ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【藤村と森口】難波先生より

2012-10-14 22:47:55 | 難波紘二先生
【藤村と森口】「旧石器捏造」の藤村新一と「iPS細胞詐欺」の森口尚史はよく似ているところがある。

 藤村は高卒で、考古学の素人だったが、畑で拾った縄文石器を切り通しの3万年以上前の古い地層に埋めて、考古学者に発掘させるという方法で、30年近くだまし続けた。
途中から生化学者の中野益男とか、変な地球物理学者が「分け前ちょうだい」と合流したので、遺跡の古さは自然科学によるお墨付きをえた。

 森口のだましはPubMedで見るかぎり、2002年から始まっているが、それ以前に日本語の捏造論文があるに違いない。医科歯科の佐藤教授がしゃべらないだけで、大学院の時代からあったにちがいない。

 こういう天性の詐欺師の特徴は、性格明朗、人当たりがきわめてよく、如才がない、非常に熱心である、見かけ上きわめてまじめであるという共通項がある。ハーバード大の関連病院マサチューセッツ総合病院病理部にいたジョン・ロングがそうだった。

 ホジキン病の腫瘍細胞の培養株の樹立に成功したというので、一躍有名になり、NIHから多額の研究費をえたが、その細胞株は染色体を調べたら、ヒトのものではなくサルのものだった。後の調査で、研究助手が休暇を取った間に「ログ・ブック(実験台帳)」が書き換えられ、その間に細胞株がすり替わったことが判明した。個人的にロングを知り、家にも食事に招かれたことあるが、きわめてエネルギッシュな男で、仕事中毒だった。「寝るのは退屈だ」と言って、4時間しか寝ないと言っていた。

 ハーヴァード大医学部卒の超エリートが「捏造」をやったというので、全米が大騒ぎになり、研究不正を防止するための専門局ORIの創設につながった。
 ロングは、医学界を追われたが、医師免許までは剥奪されなかったので病理開業医になった。しかし、人格までは変えられないと見えて、10年以上後に、病理診断を誤診し、患者に訴えられるのを恐れて、今度は病理診断書を改ざんして医師法違反に問われ、医師免許を失った。

 2000年11月4日夜、「毎日」の特別取材班は藤村が石器を遺跡に埋めているところを録画したテープを、札幌のホテルの一室で藤村に見せた。
 1分30秒に編集されたテープを見終わった藤村は、「ふうー」と鼻から息を吐くと膝を抱え込んで身体を丸め、10分間沈黙した。
 そして、「皆みなではない」、「みんな関係ない。自分だけです」、「魔がさした」と捏造を認めた。(毎日新聞旧石器遺跡捏造取材班「発掘捏造」、毎日新聞社)
 ところがこれは、警察用語でいう「半落ち」だった。
 後に「魔がさした」などというものではなく、座散乱木遺跡から30年間、すべて計画的なものであり、全国で捏造は100遺跡以上にわたることが判明した。

 森口も、「今回の発表は魔がさした」というだろうが、それはウソに決まっている。ハーバード大はMoriguchiIの全論文を検証するといっている。PubMedはNIHが管理しているから、日本語論文の英訳も提供されるだろう。NIH図書館の翻訳サービスはすごい能力をもっている。私はアルファ・フェトプロテインの最初の発見論文を求めたら、原文はロシア語で、すでにちゃんと英訳が用意されているのを知り、驚いたことがある。

 藤村の場合は、かばう集団があった。東北大人脈と日本考古学会である。考古学マニアの宮城県の医者のつてで、精神病院に逃げ込み、妻と離婚し、病院の看護婦と再婚し、姓を変えて追っ手をくらました。
「藤村告白」は考古学会が伏せ字で発表した。それで、いかにも「精神病らしく」なった。

 が、森口の場合は「かばい立て」はむつかしかろう。
 佐藤千史教授は、医科歯科大の保健衛生学科の教授だ。
 http://aqua.tmd.ac.jp/themesrch/usr_select.php

 教室の業績一覧を見ると、記者会見で否定した森口の論文がたくさん掲げられている。
 http://www.tmd.ac.jp/gradh/ahs/achieve.html
 これでは「無関係」だの「甘かった」だのという言い訳は難しかろう。

 で、共産党が党員を除名するときの口実のように、「森口は悪い奴で最初から騙すつもりで、我々に近づいた」というロジックを使うしかあるまい。
 事実、騙されたのは間違いない。

 <なぜこんなバレるに決まってる大嘘を並び立てたんだろう>
 という声もあるが、「大ウソ」を並べ立てる人間は世の中に沢山いる。たいていはすぐに相手にされなくなるが、森口の場合は、医科歯科大大学院ー医療経済研究所ー東大先端研ー東大病院と数年から10年で職を転々としている。たぶん、バレそうになったか、バレて職を変わったのであろう。どこも自分のところのスキャンダルは隠して、ババ抜き的に人材を押し出す。「訳ありだが引き取ってくれ」といって、受け入れてくれるところはない。

