【書評など】
1)エフロブ「買いたい新書」の書評No.265に、外山滋比古「老いの整理学」を取りあげました。著者は1923年生まれ、91歳の「超高齢者」です。
英文科を卒業し,雑誌「英語青年」の編集に携わった後,大学教師となった。お茶の水大の名誉教授である。昭和初期のユーモア作家として忘れられていた英文学者、佐々木邦の再発見をおこない,彼の自伝小説『心の歴史』(みすず書房,2002)を編集・解説して刊行しました。
「整理学」という言葉は,高度経済成長が始まった1960年代に,加藤秀俊『整理学:忙しさからの解放』(1963,中公新書)によって,一般に知られるようになった。
これに刺激されて梅棹忠夫『知的生産の技術』(1969,岩波新書)が出版され,「情報=知識」の効率的な収集と管理が意識されるようになった。80年代になると,梅棹が推奨したA6サイズ「文献カード」に替わって,PCが情報管理に利用されるようになり,脇英世『マイコンによる知的生産の技術』(講談社ブルーバックス, 1981)も登場した。
書評の続きは以下で、
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1428479461
いたずらに「平均寿命」の長さを追求する社会は「持続可能性」がない。最近、評者が住む集落の古老がポックリ逝ったが、「平均健康寿命」を伸ばし「健やかな老い」を過ごすことが何よりも重要だろう。
第Ⅱ章中の「ストレス・フリー」という節にある「<よく笑う医者はよく治す>」という随筆に,「ストレスが“発見”されてなお百年にならない。二十世紀,初頭,カナダで発見されたストレスは,いまなお,一般に本当のことがわかっていない」とさりげなく書いてある。
読むと評者などは「ああ,この人はモントリオール大医学部のハンス・セリエ『夢から発見へ』(1964,丸善)を読み,日本ではストレッサーとストレスが混同されていることを知っているのだ,と感心してしまう。
外山の生命論は「熱力学第二法則」を理解して書かれている。4/17日経コラム「春秋」が「古の賢人」の言葉としてアウグスチヌスの時間についての箴言を引用していた。第二法則は「エントロピー増大の法則」ともいい、時間の本質とそれが不可逆的であることを数理物理学的に述べたものだが、いわゆる「文系」の知識人でそれを理解できている人は滅多にいない。
腕組みして睨みつけるような「知の巨人」とは異なり,笑いや涙という感情の動きも重視している。STAP事件の小保方晴子も,「セウォル号沈没事件」後の韓国大統領も,「泣く」ことで記者の追求を免れた,という指摘も鋭い。
総じて著者は笑いやユーモアの価値を評価しており、「クスり…」としながら読め、読後感は爽やかだ。
2)献本お礼など=
①愛媛移植者協議会の事務局長をやっている河野和博さんから、元読売新聞論説委員の三木健二『ジン蔵病との戦い:原点を語り継ぐために』(大阪腎臓病患者協議会編, 2008/9)のご恵送を受けた。お礼申し上げます。
巻末扉に三木健二の詳しい経歴が載っている。1965年「広島大文学部英文科卒」とあり、驚いた。1942年生まれとあるので私より1年後に広島大に入学している。入社後、広島支局を経て大阪本社科学部に移ったようだ。
1967年頃、広島市では「土谷病院」の土谷太郎院長、広島大外科の土肥雪彦助手(後同大第二外科教授)が中心になり、慢性腎不全患者の透析療法の改善や腎移植に向けて、熱心に取り組んでいた。
この冊子には1971/6/4〜1971/12/17まで、週1回28回にわたり、三木記者と藤岡義也記者が全国の慢性腎不全患者を取材して、大阪読売夕刊に週1回掲載した記事の全文が掲載されている。読むと月の透析費用が20〜40万円(健康保険の本人か家族かで異なる)かかる、透析患者の悲惨な現実が、一話一話、読者の胸に突き刺さってくる。まさに当時は「金の切れ目が命の切れ目」であった。
その他、三木記者が書いた他のキャンペーン記事や講演記録なども含まれており、貴重な時代の証言となっている。
②「医薬経済」4/15号のご恵送を受けた。お礼申し上げます。
今号では「この国につけるクスリ」欄で東京福祉大副学長の喜多村悦史が、高齢者問題を論じて、「定年制を見直し、75歳以上にすべきだ」、「政府がGDPの2倍を超える1000兆円の借金をこしらえておいて、その返済を人口が半減する将来世代にさせようというのは、無茶苦茶な話だ」と論じている。私は「定年の撤廃賛成、高齢者医療優遇制度に反対」の立場だから同感した。老人に自分の医療費を削減する努力を促さない、今の高齢者医療費の軽減制度には反対だ。
