庫, p.22)。この言葉はいつも「修復腎移植」を支援している私を励ましてくれる。(まだ「今日」は来ないけれど、)
ただ井山の本が扱っている話題はひろく、「買いたい新書」書評でも取りあげたヴォルテール「ミクロメガス」、イームズ「Powers of Ten」まで取り込んでいるし、「メタドックス(Metadox)」という造語のもとに、「傍科学的な言説」つまり「ニセ科学」の話題も取りあげ、「旧石器遺跡捏造」事件やその他の科学論文捏造事件も論じている。
また「偶然の発見=セレンディピティー」が科学的大発見に占める位置も論じている。
井山氏は、故藤田恒夫先生の雑誌「ミクロスコピア」の常連執筆者でもあったから、コンタクトがないわけでもないが、こういう面白い本の執筆をされていることは知らなかった。これは理系の知識と文系の知識を総合した書だ。何しろ、アルキメデスの原理を説明するのに、ローマの建築書に書かれている原話だけでなく、エドガー・アラン・ポーやアーサー・ケストラーまで出てくるのだから。随所にSF映画への言及もあり、映画ファンだとわかる。
引用文献と索引(文脈索引!)が大変充実していて、お薦めできる価値ある一冊だ。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130707/bks13070713520005-n2.htm
取り寄せてざっとめくり、舌を巻いた。オーソドックス(Orthodox)、パラドックス(Paradox)はともに、Doxe(言説, 見解)という意味のギリシア語に、位置を表すギリシア語接頭辞Ortho-(正位置の)、Para-(反対位置の)がついたものだ。
著者は「パラドックスの科学史」をこの本でたどっている。そして「新たな発明発見は、定説(オーソドックス)に反対の異端説(パラドックス)により達成され、科学が進歩してきた」と科学史の中から膨大なエピソードを探してきて、面白い物語に仕上げている。
福沢諭吉は「およそ文明の進歩はその起源をたどると、すべて異端妄説(つまりパラドックス)にある。昨日の異端妄説は今日の定説である。学者たるものは、臆することなく異端妄説を唱えなければならない」と述べている(「文明論の概略」, 岩波文庫, p.22)。この言葉はいつも「修復腎移植」を支援している私を励ましてくれる。(まだ「今日」は来ないけれど、)
ただ井山の本が扱っている話題はひろく、「買いたい新書」書評でも取りあげたヴォルテール「ミクロメガス」、イームズ「Powers of Ten」まで取り込んでいるし、「メタドックス(Metadox)」という造語のもとに、「傍科学的な言説」つまり「ニセ科学」の話題も取りあげ、「旧石器遺跡捏造」事件やその他の科学論文捏造事件も論じている。
また「偶然の発見=セレンディピティー」が科学的大発見に占める位置も論じている。
井山氏は、故藤田恒夫先生の雑誌「ミクロスコピア」の常連執筆者でもあったから、コンタクトがないわけでもないが、こういう面白い本の執筆をされていることは知らなかった。これは理系の知識と文系の知識を総合した書だ。何しろ、アルキメデスの原理を説明するのに、ローマの建築書に書かれている原話だけでなく、エドガー・アラン・ポーやアーサー・ケストラーまで出てくるのだから。随所にSF映画への言及もあり、映画ファンだとわかる。
引用文献と索引(文脈索引!)が大変充実していて、お薦めできる価値ある一冊だ。
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