ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【「一億」の誤解】難波先生より

2015-09-29 11:36:55 | 難波紘二先生
【「一億」の誤解】
 「一億総白痴化」という言葉は、評論家の大宅壮一が「週刊東京」1957年2月2日号に<テレビに至っては、紙芝居同様、否、紙芝居以下の白痴番組が毎日ずらりと列んでいる。ラジオ、テレビという最も進歩したマスコミ機関によって、『一億白痴化運動』が展開されていると言ってよい>と書いたことに端を発しているようだ。(WIKI「一億総白痴化」)
 だが、国勢調査による日本の人口が1億人に達したのは、1970年(第11回調査)の「1億300万人」が初めてである。1955年の国勢調査では8,927万人しかいなかった。(WIKI「国勢調査(日本)」)
 それなのに「一億」がたちまち流行語となったのは、実は大政翼賛会が発足した昭和15(1940)年の国勢調査の結果を、近衛内閣が「人口1億人」と発表(実際は7,311万人)し、10月には「大政翼賛会」が発足し、既成政党が解散に追いこまれた。近衛文麿は明治憲法を改正することなく、「議会は天皇政治を翼賛するもので、政党が政権を争奪すべきでないとする解釈が、真の憲法精神に沿う」として、安倍晋三と同様に「解釈改憲」に踏み込んだ。
 「一億一心」「八紘一宇」「新体制・臣道実践」というスローガンはみなこの年に生まれた。ドイツ民族の「レーベンスラウム(生存圏)」を主張し、隣国を併合していたナチスドイツを手本にしたものだ。

 7,300万人の人口しかいないのに、なぜ日本国臣民が「1億人」になるのか?
 その秘密は、「大日本帝国」の臣民には、朝鮮人2,400万人と台湾人500万人が含まれていたからである。合計すれば「1億211万人」になる。
 日本の歴史的人口推移(1872-2009)と将来予測(2010-)はWIKI「日本の人口統計」にある。1872(明治5)年、「壬申戸籍」が作成された時の調査で、3,311万人。太平洋戦争で300万人が死んだ(図1の鋭い下向きの凹み)ので、1947(昭和22)年の人口は7,810万人しかいなかった。(WIKI「国政調査」)。前回2010年の国勢調査が過去最大の1億2,800万人でピークに達した。後は減るだけ(図1)で2060年頃には8,000万人(1950年水準)に戻る。
(図1)
 このカーブを見れば、2010年頃を流行値(Mode)として、日本の歴史人口が「正規分布(Normal Distribution)」をするのが分かるだろう。1940(1940年体制成立)〜1990(バブル破裂)の50年間の人口の直線的な伸び方の方が、「異常(Abnormal)」なのである。これはバクテリアの「対数増殖期」に酷似している。後はいかにして「定常期」を長引かせ、「減衰期」への移行を遅らせるかということだけが、問題である。
 無投票で自民党総裁に再選された安倍晋三は、「1億総活躍社会へ」「GDP 600兆円を目標に」(いずれも9/25「産経」見出し)とぶち上げているが、これを「大言壮語」という。GDP 600兆円を達成するには、1億人の国民のフローとしての経済活動が、年間600万円必要だ。そんなことは、今国民1人あたり800万円を超えている国債・公債の残高をゼロにし、さらに国・自治体のプライマリーバランスを黒字にしてからいうべきだろう。

 内村鑑三に『後世への最大遺物 & デンマルク国の話』(1911年講演、現岩波文庫、1946/10)がある。2011年数値で、デンマーク人口は557万人、就業人口はうち53%で国民の2人に1人は子供か老人だ。合計特殊出生率は1.89で、ほぼ「静止人口」を維持している。「1人あたり国民所得」(GDPを人口で割ったもの)は米ドルで5万9,130ドルもある。日本円にするとほぼ710万円になる。王政維持のこの国は今でも日本の「富国」のためのモデルとなりえる。
 「絵に描いたもち」を掲げて、安倍首相は東洋のデンマルク国をどうやって作ろうというのか?
 スイスの人口は791万人、特殊出生率は1.48、就労率は55.8%、1人あたり国民所得は米ドルで6万5,530ドル(2008)、日本円で約786万円になる。この国は「武装永世中立国」で、NATOにもEUにも加盟していない。ナチスドイツもこの国には侵略しなかった。
 ルクセンブルグは人口約52万人、特殊出生率1.60、就労率44.6%、1人あたり国民所得は米ドルで8万4,890ドル(2008数値)、日本円で約1,000万円である。スイスとルクセンブルグの共通項は多言語国家であることと、労働の付加価値が高い(労働生産性が高い=時間給が高い)というところであろう。
 ウォルフレン,カレル・ヴァン(鈴木主税訳)が指摘した『人間を幸福にしない日本というシステム』(新潮OH文庫、2000/10)を、どのようにして「人間を幸福にする日本というシステム」に変えて行くかが、政治家の大目標にならなければいけない。

<付記=何でこんな話を書いたかというと、恩師飯島宗一先生のことを「広島ペンクラブ」会誌に連載していて、旧制高校の親友が特攻隊で死んだことを知り、岩波の桑原涼氏・構成執筆による『復刻アサヒグラフ昭和20年:日本の一番長い年』(朝日新聞出版)が縁となり、親友の名前が「福本猛寛海軍少尉」(学徒出陣)だとわかり、「神風特攻隊:御盾隊」について調べるために、森山康平『特攻』(河出文庫)を取り出したら、なんとカバー写真が「復刻アサヒグラフ」の表紙に使われた「小犬と人形を抱いた少年特攻兵」と同じものだった。
 本文に特攻の生みの親、大西滝治郎海軍中将が「日本人の5人に1人が特攻に出れば、戦争に勝てなくても負けはしない」と語る箇所が出てくる。大西は「日本の人口1億人」としてその2割、2000万人の特攻を出せば米国と和平の機会が来ると考えて、8月14日、首相官邸で「あと2000万の特攻を出せば戦争に勝てる!」という有名な発言をしたのだとわかった。
 この数値の元になる「1億の日本人」というのが、虚妄だったということを書くつもりが脇にそれた。それにしても山田風太郎『同日同刻』の大西演説と『復刻アサヒグラフ:日本の一番長い年』とが、桑原さんを介して、同じ写真を使用した森山康平『特攻』と繋がるとは、やはり世の中は複雑系だと思う。
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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2015-10-02 01:49:35
>王政維持
デンマーク国王は国家元首であり、デンマーク王国は立憲君主制なので、リヒテンシュタインみたいな王政と同一視するのは疑問。王制、と書くつもりだったか?
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