「アミロイド仮説とエーザイの逆襲」という記事も面白い。記事自体はバークレイズ証券株式調査部の人が書いているので、肝心の「92年に提唱されたアミロイド仮説」なるものの、詳細がよくわからないが、私と元企業研究者の山口昌美さんが共同研究している「過剰な血中グルコースが、一方で血中のタンパク質と(アマドリ反応により)結合して、ヘモグロビンA1cを生成し、糖尿病による合併症の原因となる。他方で、脳内ではアミロイド前駆物質と結合してβアミロイドを生成し、これがアルツハイマー病の原因となる」という「難波=山口理論」と関係しているように思う。
製薬会社はアミロイド前駆物質に対する人工抗体を合成して、これを注射することで「認知症が防げる」という商法を戦略として採用しているようだが、先日の抗HPVワクチンで子宮がんが防げる、というのと発想は同じものだ。コンドームで防げるウイルスを、ワクチンで防ぐという発想と変わらない。副作用のほうがよほど心配だ。
それもこれも「医療を成長戦略」に位置づけるという「アベノミクス第三の矢」に便乗したものだが、「<再生医療>ブームにこれだけの懸念:脳裏をよぎる国家プロジェクトの<惨状>」という編集部記事では、過去の国家的プロジェクトの失敗例をあげ、<やがて振り返ってみて「2015年が短い再生医療ブームのピークだった」と指摘されないことを祈るばかりだ>と締めている。
過去に失敗した国家プロジェクトには、以下が挙げられている。
国産のOSを「国際標準にする」として始まった80年代の「トロン(TRON)・プロジェクト」。
石油危機に懲りて、イランで日本製の油田を開発所有するとして始まった「国際石油開発(INPEX)」プロジェクト。結局、いま日本の油田はすべて手放したそうだ。
さて、再生医療分野の企業のメインバンクは、「三井住友銀行」で「三大メガバンク」のなかでは、医療にもっとも疎い銀行だそうだ。それで三井物産が神戸の田中紘一の病院にからんだのであろう。医療をよく知っている商社なら、「イスタンブール宣言」を知りながら、国際臓器移植でもうけようとは考えないだろう。
これで今回のKIFMEC事件の背景がかなり見えてきたように思う。
この雑誌、病院の医局にぜひ一冊おいておくと、有用だろうと思います。
1)エフロブ「買いたい新書」の書評No.265に、外山滋比古「老いの整理学」を取りあげました。著者は1923年生まれ、91歳の「超高齢者」です。
英文科を卒業し,雑誌「英語青年」の編集に携わった後,大学教師となった。お茶の水大の名誉教授である。昭和初期のユーモア作家として忘れられていた英文学者、佐々木邦の再発見をおこない,彼の自伝小説『心の歴史』(みすず書房,2002)を編集・解説して刊行しました。
「整理学」という言葉は,高度経済成長が始まった1960年代に,加藤秀俊『整理学:忙しさからの解放』(1963,中公新書)によって,一般に知られるようになった。
これに刺激されて梅棹忠夫『知的生産の技術』(1969,岩波新書)が出版され,「情報=知識」の効率的な収集と管理が意識されるようになった。80年代になると,梅棹が推奨したA6サイズ「文献カード」に替わって,PCが情報管理に利用されるようになり,脇英世『マイコンによる知的生産の技術』(講談社ブルーバックス, 1981)も登場した。
書評の続きは以下で、
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1428479461
いたずらに「平均寿命」の長さを追求する社会は「持続可能性」がない。最近、評者が住む集落の古老がポックリ逝ったが、「平均健康寿命」を伸ばし「健やかな老い」を過ごすことが何よりも重要だろう。
第Ⅱ章中の「ストレス・フリー」という節にある「<よく笑う医者はよく治す>」という随筆に,「ストレスが“発見”されてなお百年にならない。二十世紀,初頭,カナダで発見されたストレスは,いまなお,一般に本当のことがわかっていない」とさりげなく書いてある。
読むと評者などは「ああ,この人はモントリオール大医学部のハンス・セリエ『夢から発見へ』(1964,丸善)を読み,日本ではストレッサーとストレスが混同されていることを知っているのだ,と感心してしまう。
外山の生命論は「熱力学第二法則」を理解して書かれている。4/17日経コラム「春秋」が「古の賢人」の言葉としてアウグスチヌスの時間についての箴言を引用していた。第二法則は「エントロピー増大の法則」ともいい、時間の本質とそれが不可逆的であることを数理物理学的に述べたものだが、いわゆる「文系」の知識人でそれを理解できている人は滅多にいない。
