ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【奇人伝】難波先生より

2013-05-17 12:05:52 | 難波紘二先生
【奇人伝】紀田順一郎『にっぽん奇行・奇才逸話事典』(東京堂出版, 1992)を読んでみた。思いの外、「奇人」がいなかった。
 これは私が奇人の部類に入るせいかもしれない。人間誰しも自分を物差しにするものだ。


 山田風太郎『人間臨終図鑑』は上下2冊で、約1000人の古今東西の「ひとの死に際」を扱っているが、取りあげた人物について、その人生の要約もある。
 紀田の本はわずか67人、それも明治以後に活躍した日本人しか扱っていない。
 『人間臨終図鑑』に含まれていない人物は、伊藤晴雨、岩谷松平、桂 春団治、仕立屋銀次、高橋鉄、東中軒雲右衛門、戸田城聖、保科百助、正岡容の9人。
 もっともおかげで、正岡 容(いるる)という人物を初めて知った。保科百助は「コンサイス日本人名事典」にも載っていない。長野県の教育者ということだ。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/保科百助 


 今から20年以上前に出た本だから、知らない人物が入っていても仕方ない。(著者は1935年生まれ。訃報には接しないから、もう78歳か…..。ひと時代ちがう。)こういう本の場合、知名度の高い人物を取りあげないと、奇行とのコントラストが際だたない。
 それと山田風太郎本の欠点は、索引が上巻と下巻で別々になっていること(総索引でない)、取りあげた人物項目だけで、出てくる友人、関係者名などが索引になっていないことだ。もしそうなっていたら、どれほど重宝な本になっていたことか、と思う。


 それにしても明治以後の日本人には大した「奇人」がいない。とびきりの奇人はやはり中江兆民かなと思う。彼はプラトンと同時代の「樽のディオゲネス」に匹敵するのではないか。


 プラトンと『アナバシス(一万人の退却)』を書いたクセノフォンがともにソクラテス門下で、クセノフォンはアテネ傭兵隊を率いてメソポタミアから黒海沿岸まで、退却戦を行っている。黒海南岸にあったシノペという町が、ディオゲネスの故郷だということを知っていただろう。
 ディオゲネスはこの町のいわば「中央銀行総裁」の家に生まれながら、没落してアテネに来て、「乞食哲学者」となった。
 土佐藩の兆民は維新後フランスに留学し、帰国後「外国語学校」(今の東京外語大)の校長になったが、すぐ辞任し民権運動に身を投じた。「保安条例」のために、東京から追放され大阪を舞台に活動した。
 奇行の点でも、二人には数々の類似点がある。


 「対比列伝」(プルタルコスのそれ、いわゆる「英雄伝」、はギリシアとローマの人物を組み合わせて並べただけで、あまり面白くない。ローマ側に、ギリシアに匹敵する知名度の高い人物が少ないからだ。)を新しく編むと面白いだろうなと思う。しかし、明治以後でそれに匹敵する人物を選ぶのは、どうも難しいように思う。
 プルタルコスは時代の垣根を取り払って、例えば前4世紀のアレクサンドロスに前1世紀のカエサルを対比させている。ともに最期が暗殺による非業の死だから、日本から選ぶとなると織田信長であろう。


 同じ島国で、英国と日本の「対比列伝」というのも面白いかも知れない。例えばシェークピアと近松門左衛門。どちらも「偽作者」説がある。50組100人なら何とかなるだろうが、英国人物について日本の読者の予備知識が乏しいので、本にしても売れるかどうか。
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