先週の9月20日(金)に江藤農林水産大臣は記者会見で、豚コレラが発生した県や自民党などの要請を受けて、「現在の豚コレラ防疫指針では、豚コレラワクワクチンの予防的ワクチン接種はできないとされており、これを可能となるように防疫指針の改定作業に着手する」と発表した。これは、昨年9月から続いている豚コレラがこれまでのやり方、すなわち摘発淘汰では終息の目途がたたず、一旦ワクチンを使ってでも豚コレラの発生を抑え込む。そのためには、豚コレラ清浄国から非清浄国に長期間落ちるのもやむを得ない、という積極的な決意表明と思われた。これには私も賛成である。
私が、昨年9月の初発例からのデータを、農水省のプレスリリースを元にまとめたところ、9月22日までに岐阜、愛知、長野、大阪、滋賀、三重、福井及び埼玉の8府県で62農場(関連農場及び関連と畜場を含む)の豚、計143,398頭が淘汰された。ここに至っては、豚コレラワクチンの予防的使用は必要であり、そのために豚コレラ清浄国に戻るのに時間が掛かってもやむを得ない。
上の大臣発表後、ある記者から、「農水省としてもワクチンの接種に踏み切るという考えか。」という質問に対して、江藤大臣の、「ワクチン接種を可能とする環境を整えるということでございます」との返答を聞いて拍子抜けをしてしまった。要するに、「これまでは使用が許されなかった、豚コレラワクチンを使用できるようにしてあげる。どうしても使用したいならば県の責任で使用して下さい。」ということである。「何としても豚コレラを抑え込む」という強い決意表明ではなく、「本当はワクチンを使用させてたくないけど、皆さんがあまり求めるので、仕方ないから使用を認めます」というかなり消極的なものであることが解った。
何故、国は豚コレラワクチンを使用させたくないか、その理由が農水省のHPの検索で引っ掛かった、「豚コレラワクチンの使用についての検討会議の資料」に記されていた。以下は、その資料の一部である。
資料6、2ワクチン接種のデメリット
※ワクチンを接種した豚群においても、全ての豚が十分な抗体を得るとは限らないことから、野外ウイルスの侵入を許す可能性、また侵入時の感染豚の発見を困難にする。
(1) 緊急ワクチン接種(地域限定)
① 野外感染豚とワクチン接種豚との区別ができないことから、接種豚のトレーサビリティや移動制限等が必要になる。
② 非清浄国となれば、他の非清浄国からの豚肉輸入解禁の圧力が強まる可能性がある。
③ 消費者がワクチン接種豚の購入を控えることなど風評被害が生ずる可能性があり消費への影響が懸念される。
④ 農家の飼養衛生管理水準を向上しようとする意欲がそがれ、アフリカ豚コレラ等の農場への侵入リスクが高まる可能性がある。
(2) 予防的ワクチン接種(全国)
① 野外感染豚とワクチン接種豚との区別ができず、防疫に支障を来す(予防的接種は「特定家畜伝染病防疫指針」で認められていない)。
② 非清浄国となれば、他の非清浄国からの豚肉輸入解禁の圧力が強まる可能性がある
③ 農家の飼養衛生管理水準を向上しようとする意欲がそがれ、アフリカ豚コレラ等の農場への侵入リスクが高まる可能性がある。
④ 長期間のワクチン接種になれば莫大な費用がかかる。
以上から関係者間の合意形成が大前提
(1)は激しい流行を封じ込めるための地域、期間を限定するワクチン使用、(2) は多くの感染症予防に行われている、通常のワクチン使用の場合である。内容はどちらも同じようであるが、私にはどちらも国の役人の、上から目線の内容に思える。農水省主催の会議の資料なのでこのような内容、表現になるのかもしれないが、これでは豚コレラの発生で全頭殺処分され大変な苦痛を強いられた養豚場、いつ豚コレラが侵入してくるか心配で夜もまともに眠れない養豚場の関係者に、豚コレラワクチンを使用しないことを理解して貰うのは無理である。
