ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【本の流通】難波先生より

2015-08-24 14:39:44 | 難波紘二先生
【本の流通】
 8/22「日経」が報じた、紀伊国屋が村上春樹の次作「職業としての小説家」を、出版社から初版10万部のうち9万部を独占的に仕入れ、アマゾンに対抗する、という記事には驚いた。ネットでは「読売」の記事が読める。
http://www.yomiuri.co.jp/culture/20150822-OYT1T50078.html
 つまり小売店が「本の買い取り制」を始めるというのであり、これは「委託販売」という名の独禁法違反の「販売価格指定」体制が崩壊を始めたことを意味している。
 
 私の理解では「定価販売、小売店の買い取り制」を実施している出版社は、岩波書店だけだと思う。他は「委託販売制」と称して返品を認めている。欧米では本に定価が印刷されていない。手元にガレヌスの「先行する原因について」というケンブリッジ大学出版会による、古典医学書のペーパーバック本(Galen:”On Antecedent Causes”, Cambridge UP)があるが、輸入した丸善のラベルに「古典哲学、\9,198」と書かれているだけだ。300頁のソフトカバー本が日本では1万円近くもする。これは「岩波文庫」に毛が生えたような本なのに…。

 日経の記事によると、2015/5時点での全国の小売り書店数は「約1万3500店で、1年間に500店減った」という。本は出版社—取次店—小売店のルートをへて店頭に並ぶが、買い取り制の岩波文庫が取継ぎから配本される書店は、少なくとも人口20万人の東広島市にはない。あるのは広島大学生協書店だけだ。岩波文庫も置いてないような小売店が消滅するのに、私は賛成である。ほしい本がないような店なら、読者はアマゾンか出版社に直接注文するほうがよい。

 私は本好きだけに、本が自由価格で販売されることに賛成する。アメリカのスーパーでは、新刊本の安売りコーナーがあり、名著がびっくりするほど安く売られていることがある。古本屋で手垢のついた掘り出し物を見つけるのも楽しいが、新刊本の「掘り出し」を見つけるのは一段と楽しい。
 アマゾンは6月から一部の値引き販売を始めて、紀伊国屋に対する対抗処置をとったというが、この勝負はたぶんアマゾンの勝ちだろう。定価販売が崩れれば、新刊書はもっと安くなり、取次店を抜いて、出版社と読者との直接取引に移行するだろう。これだけで値段は10%以上、安くなるはずだ。返品(いま、本で50%、雑誌はもっと高い)のコストを考えれば、流通経費の大幅な削減で、充分に採算がとれるはず。

 9/9の「買いたい新書」書評に、渡邊昌「<食>で医療費は10兆円減らせる」(日本政策研究センター, 2015/7, 175頁, \800)を予定しているが、なんとこの出版社はアマゾンにも取継店にも本を出していない。読者は出版社HPから直接申し込むようになっている。これこそ「時代を先取り」したものと、言えるのではないか。(すでに11万8000件のヒット数がある。)
http://www.seisaku-center.net/node/861
 この本が10万部以上売れたら、「村上春樹を凌いだ」ということになるだろう。頑張れ、渡邊昌さん!
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【書評など】加藤典洋「敗戦... | トップ | 【<東洋経済オンライン>記... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

難波紘二先生」カテゴリの最新記事