ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【志気】難波先生より

2013-10-15 22:02:53 | 難波紘二先生
【志気】またも、汚染水漏れが発生したことで、「毎日」がこう報じている。
 http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20131009k0000e040191000c.html

<原子力規制委員会は9日、「海への影響は確認されていない」とする調査評価をまとめた。(中略)規制委の田中俊一委員長は「現場の士気がかなり落ちており、不注意によるトラブルを起こす原因になっている。今後東電の経営陣に(士気向上を)求める必要がある」と指摘。更田豊志委員も「汚染水の移送先の間違いなど単純な人的ミスが発生しており、看過できない」と述べた。【鳥井真平】>
 http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20131009k0000e040210000c.html
 <東電によると、協力企業の作業員が誤って配管の接続部を外したのが原因。当時9人で作業していたが、水漏れ後にさらに2人が応援に入った。作業員は汚染を防ぐ防護服の上に雨がっぱを着用していたが、6人の体の表面から放射性物質が検出された。配管の弁を止めるなどして約50分後に水漏れは収まったという。東電は「漏れた量は不明」としているが、汚染水は施設内に広がっているという。【蓬田正志】>


 配管の写真はこうなっている。
 http://photo.sankei.jp.msn.com/kodawari/data/2013/10/09tepco/
 この「産経」の写真説明が正しいとすると、3台ある淡水化装置の配管のうち、通水をやめ空になった配管を交換する予定のところ、間違って通水中の配管の接続部をはずしたという。
 写真で見るといずれも同じ橙色~赤色で、色分けしてなく、形状も同じで、番号も書いてない。これではミスが起こるのが当たり前だろう。明らかに設計ミスだ。
 「メルトダウン」の緊急時にはそこまで配慮するゆとりがなかったのもわかるが、一段落ついた時点で、「フール・プルーフ」なシステムを作るように点検すべきであった。


 「循環注水冷却システム」の図を見ると、ほぼ原発構内を一周しており、全長4キロあるという。ほぼ正方形の広島大学東広島キャンパスを一周するとほぼ1時間かかるから、まあそんな規模だろう。


 志気は英語でモラール(morale)という。善悪の基準であるモラル(moral)とは一字違いだが、意味はまったく異なる。同義語辞典を見ると、confidence(自信)、esprit de corp(軍団の意気)、self-esteem(自尊心)で言い替え可能となっている。


 ナポレオン・ボナパルトが戦場に姿を現すと、それが兵士に与える志気は1個師団3万人の兵力に相当したという。関ヶ原の戦いにおいては、兵力においても陣形(東軍を包囲する陣形)においても、西軍が圧倒的に優勢だったのに、秀頼が出陣して指揮を取らなかったので、各軍志気が上がらず、部隊間の結束がとれないでいるところを家康に衝かれて、西軍の負け戦となった。

 「陰徳太平記」や「名将言行録」を読むと、元就の三男小早川隆景が生きていて、毛利輝元の代わりに西軍総司令官だったら、戦いの帰趨が変わっていたかも知れないと思う。


 福島事故の初期に事故対応にあたる第一原発職員の志気を鼓舞したのが、亡くなった吉田昌郎所長だった。それをサポートするために、虎の門病院の血液内科谷口修一部長が、造血幹細胞(HSC)をあらかじめ保存しておき、高線量被爆が起きた際に現場作業員の生命を救う造血幹細胞移植を行うという、いわゆる「谷口プロジェクト」の提唱を行った。


 「谷口プロジェクト」6ヶ月後の「総括」は、谷本哲也事務局長(医師)によりMRICに掲載されている。
 http://medg.jp/mt/2011/09/vol280.html
<(2011年)9月16日に開催された第178回国会参議院本会議において、舛添要一議員が野田佳彦首相に対し、造血幹細胞採取の必要性について代表質問を行った。舛添 議員は菅直人前首相にも4月25日に同様の質問を行っている。
 現在の医療は日進月歩であり、新規の治療薬や医療技術の臨床応用は日常的に行われている。専 門家の間で議論が分かれる先端医療は数多くあるものの、それを理由に不要であると一国の宰相が答弁した事例は歴史上でも希有だろう。
 谷口プロジェクトの考 え自体は専門家にとってはそれほど突飛な提案でもないが、社会でこれほどの議論を巻き起こしたのはひとえに原子力政策に関わったからに他ならない。
 谷口プ ロジェクトの採否を考えるのは、移植医療の非専門家である政府・行政の役割からは外れているだろう。ここに、一昔前の医療現場に蔓延していたのと同様な、 過剰なパターナリズムをみる思いがする。>


 結局、幹細胞保存を行ったのは、「ヤクザと原発:福島第一潜入記」(文藝春秋, 2011/12)を書いた、原発労働者兼ノンフィクション作家の鈴木智彦だけだったという。

 鈴木がプロジェクト第1号となり、谷口から説明を受け、G-CSFの皮下注射を受け、末梢血から採血して「末梢血造血幹細胞(PBSC)」を採取・凍結保存する過程は、この本のpp.62-96に書かれている。


 もっともこの本によると、11月7日に、「福島第一協力企業の現場監督」が2人目となり、虎の門病院に入院したとある。彼の場合は未承認薬「モゾビル」を使用したので、1泊2日で採取が終わったという。鈴木が支払った費用は約22万円。病院長が「タダでいい」というのを、無理に払ったという印象を受ける。
 「谷口プロジェクト」に対して、中外製薬が50人分、協和発酵キリンが50人分のG-CSFを寄付したそうだ。金額換算で約5,000万円。谷口は市川團十郎の骨髄移植もやったベテランの血液専門医だから、これだけの寄付が集まる。


