【訂正:ガーゼ置き忘れ】この件について12/29メルマガに書いたところ、香川のN先生から「今の手術用ガーゼは金属線が編み込まれており、術後X線撮影をして置き忘れがないことをチェックしている」というご指摘があった。何でも、20年位前からそういう手術用ガーゼが登場したのだそうだ。この点については私の認識不足だったので、お詫びして訂正したい。
ただ、すべての施設、すべての外科手術においてメタル線入りガーゼが使われているかどうかは定かでない。それに旧式のガーゼは今も体内に残っている。
昨年の12月にも「ガーゼ置き忘れ事故」が新聞で報じられた。44年間、体内にガーゼを抱えていた女性の例だ。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20171221-OYTET50010/
これは子宮手術の際に、骨盤内に残されたガーゼが「異物反応」により腫瘤状となり、症状が出たために再手術となり、摘出された腫瘤を病理検査して「発見」されたものだ。
新潟の県立病院では大腿骨内に27年間、ガーゼが放置されていた。
http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/8/5/8524.html
WIKIによると「置き忘れ」自体は「手術1000〜3000件に1件」の率で発生するという。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%9E
止血と吸血のためスポンジ(ポリウレタン製)を使うこともあるが、埼玉のがんセンターでは「スポンジ置き忘れ事故」が2017年に3件も起こっている。
https://www.asahi.com/articles/ASKCR2JPJKCRUBQU002.html
これらは肺の内視鏡手術の際に発生したものだ。スポンジに金属線が入っていたかどうかは不明だ。
医療に新しい機材が導入され、「線入りガーゼ」などが導入されるのは結構だが、医師もナースも人間だから、手術場の環境が変わると、慣れるまでは注意力の欠損や気のゆるみが生じやすくなる。一つのことに集中すると、他のことへの注意がおろそかになるものだ。
術後のガーゼカウントも人がやっていたのでは計算ミスが避けられない。無影灯の位置にAIカメラを設置し、手術時に使用したガーゼと取り出したガーゼの枚数を、画像解析でカウントするような工夫が必要だろう。
患者の同定なども、掌紋か瞳孔パターンを登録しておけば、「患者取り違え手術」のような事故も防げると思う。
昔、肝生検が導入された頃、「1000例に1例、死亡事故が起きる」と言われた。それに遭遇したことがある。内科で肝生検を受けた老女が、大量の腹腔内出血のため急死した。生検をしたのは内科の若い医師(研修医)だった。
遺体解剖をして驚いた。肝臓の右葉に縦に深い裂け目ができている。明らかにここから出血したものだった。肝臓右葉の上面は横隔膜と線維性に癒着しており、針孔は横隔膜を貫通して右胸腔につながっている。どうしてこんなことが起きたのか分からない。
遺体を横向きにして観察すると、胸椎に極端な「亀背(猫背):Kyphosis」があった。このため肺が下方に押しやられた上、二次的に起きた炎症により右肺下葉と横隔膜と肝右葉が癒着していた。これで謎が解けた。
術者は患者の体型および内臓の正確な解剖学的位置を確認しないまま、「息を止めて!」と指示し、生検針を肝臓右葉に刺したつもりだった。だがその針はまず右肺下葉の端をつらぬき、ついで横隔膜を経て肝右葉に到達したのである。
ところが患者が途中で息をしたもので、横隔膜が動き、それに癒着した肝臓右葉も動いた。針には肝組織が採取できたので、術者は肝生検に成功したと思い、肝臓裂傷が発生したことに気づかなかった。生検後に病状が急変した理由も、主治医には理解不能だった。
この事故は医師が生検前に、患者の上半身を坐位で診察していれば、脊椎の異常な前屈(亀背)に気づき、「通常の位置からの針生検は無理」と認識できていただろう。
今はCT,MRIなどがあるから、事前に内臓の位置や癒着の有無などを確認できるが、人体には「正常」とされる解剖学以外に、無数の変異や奇形がある。それを100%予知するのは不可能だろう。医学・医療は「人間はみな同じ」という前提で成立している。
だが実際の患者はみな違う。内視鏡手術やダビンチが普及しても「100%安全な医療はない」ことを忘れないでおきたいものだ。
