【医者好き】鈴木力衛訳、モリーエールの喜劇「病は気から」(岩波文庫)に、アルガンという薬好き、医者好きの男が出てくる。医者や薬剤師のいうことをみな信じて、やたら薬を飲み、浣腸や瀉血を受けている。
世の中にはそういう人がいて、ことに生保や障害手帳や原爆手帳をもっていると、自分の懐が痛まないからそうなりがちだ。
私の親類にもそういう老人がいる。20年ほど前に、前立腺がんが見つかり、病院で手術を勧められた。生検標本を見ると、確かにがんではあったが、悪性度は低かった。で、放射線療法を奨め、知り合いの放射線科助教授に紹介した。
まあ、「早期前立腺がんの放射線治療による完治例」ということことになり、学会報告の材料にもなったようだ。
その82歳になる(前立腺がんの再発は以後なかった)のが、ある朝突然に訪ねてきた。これまで2.0ng/mL前後で上がり下がりしていたPSA値が、4.1になったので、大学病院を受診したら「前立腺がん」といわれCT検査と女性化療法(エストロゲン投与)を勧められ、治療は近医に紹介状を書くからといわれた、明日が検査予定日だがどうしたものか、と勝手な話だ。
朝9:30から2時間、もっとも頭の冴えた時間を応対に取られてしまった…。話を聞いて驚いた。
前回、前立腺後部のがん存在部位は放射線で焼いている。このため直腸との間に線維性の癒着があり、その後遺症のため排便時に直腸出血が起こったことがあるくらいだから、がんが新たに発生するとすれば、前立腺前方のいわゆる「前立腺肥大」好発部だと考えられるが、PSA値の質的検査が行われていない。
「CT検査のためのインフォームドコンセント」という書類のコピーががあり、署名しているが、危険性がいろいろ書いてある。本人に内容の理解度を確かめたら、さっぱりわかっていない。やはりこれは「医師の免罪符」だろう。
PSAは「前立腺・特異酸性フォスファターゼ(Prostate-Specific Acid-phosphatase)」の略で、この物質そのものは「セリンプロテアーゼ」という前立腺細胞で産生される酵素である。精液に含まれ、その凝固を防ぐのが生理的機能だが、前立腺細胞から血中にも移行するので「前立腺がんの特異マーカー」として利用されている。
しかし、PSAには「遊離体(F型)」とα1-アンチキモトリプシンに結合した「結合型」とがあり、PSA値のみで「前立腺がん」の診断はできない。総PSAに占めるF型の比率が減少するのが前立腺がんの特徴である。
また、1回のPSA検査でがんと診断することもできない。「増加速度」が問題であり、月ごとの検査で不可逆的に増加していくことを確認しなければいけない。
さらに血中PSA量は、「前立腺細胞の量(前立腺の体積)」に比例するから「直腸超音波検査」で前立腺容積を計測しなければいけない。
それでも「ロビンス=コトラン病理学書」(2005)にはこう書いてある。
「血清PSA値それ自体は早期前立腺がんの発見に使うことはできない。これらPSA値の経時的変動、F型PSAの比率、PSA値の年齢別基準値、前立腺単位容積あたりの産生量を評価しなければならない。」
それから女性ホルモンの投与と男性ホルモンのブロック療法だが、どちらも副作用があるので安易に行ってはならない。
前立腺細胞(及びそのがん細胞)は多くの場合、成長するのに男性ホルモン「アンドロゲン」を必要とする。それは脳下垂体から分泌されるゴナドトロピン分泌ホルモン(GnRH)が精巣を刺激して、ここからアンドロゲン(男性ホルモン)が放出されるためである。
ステロイドホルモン(性ホルモンを含む)はコレステロールから合成され、一般のホルモンやサイトカインの受容体が細胞膜表面にあるのに対して、その受容体は核内にあり「転写調節因子」として作用している。「核内ホルモン」は全動物界で50種が、ヒトではステロイドホルモンだけが、知られているにすぎない。
前立腺がんのホルモン療法には、GnRHとアンドロゲン拮抗剤(or エストロゲン)が併用されるのが普通である。
いずれにしても「診断と治療の王道」を行くには、
1)PSA値の質の計測:つまりF型PSAの減少が急激に生じていることの証明、
2)直腸超音波検査による、腫瘍存在の確認とその大きさ計測、
(いきなりCTをやるのはよくない)
3)前立腺針生検による、病理診断
4)前立腺がんが病理学的に確定したら、がん細胞の核にアンドロゲン受容体が存在していることの、免疫組織化学的な証明
が必要である。
こういう必要な手順を省いて、いきなり「睾丸摘出術」に相当する「内分泌学的女性化術」を安易に施行するのはよくない。
ちょうど、慢性腎不全の患者に対して早期に透析導入を実施するようなものだ。一旦、透析導入されると二度と戻れない。腎臓が急速に「廃用性萎縮」を起こしてしまうからだ。
同窓会名簿を調べると、「寄付講座」の講師だった。医学部卒95年だから、医師免許取得後18年目か…
寄付講座はたいてい製薬会社がバックにいる。阪大の高原史教授と同様だ。会社が人事を指定できるから、いろいろ問題がある。勘ぐれば、薬を使うために必要な検査手順を怠って「薬物的睾丸摘出」を急いでいるともいえるだろう。まあ、「医者を選ぶのも寿命のうち」だ。
モリーエールのアルガン氏は聡明な小間使いのトワネットの言葉で目が覚めるのだが、わがアルガンさんは「医者代」がタダだものだから、なかなか目が覚めない。「ヒバクシャ」にも困ったものだ。
