ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【繰り言】難波先生より

2013-09-04 18:30:13 | 難波紘二先生
【繰り言】
 毎日、本を読んで暮らしているが、困ることがある。最近の書名がやたら長くなってきたことだ。
 村上春樹の長ったらしい新作など、もとより読む気がないからよいようなものの、本が売れなくなったせいかタイトルが「メイン」と「サブ」に分かれむやみと長くなってきた。
 三橋貴明「経済の自虐主義を排す:日本の成長を妨げたい人たち」(小学館新書)
 J.ガートナー「世界の技術を支配するベル研究所の興亡」(文藝春秋)
 A.ペンドラント「正直シグナル:非言語コミュニケーションの科学」(みすず書房)
 正直いって、書名が憶えられない。


 もうひとつ困るのが、出版社名がやたら長くなったことだ。新書、文庫のシリーズ名もそうだ。
 物心つく前から里子みたいにして親戚の間を転々として育った。小さなリュックサックに絵本を何冊か入れて、知らない家庭に入り込んでいった。それらの本を読みながら育った。だから読むのも書くのも、ずいぶん早かった。ひら仮名はひとりで憶えたから、普通の人と書き順がちがう。それを発見したのは1990年代に入って、手書き入力の「ザウルス」を買ったときだった。


 「あ」だったか「ぬ」だったか、「ね」だったか忘れたが、私の書き順ではどうしても入力できない、「壊れているのかな?」といったら、そばで見ていた技師さんに「先生、書き順が違う」と正しい書き方を教えてくれた。もうザウルスを使っていないので「正しい書き方」も忘れた。
 今は、キーボードを使い、ローマ字・ひらかな入力なので、書き順を気にしないですむのはありがたい。今のATOK辞書の「手書き入力」は、漢字の書き順が厳密でなくても変換してくれるから助かる。簡単な漢字ほどひとりで憶えたから、書き順が違う。


 蔵書目録をEXCELで作成している。当初は出版社に7字分のスペースを用意した。
 初めは「岩波文庫」「新潮文庫」、「中公新書」、「講談社学術文庫」でいけると思った。
 ところが「新書・文庫戰争」がはじまり、「岩波ジュニア新書」、「岩波アクティブ新書」、「光文社知恵の森文庫」と間にカタカナや別の文言が入り始め、予定が狂った。
 「メディカルサイエンス・インターナショナル」というような、長ったらしい名前の出版社もある。
  「PHPサイエンスワールド新書」、「NHK出版生活人新書」というシリーズもある。
 これで長いタイトルが来ると、書名も出版社も憶えられない。勢い口コミ発信力も落ちる。そういう本はベストセラーにならない。


 目録の画面は初め17インチ、今は24インチの画面いっぱいを使い、分野、著者、書名、出版社、刊行年、購入年月、値段、内容要約などで十分ゆとりがあると思っていたが、まず書名が1列では収まらなくなった。長い副題のせいだ。
 ついで出版社名も1列では収まらなくなった。列の幅を広げるのはたやすいが、見る際に4文字出版社と並べると隙間が目立ちすぎる。そこでフォントサイズを12ポイントから9ポイントまでに下げて、何とか同じ幅にそろえている。
 タイトルの方は読めなくては困るので(キーワードで検索してヒットした場合に、すぐ読めないと困る)、主タイトルを12ポイント、副を10ポイントに落としてなんとか1行に収めている。


 何で長たらしい書名にするのか、その感覚がわからない。
 D.コーエン「経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える」(作品社)は、そこそこ売れているらしいが、原本はフランス語で「La Prosperite du Vice」(悪徳の栄え)」。著者はわざわざマルキ・ド・サドの「悪徳の栄え」と同じタイトルを付け、資本主義の歴史とそれを学問的に把握しようとした経済学者たちと把握された経済法則を解説している。
 この本が主張しているのは、資本主義はグローバル化して唯一の経済システムになった。他方、IT金融と結びつき、危機に対してみんなが同じ行動をとろうとするから、危機は即時に世界的なシステム危機になる、もうシステムの外部から冷静に判断するのは不可能になった。だから考え方を変えないと「悪徳の栄え」はいつまで続くかわかりませんよ、
 ということだ。つまり行き詰まりにある資本主義に対する警告の書なのだ。どうして原題通りの邦題にしなかったのであろうか?


 反対にS.ナサー「大いなる探求:経済学を創造した天才たち」(新潮社)は、原題が「Grand Pursuit: Creators of the Economic Science」であることをAMAZONを覗いて初めて知った。普通、原題を扉か奥付にちゃんと書くものだが、この本にはそれがない。
 http://www.amazon.co.jp/GRAND-PURSUIT-SYLVIA-NASAR/dp/0684872994/ref=sr_1_1?s=english-books&ie=UTF8&qid=1377337016&sr=1-1&keywords=nasar+sylvia
 Kindle版なら900円で買える。邦訳は2冊本で税別4,400円。紙本が売れないわけだ。
 邦題にひっかかったのは、科学哲学者カール・ポパーの自伝「Unended Quest」(邦題「果てしなき探求」,岩波現代文庫)に酷似していたからだ。


 シルヴィア・ナサーは「ゲーム理論」でノーベル経済学賞をもらった精神分裂病の学者、ジョン・ナッシュの生涯を「ビューティフル・マインド」という作品にまとめた作家で、経済学にも詳しい。
 が、今回の作品は経済学者たち(その多くはほとんど知られていない)の生活と行動を微細に描いているが、ポール・ジョンソン「インテレクチュアルズ」がルソー、マルクス、トルストイ、ヘミングウェイ、サルトルらの実生活を暴露して、衝撃的だったのに対して、それほどの効果を与えていない。
 前作は数学者=精神分裂病=プリンストン大学教授=ノーベル賞受賞という異色の素材だったから、映画化もされ、精神病に対する世の中の偏見を除去するのにも貢献した。


 で、長い書名の話だが、「風とともに去りぬ」のように長い題名(といっても英語では4語で、Gone With The Windと2箇所で韻を踏ませてある)の本もあるが、欧米の書名は一般に短く、憶えやすい。SFの巨匠マイクル・クライトンなど「コンゴ」、「ネクスト」と1語の題が多い。


 日本語でも漱石「心」、その弟子の寺田寅彦「柿の種」、その弟子の中谷宇吉郎「雪」と代表作が簡単に憶えられる作家がいる。何とか著者と編集者がもっと研究して、魅力的な短いタイトルを付けてくれないものか。
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