ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【アイスマン】難波先生より

2013-03-26 12:18:04 | 難波紘二先生
【アイスマン】というタイトルのNスペを見て、いささかがっかりした。1991年にアルプスの氷河の中からBC5300年前の青銅器時代の男の遺体が発見されて以来、注目してきた。新しいことはほとんどなかった。血液型がO型であることも報じられなかった。私はすでに著書原稿にこう書いていた。


 <1991年にイタリア・オーストリア国境の溶けた氷河の中から「アイスマン」と呼ばれる、BC約5,300年前の男の凍結遺体が発見されました。知られるかぎり最古の人類のミイラです。この男の血液型はO型でした。ミトコンドリアと核の遺伝子解析が行われていますが、その結果は南部ヨーロッパ、ことにイタリアのコルシカ島やサルジニア地方に見られる遺伝子と共通していました。乳糖を分解する酵素に異常があり、牧畜をひろく利用する以前の民族と考えられています。>


 今夜の番組では、「胃から小麦のパンが見つかった」と述べていた。農耕が、小麦の原産地アナトリア高原に始まり、南はメソポタミア低地に、西は地中海世界に広がったというのは、英国の考古学者コリン・レンフルーの説で、かれの教科書「Archeology 4th ed.」(Thames & Hudson, 2004) にすでに書いてある。今夜の番組の所見はそれを裏づける証拠の一つにすぎない。農耕はどこでも大河の水源域で始まり、灌漑技術の発達とともに川下に下るのである。


 番組では「鍼灸(Acupuncture)」のツボとアイスマンの文身の位置が一致しているというのを、さかんに強調していたが、私は文身のサイズが小さく、「II」、「IIII」、「+」という風に、ローマ数字とも十字架とも似た模様であるのに驚いた。
幸徳秋水は「基督抹殺論」(岩波文庫)において、「十字架の起源はエジプトにあり、もと生殖器のシンボルであった」と論じている。もちろん「+」がイエスと何の関係もないことは明らかだが、漢字では「10」という数を意味する。


 易(八卦)で使用する算木は、並べる数と組合せ方により、いろいろな桁の数を意味する。(「I」は陽、「II」は老陽、「III」は乾=父を意味し、八卦を重ねると六十四卦になる)。ちなみに「周の易」いわゆる「易経」は、算木(筮竹ぜいちく)の並び方による意味(占い)を、組合せ毎に解説したものである。(岩波文庫に「易経」2冊本がある。)
 陽が「I」で男を意味し、陰が不連続な「- -」で女を意味する。これを組み合わせた「-I-」は生殖器を意味する。つまり「十」である。中国最古の医書「黄帝内経」は、中国では滅失し、いま京都仁和寺だけに写本が残っているが、治療法は「鍼灸」中心である。もちろん「易の思想」に基づいている。


 アイスマンの文身と易の思想、針灸治療が結びつくかどうかは、今後の研究課題だろう。


 アイスマンの文身は、本人が彫ったのではないが、すでにBC5300年前のアルプス人が、「基数(Cardinal number)」の概念をもっていたことを示唆する。これはノーム・チョムスキーの「普遍文法」と並んで「数の概念」が生得的なものであることを支持する有力な所見である。


 こういう重要な所見を見落とすようでは、有料放送としては落第である。もう少し勉強してもらいたい。
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