世の中にはそういう人がいて、ことに生保や障害手帳や原爆手帳をもっていると、自分の懐が痛まないからそうなりがちだ。
私の親類にもそういう老人がいる。20年ほど前に、前立腺がんが見つかり、病院で手術を勧められた。生検標本を見ると、確かにがんではあったが、悪性度は低かった。で、放射線療法を奨め、知り合いの放射線科助教授に紹介した。
まあ、「早期前立腺がんの放射線治療による完治例」ということことになり、学会報告の材料にもなったようだ。
その82歳になる(前立腺がんの再発は以後なかった)のが、ある朝突然に訪ねてきた。これまで2.0ng/mL前後で上がり下がりしていたPSA値が、4.1になったので、大学病院を受診したら「前立腺がん」といわれCT検査と女性化療法(エストロゲン投与)を勧められ、治療は近医に紹介状を書くからといわれた、明日が検査予定日だがどうしたものか、と勝手な話だ。
朝9:30から2時間、もっとも頭の冴えた時間を応対に取られてしまった…。話を聞いて驚いた。
前回、前立腺後部のがん存在部位は放射線で焼いている。このため直腸との間に線維性の癒着があり、その後遺症のため排便時に直腸出血が起こったことがあるくらいだから、がんが新たに発生するとすれば、前立腺前方のいわゆる「前立腺肥大」好発部だと考えられるが、PSA値の質的検査が行われていない。
「CT検査のためのインフォームドコンセント」という書類のコピーががあり、署名しているが、危険性がいろいろ書いてある。本人に内容の理解度を確かめたら、さっぱりわかっていない。やはりこれは「医師の免罪符」だろう。
PSAは「前立腺・特異酸性フォスファターゼ(Prostate-Specific Acid-phosphatase)」の略で、この物質そのものは「セリンプロテアーゼ」という前立腺細胞で産生される酵素である。精液に含まれ、その凝固を防ぐのが生理的機能だが、前立腺細胞から血中にも移行するので「前立腺がんの特異マーカー」として利用されている。
しかし、PSAには「遊離体(F型)」とα1-アンチキモトリプシンに結合した「結合型」とがあり、PSA値のみで「前立腺がん」の診断はできない。総PSAに占めるF型の比率が減少するのが前立腺がんの特徴である。
また、1回のPSA検査でがんと診断することもできない。「増加速度」が問題であり、月ごとの検査で不可逆的に増加していくことを確認しなければいけない。
さらに血中PSA量は、「前立腺細胞の量(前立腺の体積)」に比例するから「直腸超音波検査」で前立腺容積を計測しなければいけない。
それでも「ロビンス=コトラン病理学書」(2005)にはこう書いてある。
「血清PSA値それ自体は早期前立腺がんの発見に使うことはできない。これらPSA値の経時的変動、F型PSAの比率、PSA値の年齢別基準値、前立腺単位容積あたりの産生量を評価しなければならない。」
それから女性ホルモンの投与と男性ホルモンのブロック療法だが、どちらも副作用があるので安易に行ってはならない。
前立腺細胞(及びそのがん細胞)は多くの場合、成長するのに男性ホルモン「アンドロゲン」を必要とする。それは脳下垂体から分泌されるゴナドトロピン分泌ホルモン(GnRH)が精巣を刺激して、ここからアンドロゲン(男性ホルモン)が放出されるためである。
ステロイドホルモン(性ホルモンを含む)はコレステロールから合成され、一般のホルモンやサイトカインの受容体が細胞膜表面にあるのに対して、その受容体は核内にあり「転写調節因子」として作用している。「核内ホルモン」は全動物界で50種が、ヒトではステロイドホルモンだけが、知られているにすぎない。
前立腺がんのホルモン療法には、GnRHとアンドロゲン拮抗剤(or エストロゲン)が併用されるのが普通である。
いずれにしても「診断と治療の王道」を行くには、
1)PSA値の質の計測:つまりF型PSAの減少が急激に生じていることの証明、
2)直腸超音波検査による、腫瘍存在の確認とその大きさ計測、
(いきなりCTをやるのはよくない)
3)前立腺針生検による、病理診断
4)前立腺がんが病理学的に確定したら、がん細胞の核にアンドロゲン受容体が存在していることの、免疫組織化学的な証明
が必要である。
こういう必要な手順を省いて、いきなり「睾丸摘出術」に相当する「内分泌学的女性化術」を安易に施行するのはよくない。
ちょうど、慢性腎不全の患者に対して早期に透析導入を実施するようなものだ。一旦、透析導入されると二度と戻れない。腎臓が急速に「廃用性萎縮」を起こしてしまうからだ。
同窓会名簿を調べると、「寄付講座」の講師だった。医学部卒95年だから、医師免許取得後18年目か…
寄付講座はたいてい製薬会社がバックにいる。阪大の高原史教授と同様だ。会社が人事を指定できるから、いろいろ問題がある。勘ぐれば、薬を使うために必要な検査手順を怠って「薬物的睾丸摘出」を急いでいるともいえるだろう。まあ、「医者を選ぶのも寿命のうち」だ。
モリーエールのアルガン氏は聡明な小間使いのトワネットの言葉で目が覚めるのだが、わがアルガンさんは「医者代」がタダだものだから、なかなか目が覚めない。「ヒバクシャ」にも困ったものだ。
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