腕組みして睨みつけるような「知の巨人」とは異なり,笑いや涙という感情の動きも重視している。STAP事件の小保方晴子も,「セウォル号沈没事件」後の韓国大統領も,「泣く」ことで記者の追求を免れた,という指摘も鋭い。
総じて著者は笑いやユーモアの価値を評価しており、「クスり…」としながら読め、読後感は爽やかだ。
2)献本お礼など=
①愛媛移植者協議会の事務局長をやっている河野和博さんから、元読売新聞論説委員の三木健二『ジン蔵病との戦い:原点を語り継ぐために』(大阪腎臓病患者協議会編, 2008/9)のご恵送を受けた。お礼申し上げます。
巻末扉に三木健二の詳しい経歴が載っている。1965年「広島大文学部英文科卒」とあり、驚いた。1942年生まれとあるので私より1年後に広島大に入学している。入社後、広島支局を経て大阪本社科学部に移ったようだ。
1967年頃、広島市では「土谷病院」の土谷太郎院長、広島大外科の土肥雪彦助手(後同大第二外科教授)が中心になり、慢性腎不全患者の透析療法の改善や腎移植に向けて、熱心に取り組んでいた。
この冊子には1971/6/4〜1971/12/17まで、週1回28回にわたり、三木記者と藤岡義也記者が全国の慢性腎不全患者を取材して、大阪読売夕刊に週1回掲載した記事の全文が掲載されている。読むと月の透析費用が20〜40万円(健康保険の本人か家族かで異なる)かかる、透析患者の悲惨な現実が、一話一話、読者の胸に突き刺さってくる。まさに当時は「金の切れ目が命の切れ目」であった。
その他、三木記者が書いた他のキャンペーン記事や講演記録なども含まれており、貴重な時代の証言となっている。
②「医薬経済」4/15号のご恵送を受けた。お礼申し上げます。
今号では「この国につけるクスリ」欄で東京福祉大副学長の喜多村悦史が、高齢者問題を論じて、「定年制を見直し、75歳以上にすべきだ」、「政府がGDPの2倍を超える1000兆円の借金をこしらえておいて、その返済を人口が半減する将来世代にさせようというのは、無茶苦茶な話だ」と論じている。私は「定年の撤廃賛成、高齢者医療優遇制度に反対」の立場だから同感した。老人に自分の医療費を削減する努力を促さない、今の高齢者医療費の軽減制度には反対だ。
「アミロイド仮説とエーザイの逆襲」という記事も面白い。記事自体はバークレイズ証券株式調査部の人が書いているので、肝心の「92年に提唱されたアミロイド仮説」なるものの、詳細がよくわからないが、私と元企業研究者の山口昌美さんが共同研究している「過剰な血中グルコースが、一方で血中のタンパク質と(アマドリ反応により)結合して、ヘモグロビンA1cを生成し、糖尿病による合併症の原因となる。他方で、脳内ではアミロイド前駆物質と結合してβアミロイドを生成し、これがアルツハイマー病の原因となる」という「難波=山口理論」と関係しているように思う。
製薬会社はアミロイド前駆物質に対する人工抗体を合成して、これを注射することで「認知症が防げる」という商法を戦略として採用しているようだが、先日の抗HPVワクチンで子宮がんが防げる、というのと発想は同じものだ。コンドームで防げるウイルスを、ワクチンで防ぐという発想と変わらない。副作用のほうがよほど心配だ。
それもこれも「医療を成長戦略」に位置づけるという「アベノミクス第三の矢」に便乗したものだが、「<再生医療>ブームにこれだけの懸念:脳裏をよぎる国家プロジェクトの<惨状>」という編集部記事では、過去の国家的プロジェクトの失敗例をあげ、<やがて振り返ってみて「2015年が短い再生医療ブームのピークだった」と指摘されないことを祈るばかりだ>と締めている。
過去に失敗した国家プロジェクトには、以下が挙げられている。
国産のOSを「国際標準にする」として始まった80年代の「トロン(TRON)・プロジェクト」。
石油危機に懲りて、イランで日本製の油田を開発所有するとして始まった「国際石油開発(INPEX)」プロジェクト。結局、いま日本の油田はすべて手放したそうだ。
さて、再生医療分野の企業のメインバンクは、「三井住友銀行」で「三大メガバンク」のなかでは、医療にもっとも疎い銀行だそうだ。それで三井物産が神戸の田中紘一の病院にからんだのであろう。医療をよく知っている商社なら、「イスタンブール宣言」を知りながら、国際臓器移植でもうけようとは考えないだろう。
これで今回のKIFMEC事件の背景がかなり見えてきたように思う。
この雑誌、病院の医局にぜひ一冊おいておくと、有用だろうと思います。