 ただ管直人も野田佳彦も、舛添要一議員の提案を「対面を気にして」採用しなかった。東電、保安院、黒川清(東大)指揮下の学術会議も同様だ。


 暴力団が「福島第一」での作業員を募集する際に提示する日当は、当時5万~20万円だったという。
 福島原発事故で動いた暴力団は、関東は住吉会、稲川会、関西の山口組など多数にのぼるという。救援活動、義援金募集というかつての左翼の手口も用いられたという。
 大阪のあいりん地区に行ったら、「ほぼすべての指定暴力団が北海道から沖縄まで、作業員を集めていることが分かった。」(p.41)


作業員の指揮・命令系統の一般構造は以下のようになっている。
 東電→プラント・メーカー(東芝・日立=沸騰水型の原子炉メーカー)→ 二次受け→ 孫請け
 東芝の場合はこうだ:
 東電→ 東芝→ IHI→ IHIプラント建設(IPC)→ O社→ G社
 鈴木智彦が潜入したのはこのG社である。もちろん暴力団がからんでいる。


 これが土建工事になると主構造が
 東電→鹿島
 となる。最近では東電と鹿島はジョイントで「鹿島=東電」を作っている。
 東電が「負担できない」として、国が行うことになった例の「氷壁工事」はなんと、このジョイント・ベンチャーが受注している。
 http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/3/2/3270.html


 「原発は儲かる。堅いシノギだ。(事故処理が)動き出したらずっと金になる。これ1本で食える。原発はタブーの宝庫。それがウラ社会の俺たちには打ち出の小槌となるんだ。」
 現地のあるヤクザの親分が鈴木に語った言葉だ。
 東電も鹿島も、福島事故を終息させる気がないのだろう。このヤクザの親分と同じように「原発は儲かる。堅いシノギだ」と考えているのではないか。通産官僚もグルだ。


 <第1原発の汚染水総量は、タンク貯蔵分や原子炉建屋地下などを含めて1日時点で約44・8万トン(ドラム缶換算で224万本)。30~40年に及ぶ廃炉作業には「汚染源」となっている1~3号機の溶融燃料を回収する必要があるが、建屋周辺にたまる汚染水を処理するのが大前提だ。>(「10/10「毎日」)
 つまり東電=鹿島にまかせているかぎり、政府が破綻処理しないのだから、ヤクザと同じように原発を打ち出の小槌にして、彼らは寄生虫のように生きて行けるのだ。国民の血を吸いながら。
 (これを書いた後で、「NetIBニュース」が私と同じような指摘をしているのを見つけた。
 http://www.data-max.co.jp/2013/10/09/post_16455_ymh_2.html
 事実に即して考えれば、どうみても同じ結論になる。1社しか入札に応じなかったのは、談合に決まっているではないか。 )



 「1F(福島第一原発)の事故後、一度は作業に従事したが、再び現場に降りようとしない人間は多い。『無理無理、あんなとこ人間が入れる場所じゃない。…ちょっとは原発知っている電力(東電)や学者たちは、テレビでいくら大丈夫と言っても20キロ圏にすら入ってこない』…」(これがアレバ社の下請けに入った<6次受け会社>現場責任者の声)
 「長く原発での下請け作業を行ってきた業者の半数近くが、(危ないので)今回の事故で廃業した」という。
 つまり、放射能や原発や原発事故の恐ろしさについて知識がある人々は、学者>東電関係者>従来の原発下請け連業者の順に、福島第一には近寄らないということだ。

 
 いまや福島原発の処理に従事している作業員は、暴力団があっせんした、放射能にも原発の構造にも無知な、食い詰めた未熟練労働者のみ、という構図になっているのだろう。それを監督しているのは東電職員ではなく、6次受け会社の現場監督なのだろう。
 この構図が、信じられないような単純ミスが連日発生して、事故がまったく終息に向かわない最大の原因だ。上記のヤクザの親分が言ったとおりの展開になっている。


 原子力規制委員会の田中俊一委員長も、「現場の士気がかなり落ちており、不注意によるトラブルを起こす原因になっている。今後東電の経営陣に(士気向上を)求める必要がある」と指摘するだけでなく、「現場の志気を高めるにはどうすればよいか、指揮官の条件とは何か」を具体的に述べる必要があるだろう。
 10人もいて空ホースと通水中ホースの区別が誰にもつかなかったということは、現場に熟練者が一人もいなかったということだろう。空かどうかは、ハンマーで叩けばわかったはずだ。
「5年間に最大100mmシーベルト」という労働安全衛生法の基準を超えたとして、現場から東電のベテラン技術者の逃走がほぼ完全に起こっている、ということだ。


 クリント・イーストウッド監督の映画「硫黄島からの手紙」(2006)で、白血病のためBMTを受けた渡辺謙が、栗林忠道中将を演じている。陸海合わせて約2万3,000の兵力で、米軍が「事前砲撃3日間、上陸後5日間」で占領する予定だった硫黄島を1ヶ月以上支え、米軍に約2万5,000人の損害を与えた。
 ああいう指揮官がいま必要とされている。 
 その対極にあるのが、児玉源太郎が一時的に指揮権を取り上げるまで旅順を落とせなかった乃木希典だろう。芥川龍之介は小説「将軍」(発表時は伏せ字だらけ)で、殉死の前に記念撮影をした乃木を「何のために?」と皮肉っている。


 谷口さんは事故処理を早めるためにPBSC(末梢血幹細)保存を提案したのに…
 福島を巡る状況は、2011年12月に鈴木智彦が上記本に記した時点からまったく変わっていない。

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