ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【読書日記より9】難波先生より

2015-01-20 18:40:54 | 難波紘二先生
【読書日記より9】
 1)村田奈々子『物語 近現代ギリシアの歴史』(中公新書, 2012/2)をアマゾンから取り寄せて読んでみたが、ギリシア国土は独立以後、国境がたびたび変化しているのに、ろくな地図がなく、索引もなく、たった2頁の略年表と「参考文献」に7頁にもわたって、英語とギリシア語がずらっと並んでいるという、衒学的で下らない本だった。
 これは亜流の専門書であり、ぜんぜん「物語」になっていない。

 ギリシア問題のポイントは、国家財政の破綻を国民がどのように負担できるのか、それともEUで最も金持ちであるドイツによる「援助」という名の支配を許してしまうのか、という点にあるが、そこがまったく強調されていない。

 1/25に実施されるギリシア総選挙で、最大野党で「反財政緊縮」を政策に掲げる「急進左派連合」(支持率約27%の最大政党)が勝利するかどうかは、EUの未来につながる。それなのに、このギリシア史は、1993年の「EU発足」から2001年の「ギリシアのユーロ導入」、2010年の「ギリシア債務危機」までの21年間に、たった3ページしか使っていない。
 本の標題は「羊頭狗肉」である。

 すでに高齢を理由に、辞意を表明しているイタリアのナポリターノ大統領(89)は、ギリシア選挙の結果をみて、月末に辞職するか、それとも少し延ばすかを決めるだろう。

 2)野口悠紀雄『金融政策の死:金利で見る世界と日本の経済』(日経新聞社, 2014/12)
 は、もし1ヶ月早く出版されていたら、必ずや総選挙に影響を与えたであろうと思われる。結語が「日本経済は、きわめて危険な状況に突入しつつある」となっており、アベノミクス、日銀の金融措置などに、全面的な否定的評価を明らかにしている。

 野口は一橋大教授時代の1995年に『1940年体制:さらば「戦時経済」』(東洋経済新報社)を著し、政治における「55年体制」とは別に、戦時統制経済に由来する「40年体制」という官僚システムと規制が、今も生きていることを明らかにした人だ。
 その後、一時は「超整理法」という情報整理法の本でも有名になった。

 「自然利子率」という概念を紹介し、金利、資産価格と金利、世界的金利低下とバブル発生、歴史的な英国の「南海バブル」における中央銀行の金融緩和策の失敗、国債の日銀引き受けという誤り、公的年金における制度設計時のミスとその必然としての年金制度の崩壊などを、比較的わかりやすく論じている。

 理論経済学は「ホモ・エコノミクス」という、経済合理主義の人間を前提とするところに、基本的間違いがある。が、本書は理論的説明を「付録」にまわして、本文では具体的な統計カーブを示して説明している。また詳細な索引もあるので、すぐに関連した別ページが読めるのがよい。
 レベルと質は水野和夫『資本主義の終焉と…』(集英社新書)よりも高い。

 Unknown1号さんから、教えて頂いた
 3)フィリップ・ボール(林大訳):『かたち:自然が創り出す美しいパターン』(早川書房,2011/9)
をAmazonで入手して一部を読んだ。面白い本を教えてもらい、感謝します。
 訳者はサイフェ『異端の数ゼロ』を邦訳した東大経済卒のプロの翻訳家だが、索引がない(原本にはあったはず)。これでは困る。

 ボールは『流れ』、『枝分かれ』という本を「自然が創り出す美しいパターン」3部作として書いており、この2冊もアマゾンに注文した。「枝分かれ」は一時品切れ状態で、中古価格の方が定価より高い。

 『かたち』p.78〜89に「海の蜂の巣」という項があり、六角形と五角形の組合せで小さな球になっている「放散虫」は後に、『宇宙の謎』、『生命の不可思議』(岩波文庫)を書いた、ドイツの動物学者E.ヘッケルが最初に見つけたことを知った。
 ボールはこの『かたち』という本で、ヘッケルとスコットランドの生物学者で『生物のかたち』(東大出版会, 1973)を書いたダーシー・トムソンの考え方とを絶えず比較しているのが面白い。

 蜂の巣は立方形なので、六角形だけでなりたつが、球面にするには六角形だけではダメで、五角形12個が必要だということは、数学者「オイラーの公式」により証明されているという。
 ヘッケルによる放散虫のスケッチを見ると、大部分は骨格が六角形だが、一部に五角形が混じっている。(図1)
  