ところで、今回の豚コレラでは、どうして国が豚コレラワクチンの使用を認めざるを得ないところまで追い込まれたのであろう。言い換えると、豚コレラワクチンを使用せずに済んだ過去の事例とどう違うのか。それについて、8月8日に農水省から出された、拡大豚コレラ疫学調査チームによる、「コレラの疫学調査に係る中間取りまとめ」に記載されてあった。
第一に、今回の豚コレラの原因ウイルスの病原性が過去に我が国で発生した豚コレラのそれより格段に弱いことである。今回の豚コレラウイルスは日本国内に存在したものでなく、中国又はその周辺諸国から持ち込まれたウイルスであることは遺伝子解析から明らかにされている。国内の従前の豚コレラでは、養豚場で豚の大量死が起こるのが普通であったが、今回の豚コレラでは豚の死亡が極めて少ないのである。中間報告では大半の症例で、“いつもとは違う”、食欲不振、呼吸器症状、下痢、流産などが起こり、念のために管轄の家畜保健所に連絡して豚コレラと判明する、という流れであり、豚の死亡は殆ど記載されていない。これでは、豚コレラウイルスが農場に侵入しても解らないで豚の飼育を続け、そのために農場内で増殖した豚コレラウイルスが拡散した可能性が大きい。因みに、上記の諸症状は、普通の養豚場では日常茶飯事のことである。
第二に、今回の中国等から持ち込まれた豚コレラウイルスは、まずイノシシに感染し、イノシシの間で拡がった豚コレラウイルスが養豚場に持ち込まれたと考えられる。このウイルスの病原性が強ければ、感染したイノシシは死亡するためその拡散は防げる。しかし、今回の豚コレラウイルスは病原性が弱いため感染イノシシは死なず、そのまま餌や雌豚を求めて養豚場内に入って農場内に豚コレラウイルスを持ち込んだと可能性がある。さらに可能性が高いのは、感染イノシシがそのテリトリーである、野山、畑などに豚コレラウイルスをまき散らし、そのまき散らされた豚コレラウイルスを捕食したネズミやカラスなどの野生動物が養豚場内に持ち込んだ。又は、まき散らされた豚コレラウイルスが車両や機材に付着して農場内に持ちこまれたなどである。
以上を一言で言うならば、今回の豚コレラウイルスは病原性が低い、しかし伝染力は強いという、神出鬼没のウイルスである。そのため、従前の豚コレラのような、豚の大量死が起こって家畜保健所に連絡、家畜保健所の検査で陽性と判明したら全頭殺処分、というこれまでの対策では今回の豚コレラの感染拡大を防ぎきれない。その結果、国は豚コレラワクチンの使用を認めざるを得なくなったのである
今回の豚コレラでは、これまでの想定された疾病と大きく異なっていたため、農水省の対応が後手後手になったことは否めない。一部の新聞はそのことを強く批判している。しかし、本当に批判されなくてはならないのは、今回の豚コレラウイルスが日本国内に入り込む要因となった、中国人観光客への大幅なビザ緩和、中国他からの技能実習生という単純作業労働者を大量に受け入れなど、無責任な入国管理政策ではないか。
私が、昨年9月の初発例からのデータを、農水省のプレスリリースを元にまとめたところ、9月22日までに岐阜、愛知、長野、大阪、滋賀、三重、福井及び埼玉の8府県で62農場(関連農場及び関連と畜場を含む)の豚、計143,398頭が淘汰された。ここに至っては、豚コレラワクチンの予防的使用は必要であり、そのために豚コレラ清浄国に戻るのに時間が掛かってもやむを得ない。
上の大臣発表後、ある記者から、「農水省としてもワクチンの接種に踏み切るという考えか。」という質問に対して、江藤大臣の、「ワクチン接種を可能とする環境を整えるということでございます」との返答を聞いて拍子抜けをしてしまった。要するに、「これまでは使用が許されなかった、豚コレラワクチンを使用できるようにしてあげる。どうしても使用したいならば県の責任で使用して下さい。」ということである。「何としても豚コレラを抑え込む」という強い決意表明ではなく、「本当はワクチンを使用させてたくないけど、皆さんがあまり求めるので、仕方ないから使用を認めます」というかなり消極的なものであることが解った。
