【注目の医療評論】
2015/10に医療および首都圏の医師不足に関して注目すべき評論が2本あらわれた。
一つは、「新潮45」11月号の
里見清一「特別寄稿:医学の勝利が国家を滅ぼす」(p.106-121)というかなり長い論文だ。
編集部が付けた冒頭要約は「間もなく承認される新薬の公的コストを計算してみれば、年間ざっと2兆円。やめどきが難しい<希望の星>が、日本の国家財政を食い潰していく。」
論点は夢の抗がん剤と唱われている「分子標的薬」や、発見者の本所佑さんがノーベル賞をもらうのでは?といわれている「免疫チェックポイント阻害剤」はどちらも、対費用効果(コストパフォーマンス)が悪く、保険診療に適応されたらたちまち財政的破綻をもたらすだろう、というもので筋は通っている。
問題は著者が提起している「対策」で、医療を「延命治療」(ヒトの死は必然として著者は「治してしまう治療」もこれに含めている)と「対症療法」(寿命は延ばさないが、苦痛だけを除去する)とに分けている。
そして「75歳以上の患者には、すべての延命治療を禁止する」ことを提案している。
著者「里見清一」は筆名で、これは山崎豊子「続・白い巨塔」に出てくる「里見裕二」(浪速大学第2内科助教授)の兄で、医師の「里見清一」にちなむらしい。本名は國頭秀男(1961鳥取県生、1986東大医卒、現日赤医療センター・化学療法部長)とある。
里見清一「医師の一分」(新潮新書, 2014/12)
里見清一「医者と患者のコミュニーケーション論」(新潮新書, 2015/10)
を取りよせて読んで、「これは個性的で特異な医療の論客が現れた」と思った。
何しろ母校の東大について「東大は碌なところじゃない」(「医者と患者の…」)と書いているのだから、これは相当な反撥があるだろう。
昔、「朝日」連載の随筆で、山田風太郎が高齢化対策の一つとして、「国立往生院」を設けて「死にたい老人」を集めて安楽死させるという、映画「ソイレント・グリーン」のパロディみたいなことを書いて物議を醸したことがある。まさか正面切ってこういう意見が現役の医師から出てくるとは思わなかった。「新潮45」の論文は、近未来を考える上でお薦めである。
もう一つは、
上昌弘「首都圏の医療が崩壊の危機:医師不足深刻で中東並み、解消と逆行する厚労省の詭弁」という論文だ。これも必読の論文だと思う。
http://biz-journal.jp/2015/11/post_12185.html
これはネットの「ビジネス・ジャーナル」に掲載されたもので、ダウンロードするとPDFで24ページくらいの大論文になる。著者はもと血液内科医で、今は東大医科研の教授で、専門は「医療ガバナンス」。医師不足や医療不正・研究不正などについての積極的な発言で知られる。
論文の1/6に人口10万人当たりの医師数が200〜300人まで、25人階級別に各地域別に色分けして示してある。全体として「西高東低」で、愛知県以東の日本では225以下であることがわかる。逆に四国は275〜300人未満と相対的に医師過剰である。(Fig.1)
(Fig.1:上論文原図、都道府県ではなく右上のように自然地形により地方区分している。)
2015/10に医療および首都圏の医師不足に関して注目すべき評論が2本あらわれた。
一つは、「新潮45」11月号の
里見清一「特別寄稿:医学の勝利が国家を滅ぼす」(p.106-121)というかなり長い論文だ。
編集部が付けた冒頭要約は「間もなく承認される新薬の公的コストを計算してみれば、年間ざっと2兆円。やめどきが難しい<希望の星>が、日本の国家財政を食い潰していく。」
論点は夢の抗がん剤と唱われている「分子標的薬」や、発見者の本所佑さんがノーベル賞をもらうのでは?といわれている「免疫チェックポイント阻害剤」はどちらも、対費用効果(コストパフォーマンス)が悪く、保険診療に適応されたらたちまち財政的破綻をもたらすだろう、というもので筋は通っている。
問題は著者が提起している「対策」で、医療を「延命治療」(ヒトの死は必然として著者は「治してしまう治療」もこれに含めている)と「対症療法」(寿命は延ばさないが、苦痛だけを除去する)とに分けている。
そして「75歳以上の患者には、すべての延命治療を禁止する」ことを提案している。
著者「里見清一」は筆名で、これは山崎豊子「続・白い巨塔」に出てくる「里見裕二」(浪速大学第2内科助教授)の兄で、医師の「里見清一」にちなむらしい。本名は國頭秀男(1961鳥取県生、1986東大医卒、現日赤医療センター・化学療法部長)とある。
里見清一「医師の一分」(新潮新書, 2014/12)
里見清一「医者と患者のコミュニーケーション論」(新潮新書, 2015/10)
を取りよせて読んで、「これは個性的で特異な医療の論客が現れた」と思った。
何しろ母校の東大について「東大は碌なところじゃない」(「医者と患者の…」)と書いているのだから、これは相当な反撥があるだろう。
昔、「朝日」連載の随筆で、山田風太郎が高齢化対策の一つとして、「国立往生院」を設けて「死にたい老人」を集めて安楽死させるという、映画「ソイレント・グリーン」のパロディみたいなことを書いて物議を醸したことがある。まさか正面切ってこういう意見が現役の医師から出てくるとは思わなかった。「新潮45」の論文は、近未来を考える上でお薦めである。
もう一つは、
上昌弘「首都圏の医療が崩壊の危機:医師不足深刻で中東並み、解消と逆行する厚労省の詭弁」という論文だ。これも必読の論文だと思う。
http://biz-journal.jp/2015/11/post_12185.html
これはネットの「ビジネス・ジャーナル」に掲載されたもので、ダウンロードするとPDFで24ページくらいの大論文になる。著者はもと血液内科医で、今は東大医科研の教授で、専門は「医療ガバナンス」。医師不足や医療不正・研究不正などについての積極的な発言で知られる。
論文の1/6に人口10万人当たりの医師数が200〜300人まで、25人階級別に各地域別に色分けして示してある。全体として「西高東低」で、愛知県以東の日本では225以下であることがわかる。逆に四国は275〜300人未満と相対的に医師過剰である。(Fig.1)
(Fig.1:上論文原図、都道府県ではなく右上のように自然地形により地方区分している。)
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