 (図1:ヘッケルによる放散虫Aulonia hexagonaのスケッチ)
 ちょうどサッカーのボールのようである。

 放散虫の骨格はケイ酸カルシウムが作る。放散虫にデザインがあるわけでない。要は表面積を結晶性物質で最小限の素材でつくる、あるいはもっとも安定した表面構造になるのは、結晶が六角と五角形の組合せの場合だけだ、ということになる。
 ここを読んで、「なぜ溶けるツララが再氷結した場合に、球面には六角形と五角形のパターン(サブユニット)が見られるのか?」という疑問が解けた。

 これは大晦日の朝、撮影した葉の霜柱だが、左端のように六角柱のものや、その右下に下向きになった五角柱のもの、画面右端の四角柱のものなど、いろいろな形がある。(写真1)
 朝9:00、撮影時の気温6℃、湿度75%で、最低気温計はもたないが、夜間にー10°以下に下がったとはとても思えない。従ってこの霜はせいぜいー4℃くらいで形成されたものだろう。(この点、中谷宇吉郎が述べていることと食い違う。)

(写真1:中央左端に6軸結晶、その右下に5軸結晶、画面右端に4軸結晶の霜柱を認める。)

 霜柱は最初に出来た結晶を重複する形で伸びて行く。最初が六角形なら、同じサブユニットが付加されて六角柱になる。五角柱の場合なども同様だろう。これは遺伝子DNAの伸長様式と同じことだ。あるいは別の言い方をすれば、「フラクタル構造」になっている。
 溶けたツララが、再凍結する時に表面にできる模様も、水の表面張力が関係していて、表面積を最低にしたまま、液層から固体層へと相転移するので、ああいうサブユニット構造が露呈するのであろう。これはボール『枝分かれ』を入手したら読んでまた考えたい。

 4)東島誠・与那覇潤『日本の起源』(大田出版, 2013/9)
 「古代の天皇誕生から現代の日本社会までを貫く法則とは?
  歴史学がたどりついた日本論の最高地点。」と帯にある。
 誰かの推薦文ではない。きわもの出版で有名な出版社がつけた「自薦文」だ。

 「日本」という国号の起源、国家としての日本の成立、天皇の始まりの問題はまったく別次元の問題だから、「日本の起源」というタイトルそのものはナンセンスだ。
 しかしこの1967年生まれ(東島、聖学院大教授)と1979年生まれ(与那覇、愛知県立大準教授)という二人の日本史学者の対論で構成されているこの本は結構面白い。二人とも、それぞれ東大出版会、岩波書店から著書が出ているから、いちおうまともな学者であろう。

 この本は「本自体」の構成においても他書に優っている。
1) 目次に全六章(古代、中世、近世、近代、戦前、戦後)の節項目タイトルが上げてあるのは新書と同じだが、節や項目のページ番号がちゃんとついている。
2) 「目次」末に「凡例」があり、資料引用の仕方、現代では差別語とされる歴史的用語の取り扱いなど、ちゃんと読む前にわかるようになっている。
3) 「注」が巻末に章別に一括してあり、非常に詳細である。これが横書きならもっとよかった。
4) 「索引」が、「人名索引」と「事項・書名索引」になっており、これも非常によくできている。
 人名・事項名の脇の該当ページ番号数をみると、「被言及度」が一目で分かるので、歴史的に二人が誰を評価し、どの事件または書物を評価しているか、すぐにわかる。
 ちなみに、言及度がもっとも高い人物は
 丸山真男(21)、網野善彦(18)、豊臣秀吉(18)、後醍醐天皇(11)、石母田正(9)、明治天皇(8)、昭和天皇(8)の順だ。
 事項では「律令制」(15)、「明治維新」(14)、「応仁の乱」(11)、「鎖国」(8)が頻度が高い。天武・持統帝の律令制により日本国の成立をみたわけだし、「日本書紀」も成立した。
 内藤湖南が述べたように、日本固有の文化は応仁の乱以後に発生し、戦国時代をへて江戸期の鎖国につながる。
 これが終わるのが明治維新だから、この3つが日本史の大転換点だというとらえ方は、前からあるのもので、別に「歴史学がたどりついた日本論の最高地点」でなんでもない。

 明治国家の大転換点になった「明治十四年の変」には2回しか触れておらず、政変のシナリオを書いた明治最大の官僚井上毅が一度も言及されていないのは、残念だ。中江兆民さえ、その遺著で最大級の賛辞を送っている人物なのに…。
 まあ、「ネオ・マルクス主義」的な匂いがするが、よい本には違いない。面白い。読んだ後も、詳細な文献と注釈により参考書として利用できる。
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