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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-43-

2009年01月02日 | 投稿連載
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ
        43
自由が丘デパートの屋上では時より東横線の電車が真下で出入りする度に葉桜の花
びらの舞い飛ぶ、時期的には一足早いビアガーデンが繰り広げられていた。
しかし晩春にしては夜風が暖かく、健太も祐二もすっかり半袖になっていた。犬飼ペ
ット探偵事務所のプレハブは当然スペースが狭いので、外に折りたたみのテーブルを
置いてガスライトのマスターがつくった野菜炒めやポークジンジャーなどの料理を並
べてビールとワインの宴会席ができていた。
 キッズローブの店員のサチと由美は、ケーキとコーヒーなどの飲み物をちょうど
デザート用に駅前のモーツアルト洋菓子店から買いこんで階段を登り屋上の仮設テー
ブルまで運んで来たところだった。
 花屋のツルさんは、すっかり出来上がっていてテーブルの上席で窓に吊るされた
ハンモックに凭れかかって赤い顔でウトウトと船を漕いでいた。
「おい。ツルさん。起きろよ。」
ガスライトのマスターが近寄って起こそうとするが、ツルさんは奇妙な笑い声をた
てたかと思うと又こっくりこっくりやりだした。
「だから年寄りはだめだ。」
マスターは諦めて隣に座っている春に空になったグラスを突き出した。
「春ちゃん、もう一杯頂戴。」
春はピンク色に上気した頬にビール瓶をちょっとつけて火照りをとってからマスター
のグラスにビールを注いだ。
「ありがとう。オレは別に健太がその、悪徳ブリーダーに殺されても残念だと思うけ
どよ。春ちゃんがもし犠牲になんかなったら、悲しいってもんじゃなかっただろうね」
そんな・・・と春が呟くよりも早く健太がビールをもって飛んできて、マスターのグ
ラスを空にするように催促してビールのお酌をした。
「そりゃ、ないでしょ。マスター。子供の時はよく野球して遊んでくれたじゃん。
お前ら、素質があるぞ。可愛い奴らだと云ってたじゃんさ。」
健太は、マスターの肩に手を置いた。
「バカ。おめえだって、オレと春ちゃんとどっちが助かってほしいって思うよ。」
「そりゃ。春ちゃん!」
妙に納得してパイプ椅子にどんと座る健太に春は、呆れて溜息をついた。
「なんでどっちかって決めちゃうの?」
「そうだよ。変だよ。いつも。マスターの二者選択論。」
と向かいの席から上田祐二が笑いながら発言するとつづけた。
「ふたりともコンクリ詰めから生還したんだから、よかったでしょ。普通それを喜ば
ない?別にどっちかって仮定の話することじゃないと思うんだけど・・・」
「まあ。もしもってことだよ。世の中最終的には右か左かを選ぶことって避けられんよ
ってことを言っとるんで・・・」
「ああ。それでマスター、三回も結婚したわけ。二者選択で。」
と健太が茶化した。
「バカ野郎。それは関係ねえだろ。」
とマスターの肩を揉んでいた健太の手を振りほどいて上ずった声を張り上げた。
「オレの言いたいのは、いつも人って道をどっち行くか選らんで最終的に死を選ら
ぶってことよ。」
「なんかマスター、哲学的。」
由美がケーキを春の席へ持って来て感心して云った。
「それにしてもハルおばちゃま。残念だったね。」
遠くから幾山も越えてやって来た郵便配達みたいにサチが駅ホームの見下ろせる金網
によりかかって、ぽつりと云った。春は、ババ抜きでババを引いた人のようにサチに
振り向いた。
「いいお婆さんだったよね。」
祐二がしみじみと呟いた。
「でもどうして春ちゃんのとこに来たのかな?北海道にいたんでしょ。その昔。」
健太が疑問を投げかけた。うーん・・・・と誰もが押し黙った。
電車が上下同時に出発して行った。
春は、短い記憶が自分の中で追憶になりかかっているのを感じた。
「いま思い出すとスタジオに来て待ってる間にハルおばちゃまが昔飼っていた犬の
ことを話したのが妙に印象に残っているの。」
「何て云ってたの?」
祐二の質問に答えて春はつづけた。
「犬って最初にエサをくれて育ててくれた恩を死ぬまで忘れないって云うの。それも
キラキラした目で」
「うん。それは当たってるな。」
と健太が大きく頷いた。
ガタン。ハンモックに寄りかかっていたツルさんがひっくり返った。由美ちゃんが
寝ぼけ眼のツルさんを椅子に再び座らせた。
「そりゃ。エサを婆さんにやったのは、半次郎さんだよ。」
みんな、どうしてという顔でそう云いきったマスターを見た。
「犬は何キロ離れても恩を返しにくるもんだぜ。」
電車が今度も上下同時にホームに入ってきた。
「ああ。あれ・・・持ってきたんだ。」
とツルさんが目を覚まして声かけた。
「わしの鞄?」
「これですか。」
春がテーブルの下から取り出した。
ツルさんは、目脂の付いた目をこすりながら鞄から新聞紙に包まれた額を取り出
した。何?というみんなの視線の先に現れたのは、四つ切の一枚の写真だった。
「昨日物置を整理していて出てきたんだ。確か半次郎さんが撮った写真だったと思
ってな。」
それは、洗足池で微笑む若い日のハルさんだった。
あのハルさんが持っていた絵と同じ構図の同じ人物だった。


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るなん~シーちゃんのおやつ手帖78

2009年01月02日 | 味わい探訪
自由が丘駅の南口改札を出てすぐの場所にあるギャラリー・カフェ。
3種類のケーキは基本的にはイートインですが、頼めばテイクアウトも出来ます。
手作りならではの素朴で優しい味のケーキです☆
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