ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【医師過剰】難波先生より

2015-11-11 16:50:41 | 難波紘二先生
【医師過剰】
 かつてイタリアでは医師過剰のため医師免許をもったタクシー運転手がいた、シンガポールでは医師数の上限を国家が定めている、てな話は前に書いた。
 日本では「医師不足」として医学部の新設をいまだにやろうとしているが、かつて歯学部定員を増やした歯科医師は一足先にモーレツな過当競争に陥っている。
 「MSN」とあるので産経のニュースかと思ったら、マイクロソフトのニュース欄だった。
http://www.msn.com/ja-jp/news/money/%E6%AD%AF%E7%A7%91%E6%A5%AD%E7%95%8C%E3%81%AE%E6%82%B2%E6%83%A8%E3%81%AA%E5%AE%9F%E6%85%8B%EF%BC%81%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%93%E3%83%8B%E3%82%88%E3%82%8A%E5%A4%9A%E3%81%8F%E9%81%8E%E5%BD%93%E7%AB%B6%E4%BA%89%E3%80%81%E7%A0%B4%E7%94%A3%E3%83%BB%E5%A4%9C%E9%80%83%E3%81%92%E3%82%82%E7%B6%9A%E5%87%BA%E2%80%A6/ar-BBmnrip?ocid=LENDHP#page=2
 パソコンの会社のくせに、なんでもっと短いURL表示にできないのであろうか。記事にはこうある。(詳細は4頁の元記事をご覧下さい。)
<厚労省の統計で12年の医師免許保有者数は約30万人、これに対して歯科医師数は約10万人です(日本医師会公表データでは、現役稼働医師数は約17万人)。>
 厚労省の統計は「医師届け」「歯科医師届け」を出した医師、歯科医師数だと思う。日医のデータは「会員数」で、勤務医の多くは日医に加盟していないと思われる。どちらの数値も正確ではないが、それにしても「医師3人に歯科医1人」という比率は歯科医過剰だと思われる。

<30年近く前のバブル景気の頃、脱税御三家といわれた職種は「歯科医・産婦人科医・パチンコ店」の3業態でした。>
 その前、「高額納税者名簿」が公表されていた頃は、個人では「産婦人科医」がいつもトップにあったのを記憶している。これは人工中絶が保険適用外で、全額自費負担になっていたためだし、助産婦による自宅出産から医院・病院でのお産シフトが起きており、出産数も今よりはるかに多かった。歯科治療にも保険適応外のものが多く、患者が現金で支払っていた。
 多額の現金が動くところに脱税の機会が生まれるのは、パチンコ屋と同様だ。

<かつての脱税御三家はいずれの業態も右肩下がりですが、今日とりわけ悲惨な状況に置かれているのは歯科医なのです。>
 確かに公的総合病院でも「産婦人科」を廃止したところもある。産婦人科をめざす医師も減っている。10/28のJ-CASTニュースが伝える今年度「厚生労働白書」によると、
<「生涯未婚率」(50歳までに一度も結婚したことのない人の割合)が、2035年に男性は29.0%にまでアップする見通しだと、10月27日に発表された。白書によると、女性は、35年には19.2%になると予測されている。15年現在 は、男性が20.1%、女性が10.6%になっている。>とある。

 子供の頃、まず歯痛で歯医者のお世話になった。年取ってからは歯周囲炎でまたお世話になったが、治療は基本的に抜歯だった。いま、口腔衛生知識が普及して、虫歯(う歯)の子供は減ってきたし、第一、子供の数が減った。定期的に歯垢除去をやってもらっていれば、歯周囲炎に悩まされることもないだろう。よって歯医者の患者は減りつつある。
 売り上げを増やすには保険点数を政治的に上げるしかないので、日歯連の違法政治献金事件などが起こるのであろう。
 総合病院には歯科はあるが、医師が常勤職員であるところは少ないのではないか。たいていは歯学部などからの非常勤派遣の歯科医師で、間に合わせているようだ。だから大学に残れなかった歯科医師はほとんどが開業する。