「記事転載は事前に著者の許可が必要です。必ずご連絡いただきますようお願いいたします」
ただ、すべての施設、すべての外科手術においてメタル線入りガーゼが使われているかどうかは定かでない。それに旧式のガーゼは今も体内に残っている。
昨年の12月にも「ガーゼ置き忘れ事故」が新聞で報じられた。44年間、体内にガーゼを抱えていた女性の例だ。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20171221-OYTET50010/
これは子宮手術の際に、骨盤内に残されたガーゼが「異物反応」により腫瘤状となり、症状が出たために再手術となり、摘出された腫瘤を病理検査して「発見」されたものだ。
新潟の県立病院では大腿骨内に27年間、ガーゼが放置されていた。
http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/8/5/8524.html
WIKIによると「置き忘れ」自体は「手術1000〜3000件に1件」の率で発生するという。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%9E
止血と吸血のためスポンジ(ポリウレタン製)を使うこともあるが、埼玉のがんセンターでは「スポンジ置き忘れ事故」が2017年に3件も起こっている。
https://www.asahi.com/articles/ASKCR2JPJKCRUBQU002.html
これらは肺の内視鏡手術の際に発生したものだ。スポンジに金属線が入っていたかどうかは不明だ。
医療に新しい機材が導入され、「線入りガーゼ」などが導入されるのは結構だが、医師もナースも人間だから、手術場の環境が変わると、慣れるまでは注意力の欠損や気のゆるみが生じやすくなる。一つのことに集中すると、他のことへの注意がおろそかになるものだ。
術後のガーゼカウントも人がやっていたのでは計算ミスが避けられない。無影灯の位置にAIカメラを設置し、手術時に使用したガーゼと取り出したガーゼの枚数を、画像解析でカウントするような工夫が必要だろう。
患者の同定なども、掌紋か瞳孔パターンを登録しておけば、「患者取り違え手術」のような事故も防げると思う。
昔、肝生検が導入された頃、「1000例に1例、死亡事故が起きる」と言われた。それに遭遇したことがある。内科で肝生検を受けた老女が、大量の腹腔内出血のため急死した。生検をしたのは内科の若い医師(研修医)だった。
遺体解剖をして驚いた。肝臓の右葉に縦に深い裂け目ができている。明らかにここから出血したものだった。肝臓右葉の上面は横隔膜と線維性に癒着しており、針孔は横隔膜を貫通して右胸腔につながっている。どうしてこんなことが起きたのか分からない。
遺体を横向きにして観察すると、胸椎に極端な「亀背(猫背):Kyphosis」があった。このため肺が下方に押しやられた上、二次的に起きた炎症により右肺下葉と横隔膜と肝右葉が癒着していた。これで謎が解けた。
術者は患者の体型および内臓の正確な解剖学的位置を確認しないまま、「息を止めて!」と指示し、生検針を肝臓右葉に刺したつもりだった。だがその針はまず右肺下葉の端をつらぬき、ついで横隔膜を経て肝右葉に到達したのである。
ところが患者が途中で息をしたもので、横隔膜が動き、それに癒着した肝臓右葉も動いた。針には肝組織が採取できたので、術者は肝生検に成功したと思い、肝臓裂傷が発生したことに気づかなかった。生検後に病状が急変した理由も、主治医には理解不能だった。
この事故は医師が生検前に、患者の上半身を坐位で診察していれば、脊椎の異常な前屈(亀背)に気づき、「通常の位置からの針生検は無理」と認識できていただろう。
今はCT,MRIなどがあるから、事前に内臓の位置や癒着の有無などを確認できるが、人体には「正常」とされる解剖学以外に、無数の変異や奇形がある。それを100%予知するのは不可能だろう。医学・医療は「人間はみな同じ」という前提で成立している。
だが実際の患者はみな違う。内視鏡手術やダビンチが普及しても「100%安全な医療はない」ことを忘れないでおきたいものだ。
「記事転載は事前に著者の許可が必要です。必ずご連絡いただきますようお願いいたします」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます