ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【書評】天野祐吉「成長から成熟へ:さようなら経済大国」/難波先生より

2014-01-14 12:31:41 | 難波紘二先生
【書評】エフロブの「買いたい新書」欄にNo.199:天野祐吉「成長から成熟へ:さようなら経済大国」を取り上げました。
 http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1387589464


 昨年10月、肺炎のため80歳で亡くなった広告批評家/コラムニストの遺作です。大学中退後, 出版社や広告代理店「博報堂」を経て、「広告批評」という花森安治「暮らしの手帖」広告版とでもいうべき雑誌を創刊した。


 「“広告”という窓から世の中を見てきた視点から」いまの危機的な時代について雑感を述べる, とある。広告と流行歌は時代を反映している。いや先取りしているかもしれない。
 広告をとおして見つめる天野の世界は幅広く深い。博報堂時代にPR誌「広告」の編集を通じて、多くの学者, 評論家, 画家, 芸能人と知り合いになり, その人脈を「広告批評」に受け継いだことによる耳学問だけでなく、多くの書物を読んでいるところから来る。

 「ナショナル(現パナソニック)」の「生活を豊かに楽しくする家庭電化!」という1953年の広告本文が引用されている。広告は消費者が持たないものを買わせるためにあるから, この頃の庶民に欠けていたものがわかる。
 「朝=ラジオ, トースター, パーコレーター, ミキサー, 電気アイロン。昼(主婦)=小型ラジオ, 電気レンジ, 電気洗濯機。夜=電気ストーブ, テレビ, 電蓄, 電気こたつ」。
 電化の「三種の神器」(テレビ, 電気洗濯機, 電気冷蔵庫)という言葉が生まれたのがこの2年後だそうだ。
 
 現代という時代は、百貨店の初売りに福袋を買いに並ぶ、何千人もの行列に象徴されている、と著者はいう。なぜ福袋か。人びとは「欲しいものはないが、何かが買いたい」からだ。
 経済成長率やGDPの大きさは単なる数字である。そこには生産や消費が、どの程度「おいしい生活」(糸井重里)に結びついているかが反映されていない。東日本大震災と原発事故で「第三の敗戦」を体験した今こそ, 大量生産・大量消費・使い捨ての文化に別れを告げ, 成長から成熟へと方向転換すべきだと説く。


 かつての経済成長への「復古」を 目標にして、「インフレ目標2%」を掲げたアベノミクスの失敗は明瞭である。日本はいまや人口が逓減し、高齢化率が50%に近ずき、男女とも平均寿命が80歳を超え、がん罹患率が50%という、世界史に先進モデルがない時代に突入したのだ。


 有限な資源とエネルギー、進行する高齢化と若年労働人口の減少、経済における輸出と内需の適性バランス、国際社会への貢献と自国の独立・豊かな社会の維持。こうした複雑な多元連立方程式を解いて行くには、深い思想と複眼思考が必要だろう。この本はやさしい語り口で、そういう思考が今の日本に欠けていることに気づかせてくれる。


 2)雑記:「朝日」出身の森本哲郎が1/5、88歳で亡くなった。「カルタゴの遺書:ある通商国家の興亡」(PHP文庫)、「神の旅人:聖パウロの道を行く」(PHP文庫)など、晩年のフリーライターになってからの著作を、味わい深く読んだ記憶がある。
 カルタゴの興亡を扱った本では、「経済大国日本」の行く末に対する問題意識が、経済ではローマ帝国を圧倒したが故に、三次にわたる「ポエニ戦争」により、軍事大国ローマに滅ぼされるカルタゴが、日本とオーバーラップしているのがよくわかった。
 松谷健二「カルタゴ興亡史」(中公文庫)もよい本だが、彼は歴史家としてローマ帝国辺縁国家をいろいろ書いているにすぎない。


 森本哲郎の弟がニュースキャスターの森本毅郎だというのは、新聞の訃報で知った。
 「血液型人間学のウソ」(日本実業出版社, 1985)を書き、TBSテレビでも、血液型ブームを批判した人だ。


 「産経」と「朝日」は天敵かと思っていたが、1/12「産経抄」が心のこもったコラムを書いていて感銘を受けた。
 p://sankei.jp.msn.com/life/news/140112/art14011203210000-n1.htm


 蕪村の句にこういうのがあることを、手元の「蕪村句集」で確かめた。「月は東に」という森本の著書は「菜の花や…」という蕪村の句の「中の句」をタイトルにしたものとみえ、蕪村の愛好家だったのであろう。


 「お手討ちの…」の句を、漱石の「門」につなげ、故人の旅路の終点が「サムライ・マインド」であったとし、朝日のアの字も出さずに、最終パラグラフで「朝日」を批判しつつ、亡くなった先輩に敬意を表している。内容、構成ともに美事だ。
 「敵ながらあっぱれ」と「朝日」や「毎日」のコラム担当者が言ったかどうか…。
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