 「朝日」の報道によれば、
 <東大病院では、形成・美容外科の実験を手伝う非常勤の技術補佐員から、現在は常勤の「特任研究員」。特定の研究のために雇われる研究員で、研究代表者の権限だけで決められる。森口氏の場合は形成・美容外科の助教が決め、同科の上司たちは「森口氏の存在を知らない」としていた。東大病院広報は「現在、特任研究員が何人いるか不明」という。
 千葉県市川市の住宅街にあるアパート。森口氏は家賃6万円あまり、築数十年の1Kに十数年来、1人で暮らしているという。大家の70代女性は「もしウソをついていたなら、なぜすぐ分かるようなことをしたんだろう」といぶかった。>、とある。 http://www.asahi.com/national/update/1013/TKY201210120674.html
 今回、「朝日」は読売をやっつけるために、「弱い者の味方」というスタンスは放棄したようだ。

 48歳、独身、安アパートにひとり暮らし。それでいて周囲には「東大教授」と吹聴する。ときどきいるタイプではある。ひょっとしたら、この人は「妄想」の中に生きているのかもしれない。その場合、メディアはすぐに匿名報道に切り換えるから、それとわかるだろう。30歳から約18年、世間をだまし続けてきたのだろう。それでも藤村の記録は破れない。

 海外で犯罪を犯した精神病患者としては、「佐川君の人肉食事件」がある。これはM.モネスティエ「図説食人全書」にも、ばっちり書いてある。もちろん無罪で、とっくに釈放されている。

 NHKの報道を見ると、
<iPS細胞を使ったヒトへの細胞移植を世界で初めて実施したと発表した日本人研究員、森口尚史氏は、当初、NHKの取材に、「自分は医師で、アメリカの医師の資格も持っている」と説明していました。しかし、11日夜に改めて確認したところ、説明を変更し、「医師免許はないが看護師の免許は持っている」などと話しました。
 森口氏は、1999年から翌年にかけての一時期、ハーバード大学の関連病院、マサチューセッツ総合病院に在籍していました。
また、森口氏は、平成14年から21年にかけて先端科学技術センターの特任助教授や特任教授、そして平成22年からは付属病院の特任研究員として在籍しています。
一方、森口氏は当初、NHKの取材に対し、「東京大学の特任教授で、ハーバード大学の客員研究員も兼任している」と述べていました。さらに、実際に「マサチューセッツ総合病院で重い心臓病の34歳の男性患者にiPS細胞から作った心筋細胞を『私が』心臓に注射して移植を行った」と説明していました。
しかし、日本時間の11日夜遅く、改めて確認したところ、説明を変更し、「医師免許はないが、看護師の免許は持っている。アメリカでは、医師の指示の下で医療行為を行う助手の資格はあり、実際に細胞を移植する注射を行った」と話していました。> http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121012/k10015705051000.html
 となっている。

 明らかに「誇大妄想」がある。松澤病院の患者葦原が、自分を「将軍」と信じていたのと同じである。
 森口の観念のなかでは自分は「医師であり、アメリカの医師免許をもち、ハーバード大学の客員研究員であり、東大の特任教授」なのであろう。
 つまり、主観的な意識と客観的な実在とが解離しているのである。これに付ける病名はひとつしかない。

 それは、ここまでにしておこう。
 私は前から、日本でも科学における不正を厳罰に処し、再発を防ぐような法律をつくれ、と主張しているが、倒産寸前の野田内閣に期待してもムダだ。次期内閣に期待したい。
 今回の事件で問われていることは二つある。

 一つは、論文における共著者の責任である。共著者は「連座制」にして、捏造や不正があった場合、連帯責任を追及できるようにしなければならない。特に医科歯科の佐藤教授は今回のNYでの発表論文に事前に承認を与えているので、責任は重い。
 医科歯科大、東大病院、東大先端研がどのような態度に出るか、見守る必要がある。
 
 第二は、報道の責任である。今回の事件が報道の信頼性を大きく損なったことはいうまでもない。
 今回の場合、「読売」の虚報があったので、騒ぎが大きくなり、結果として森口の捏造がばれたという面もある。が、それはそれで「怪我の功名」にすぎない。
 森口の手法は「読売」報道によれば、2002年頃から本人の「売りこみ」だった。これも藤村の手口とよく似ている。
 森口の性格なら、社会部の素人記者を騙すのは手もないだろう。科学部が騙されたのなら、恥である。(特報を書いた読売記者は早稲田の政経学部卒という。)
 今回も、きちんとウラを取らないで、本人に言い分を過剰に信用したのが「虚報」の原因である。

 他は、「横並び」意識で、共同、日経、産経が後追いに走った。いずれも他社の記事を、客観的に独自検証する能力に欠けているのが原因である。 
 「一犬虚に吠えれば、万犬実に吠える」、こうしてメディアによりウソが真になるのである。「教科書書き換え問題」しかり、「従軍慰安婦問題」しかり。

 通信社の場合、調査報道よりも、ニュースの速報性が重視されるが、新聞の場合は、それをただ転載しても意味がない。あくまで解説・調査報道が主体でなければいけない。
 それにはまず取材記者と執筆記者をわけなければいけない。それがNYTなど世界的なクオリティ・ペーパーのやり方だ。取材記者がテーマの意味を十分に理解できているとは限らない。執筆するアンカー・マンとして、プロの記者がいるのである。日本にNYTのニコラス・ウエィドに匹敵する科学記者がいるのか?
 ともかく、メディアも反省して国辱級の誤報の再発は防ぐようにしてほしい。
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