ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【教祖の処刑】難波先生より

2018-01-22 15:12:14 | 難波紘二先生
【教祖の処刑】私は「イエスの処刑はローマ帝国のおかした過ちのうち、最大級のものだ」と考えている。元もとユダヤ教の分派に過ぎなかったものを処刑したために「キリスト教」が生まれ、中東やアフリカにあったゾロアスター教やマニ教を駆逐してしまった。

さらにキリスト教からイスラム教が生まれた。S.ハンチントン「文明の衝突」が述べたように、現在の世界不安定は、宗教の異なる「文明の衝突」の要素が基盤にある。彼が日本文明を「独立した世界文明の一つ」との位置づけたのは、福沢諭吉「脱亜論」の影響もあると思う。

「ナザレのイエス」については、「第一次ユダヤ戦争(66)」に参加したフラビウス・ヨセフス(37〜100以後)は、1世紀のイスラエル地方について、詳しい知識をもっていたが、その「ユダヤ戦記」にはイエスについての記載がない。
ローマ側の資料でも同様で、イエスの生年については未だに確定資料がない。

私見では教祖イエスを処刑したからこそ、このユダヤ教分派に重みが出て、信徒が増えた。
ローマでは、皇帝ネロのキリスト教と虐殺にもかかわらず、かえって信仰がひろまった。

聖アウグスティヌス(ローマ教会の教義の完成者)は、北アフリカ(タガステ生まれ)・カルタゴ留学時代は熱心なマニ教信者だったが、ローマに渡り同じくマニ教徒の市長シンマクスの伝手(つて)で、ミラノに就職しアンブロシウスに逢ったことで、キリスト教に転向した。

同じ分派でもネストリウス派はアリストテレスの影響がつよく、マリアの「処女懐胎」を否定している。これは後に中国に伝播し「景教」となった。福音書外典に荒井献訳「トマスによる福音書」(講談社学術文庫)がある。これはインド・インダス川流域に伝えられたキリスト教だ。

前置きが長くなったが、オウム事件の裁判が22年かかってやっと終わった、とメディアが報じている。
私はそうとは決して思わない。

毒ガスとしてサリンを用いる手口は、1980年に出た村上龍の「コインロッカー・ベイビーズ」(講談社、文庫は1984)に出てくる。神経ガス「ダチュラ」を用いて、ヘリコプターから東京に投下するというプロットからアイデアを得たと思っている。小説ではダチュラは人殺ししたくなったときの「おまじない」として初出し、やがて正体が神経ガス「ダチュラ」と明かされる。毒ガスの知識がある読者なら、ダチュラはサリンのことだと気づくはずだ。

この本のミソは、当時駅のコインロッカーに赤ん坊を捨てるという事件が多発していた点に着目したところにある。まだ熊本に「赤ちゃんロッカー」が設置される前のことだ。
親に捨てられたコインロッカー由来の青年たちが結束して、社会に復讐を果たすのだ。

オウム事件の動機そのものは、社会的には根絶されていない。「人を殺してみたい」若者はいまも山ほどいる。
もしヤクザが親分の指令で人を殺したら、親分は自動的に「共同正犯」となり、死刑を宣告されるのなら、麻原の死刑は現行法の下ではやむを得ないだろう。

大量殺人では「連合赤軍事件」の永田洋子は死刑を宣告されたが、脳腫瘍を併発したため、執行されなかった。死ぬ前に彼女はいくつかの手記を書いた。共犯の森という男は刑務所か拘置所で自殺した。
この事件は、過激化していた学生運動が一気に衰退するという社会的メリットをもたらした。

麻原がまともな精神の持ち主なら、きっと手記を発表しただろう。週刊誌が伝える情報によると、面会に来た娘の前で自慰行為をするなど、サイコパスを過ぎて精神病が疑われる。娘が裁判に訴えて「父親との縁」を切ったのも理解できる。
そういう精神病の男を死刑にする意味があるだろうか?

彼を処刑することで、「オカルト宗教がらみの大量殺人事件」を予防できるだろうか?
私はサリンの合成に関与した人物、それを運搬・撒布した人物の処罰は当然だと思う。
しかしオウム真理教の分派はすでいくつかあり、麻原の処刑はイエスを処刑したローマのユダヤ総督ピラトのように、麻原を「殉教者」として祭り上げることになりかねないと思う。
私の知る限り明治以降の宗教史で、「教団弾圧」の例はあるが教祖が死刑になった事例はない。
(高橋和巳「邪宗門」は大本教事件をテーマにしたものだ。)

永田洋子は死刑を執行されなかったことで、過激派を壊滅させる社会貢献をした。麻原についても「永遠の捕囚」として死刑執行をしないことが最善だと思う。


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