ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【IQ84】難波先生より

2014-10-13 22:26:54 | 難波紘二先生
【IQ84】
 村上春樹がもらえなかったとテレビが騒いでいるらしい。もらえないのが当然だろう。ノーベル文学賞と作品の売れ行き、翻訳点数とは関係がない。彼の代表作は何?どれほどの質?
 ポーランドの作家シェンキェヴィッチ(1946-16)は生涯に700冊くらいの小説を書いた。ギネスブックものだ。そのうち今に残るのは『クオ・ヴァディス』(1895)だけである。これが1905年、ノーベル文学賞の対象として評価され受賞した。彼はポーランド独立運動、第一次大戦では国際赤十字活動にも参加している。
 私は村上春樹の『ランゲルハンス島の午後』(新潮文庫)を読んであきれた。
 「頭の下に敷いた生物学の教科書」、「カエルの視神経や、あの神秘的なランゲルハンス島」、「僕はそっと手を伸ばしてランゲルハンス島の岸辺に触れた」
 彼はランゲルハンス島が、膵臓の中にある内分泌細胞の集合体だということを知らないのである。
 同じようなミスというか誤用は『1Q84』にもある。だれが見てもこれは「1984」のイミテーションだとわかる。オーウェルの超有名な作品だ。私は紀伊国屋書店の店長に、「これはオーウェルの『1984年』と同じような作品ですか?」と尋ねたら、「むにゃむにゃ」と同意するような応答を聞いたから
買った。
 ところが中身は「IQ84」の人が読むのにちょうどよいような作品だった。だから最初の数頁を読んで、放り投げた。村上春樹は主にIQ84クラス、適菜収のいう「B層」に売れているのだと考える。
 書棚に「ノルウェイの森」、「羊をめぐる冒険」、「風の歌を聴け」などが置いてあるが、一度も開いたことがない。私見では春樹よりも村上龍の方がよほど面白いし、社会性もある。こっちがノーベル文学賞をもらっても驚かないが、春樹がもらうとなるとびっくり仰天、腰を抜かすだろう。

 「朝日記事検証委員会」の第1回会合が10/9開かれた、他紙の報道によると中込委員長から「朝日の解体論」さえ出たという。16本の誤報記事の中、12本の日付と見出しが公表された。私が主張していたことで正しい措置だと思う。残りの4本は<同社広報部は「外部の方々がお書きになった3本と、 著作物の引用部分が多い1本」と説明。>(読売)という。だったら勝手に取り消す権限は「朝日」にないはずだ。8/6の時点で執筆者に許諾をえていなければならない。「池上コラム」事件から何も学んでいないということだ。
 そもそも日本の新聞記事は「匿名で書き放題」という悪癖がある。まずそれをやめることだ。原則として全記事に署名をいれよ。(「毎日」はほぼやっている。)それなら読者は信頼する。32年もウソを垂れ流して、やっと取り消しという無様な事態をさらけ出さないですむ。「産経」のソウル支局長が「在宅起訴」された。不当な言論弾圧だが、あれは署名コラムだったからだ。私は産経の政治スタンスには必ずしも同意しないが、記者たちが韓国政府の弾圧にめげず、報道の自由を貫いている態度にはためらわずエールを送る。
 元毎日の河内孝が「朝日にとっての<西山事件>だ」と「新潮45」10月号に書いているが、「朝日」も「倒産」するかもしれない。

 『悪韓論』(新潮新書, 2013/4)でベストセラー作家となった室谷克実(元時事通信)の最初の書、『日韓がタブーにする半島の歴史』(新潮新書, 2010/4)を読んでみた。歴史書と銘打っていながら、索引も引用書目録もない。韓国の歴史書で最重要な金富軾の『三国史記』は井上秀雄訳の東洋文庫(1988)ではなく、金思訳『完訳・三国史記』(明石書店、1997)が引用され、その次に重要な一然の『三国遺事』については、書誌学的な項目が明示されていないのにがっかりした。李氏朝鮮の時代に成立した金富軾『三国史記』とそれから100年以上後に書かれた一然の『三国遺事』をテキストとしたと小さな字で書いてあるが、「底本」が書いてない。索引がないから前後違うことを書いていても気づいていない。「嫌韓論」の本は多く出回っているが、まともな本は少ない。
 『東アジア民族史:正史東夷伝1・2』(東洋文庫)
 『三国史記:全4冊』(東洋文庫)
 『三国史記倭人伝』(岩波文庫)
 『魏志、後漢書、宋書、隋書・倭国伝』(岩波文庫)
 『旧唐書倭国日本伝』(岩波文庫)
 『三国史記倭人伝』(岩波文庫)
 『倭国伝』(講談社学術文庫)
 『高麗史日本伝』(岩波文庫)
 など、日朝問題の基礎的文献はちゃんと読み、文献と引用箇所を明示した上で自己の解釈を提示し、「論」を立てるべきだ。読者は「B層」(適菜収による用語)向けの低劣な本に騙されてはいけない。
 昭和6(1931)年9/4の「満州事変」の後、5・15事件(1932)、共産党幹部の大量転向(1933)、「特高」創設(1933)、「天皇機関説の弾劾」(1935)、2・26事件(1936)、「日独防共協定」(1936)、「日中戦争開始」(1937)と、わずか5年間余で日本の社会はガラリと変わり、好戦的排外的になって、右派の低劣な論議が世論を主導し、戦争になだれ込んでいった。それをリードしたのが「朝日新聞」である。(ウソだと思ったら水間正憲『朝日新聞が報じた<日韓併合>の真実』(徳間書店)に載っている朝日切り抜き記事を見るとよい。)
 「朝日」が倒産するか立ち直るかはまだわからないが、ともかくあの8月の「誤報訂正」事件が戦後史の大きな転換点になるのは間違いないだろう。月刊総合誌「文藝春秋」、「中央公論」、「正論」、「新潮45」、「WILL」、「SAPIO」などの書き手を見ると、これから低レベルの無責任な右派言説が横行する時代になるから、引用文献と索引がしっかりした本を読み、必要に応じてネットを参照しながら、メディアに騙されないように、市民各自が自己責任において自衛する必要があろう。
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