 気の毒なのはバブル期の歯科医の豪華な生活をみて、「自分もああなりたい」と歯学部に進学した学生たちだ。80年代に18歳だったとすれば今は、40代の前半か…。これ以下の年代がたぶん、「歯科医過剰」になっているのだと思われる。
 <70~80年代頃は猛烈に稼げたものの、今では年間1600件もの廃業が相次ぐ職業になっており、うち2~3割は「夜逃げ」や「倒産」といわれています。厚労省はこうした事態に慌てて04年から歯科医師国家試験の難易度を上げてきましたが、もはや手遅れ。>
という。

 昔は、
 医師=大学6年の教育、卒業後の国家試験、合格後1年間の義務的インターン
 歯科医師=大学6年の教育、国家試験、インターンなし
 薬剤師=大学4年の教育、国家試験、
で明らかに養成課程が違っていた。ところが7年くらい前に制度が変わって、薬剤師の養成課程が6年制になった。これで修業年限の上では、歯科医と薬剤師に差がなくなった。
 国家試験を厳しくして合格者数を減らす、というのはもっとも残酷な方法である。昔の中国の「科挙制度」と変わらない。

 試験には「定員試験」と「資格試験」の2種がある。
 大学入試などは前者であり、試験点数の上位から採用する数が決まっている。後者は自動車運転免許試験などのように、一定のレベルをクリアすれば合格となる。医師、歯科医師、薬剤師の国家試験は本来、「資格試験」であり、それを「定員試験」として運用するのは邪道である。
 これらの専門職の数を調整するなら、入学者数で行うか、専門課程の初期に退学させるのが妥当だと思う。「青春の蹉跌」など大したことない。
 専門課程を終え、「学士」と書かれた卒業証書は手にしたものの、国試に合格できないとなると、悲惨である。つぶしが利かないキャリアーだからだ。なまじ学歴が上位だけに、履歴書を見て雇う方がためらう。

 ひるがえって、医師養成の現状と将来をみると、歯科医の悲劇は他人ごとではないと思う。「年間医療費40兆円強」のインパクトは大きい。日本の社会保障制度の全面的な崩壊を防ぐには、巨額な医療費を圧縮するしか手がないだろう。
 また「国立社会保障・人口問題研究所」の「将来推計人口」によると、
 2015年:—0.28%(35万人) 女性出産率1.4
 2025年:—0.61%(74万人)(団塊の世代が全員75歳以上の「後期高齢者」になる年)
 この頃、「生涯未婚率」は男性3割、女性2割になっている。アベノミクス:期待女性出産率1.8
 2050年:—1.05%(102万人)
となっている。詳細は省くが、どういう政策を採用しても、医師1人あたりの年間所得は減少するだろう。
<付記(10/31):10/30「産経」の記事によると、厚労省の「医療経済実態調査」で2014年度、医師、歯科医とも平均年収が対前年比で、民間勤務医 —2.1%、民間歯科診療所長 —2.2%と減少している。歯科勤務医の平均年収は596万円と一番低い。>

 医学や医療が好きで医師になるのなら、所得が減少してもそれほど不満はないだろうが、豪華な生活を期待して医者になるのは、やめた方がよいと私は思う。偏差値で将来の職業を選ぶほど、馬鹿げたことはない。

 医師法と歯科医師法が別になったのは1906(明治39)年からで、それまでは医師免許が1本だった。分かれた事情はよく知らないが、先々のことを考えると「医歯一元化」が望ましいと主張されたのは九大学長、福岡歯科大学学長を務められた田中健蔵先生(病理学)だった。(「日本病理学会100周年記念誌」)
 口腔領域も目、耳、鼻、咽も変わりはない。医師が標榜できる科の一つにすれば、より合理的だと私も考える。
 しかし移行措置というか、制度を切り換える時のことを考えると、医師数30万人に対して歯科医師数10万人というのは、ちょっとアンバランスがひどすぎて、安易に一元化したら大混乱が起きそうだ。
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