獣医師インディ・ヤスの冒険!

家畜伝染病と格闘する獣医師インディ・ヤスさんのブログです。インディ・ヤスさんはロシア・東欧のオタクでもあります。

台湾で狂犬病発生!

2013-08-18 23:04:11 | 仕事
 ちょっと古い話で申し訳ないが、先月、台湾でイタチアナグマの狂犬病が発生した。6月末、死傷した3頭のイタチアナグマが台湾大学獣医専門学院に持ち込もれた。台湾大学と台湾農業委員会家畜衛生試験所の共同作業で持ち込まれたイタチアナグマがいずれも狂犬病を発病していたことが確認され、7月16日報道発表されたものである。直ちに我国の狂犬病の所轄官庁である厚生労働省に連絡があったそうで、厚生労働省から農水省、そして各県の獣医師会へと連絡があった。各県獣医師会への連絡が7月17日であったことから、中華民国政府(台湾行政院)の発表の翌日には連絡を受けたことになる。これまでに合計12頭のイタチアナグマの狂犬病が確認されているとのことで、知らないうちに狂犬病ウイルスが台湾に入り込んでいたようである。
 台湾での動物の狂犬病発生は52年ぶりとのことで、我国が昭和32年以来54年間動物の狂犬病がなかったと同様に狂犬病については数少ない清浄国の一つであった。今回狂犬病を起こしたイタチアナグマなるものを知らなかったのでインターネットで調べてみたところ、姿形は太ったイタチというか、まさにイタチとアナグマを掛け合わせたような容姿である。イタチアナグマとはよく名付けたものである。
 イタチアナグマの生息地域は、台湾の他に中国大陸の揚子江以南、インドシナ、ミャンマー、インドの一部とかなり広い。52年間も清浄国であった台湾のどこかに狂犬病ウイルスが生存していたとは考えにくく、大陸から狂犬病ウイルスが感染した何らかの動物(狂犬病ウイルスは全ての哺乳動物に感染する)が持ち込まれ、野生のイタチアナグマに感染させたと考えるのが妥当である。
 世界的には狂犬病はいまだに多くの国で発生しており、狂犬病の動物に噛まれて狂犬病ウイルスの感染を受け、そのため狂犬病で亡くなる人が毎年5万人以上になる。特に中国での狂犬病の発生は非常に多い。中国から台湾の検疫を受けないで持ち込まれた動物の中に狂犬病ウイルスを保有していた動物が含まれていたのではないだろうか。
 狂犬病はウイルス感染症であるが、他のウイルス感染症と異なり非常に長い潜伏期が特徴の一つである。潜伏期間であれば健康な動物と区別がつかず、また、取り扱いも通常で通りであっても構わない。今回の狂犬病発生を聞いて、ひょっとして中国から台湾への生物テロではないか、と勘繰りたくなった。