何故、国は豚コレラワクチンを使用させたくないか、その理由が農水省のHPの検索で引っ掛かった、「豚コレラワクチンの使用についての検討会議の資料」に記されていた。以下は、その資料の一部である。
資料6、2ワクチン接種のデメリット
※ワクチンを接種した豚群においても、全ての豚が十分な抗体を得るとは限らないことから、野外ウイルスの侵入を許す可能性、また侵入時の感染豚の発見を困難にする。
(1) 緊急ワクチン接種(地域限定)
① 野外感染豚とワクチン接種豚との区別ができないことから、接種豚のトレーサビリティや移動制限等が必要になる。
② 非清浄国となれば、他の非清浄国からの豚肉輸入解禁の圧力が強まる可能性がある。
③ 消費者がワクチン接種豚の購入を控えることなど風評被害が生ずる可能性があり消費への影響が懸念される。
④ 農家の飼養衛生管理水準を向上しようとする意欲がそがれ、アフリカ豚コレラ等の農場への侵入リスクが高まる可能性がある。
(2) 予防的ワクチン接種(全国)
① 野外感染豚とワクチン接種豚との区別ができず、防疫に支障を来す(予防的接種は「特定家畜伝染病防疫指針」で認められていない)。
② 非清浄国となれば、他の非清浄国からの豚肉輸入解禁の圧力が強まる可能性がある
③ 農家の飼養衛生管理水準を向上しようとする意欲がそがれ、アフリカ豚コレラ等の農場への侵入リスクが高まる可能性がある。
④ 長期間のワクチン接種になれば莫大な費用がかかる。
以上から関係者間の合意形成が大前提
(1)は激しい流行を封じ込めるための地域、期間を限定するワクチン使用、(2) は多くの感染症予防に行われている、通常のワクチン使用の場合である。内容はどちらも同じようであるが、私にはどちらも国の役人の、上から目線の内容に思える。農水省主催の会議の資料なのでこのような内容、表現になるのかもしれないが、これでは豚コレラの発生で全頭殺処分され大変な苦痛を強いられた養豚場、いつ豚コレラが侵入してくるか心配で夜もまともに眠れない養豚場の関係者に、豚コレラワクチンを使用しないことを理解して貰うのは無理である。
ところで、今回の豚コレラでは、どうして国が豚コレラワクチンの使用を認めざるを得ないところまで追い込まれたのであろう。言い換えると、豚コレラワクチンを使用せずに済んだ過去の事例とどう違うのか。それについて、8月8日に農水省から出された、拡大豚コレラ疫学調査チームによる、「コレラの疫学調査に係る中間取りまとめ」に記載されてあった。
第一に、今回の豚コレラの原因ウイルスの病原性が過去に我が国で発生した豚コレラのそれより格段に弱いことである。今回の豚コレラウイルスは日本国内に存在したものでなく、中国又はその周辺諸国から持ち込まれたウイルスであることは遺伝子解析から明らかにされている。国内の従前の豚コレラでは、養豚場で豚の大量死が起こるのが普通であったが、今回の豚コレラでは豚の死亡が極めて少ないのである。中間報告では大半の症例で、“いつもとは違う”、食欲不振、呼吸器症状、下痢、流産などが起こり、念のために管轄の家畜保健所に連絡して豚コレラと判明する、という流れであり、豚の死亡は殆ど記載されていない。これでは、豚コレラウイルスが農場に侵入しても解らないで豚の飼育を続け、そのために農場内で増殖した豚コレラウイルスが拡散した可能性が大きい。因みに、上記の諸症状は、普通の養豚場では日常茶飯事のことである。
第二に、今回の中国等から持ち込まれた豚コレラウイルスは、まずイノシシに感染し、イノシシの間で拡がった豚コレラウイルスが養豚場に持ち込まれたと考えられる。このウイルスの病原性が強ければ、感染したイノシシは死亡するためその拡散は防げる。しかし、今回の豚コレラウイルスは病原性が弱いため感染イノシシは死なず、そのまま餌や雌豚を求めて養豚場内に入って農場内に豚コレラウイルスを持ち込んだと可能性がある。さらに可能性が高いのは、感染イノシシがそのテリトリーである、野山、畑などに豚コレラウイルスをまき散らし、そのまき散らされた豚コレラウイルスを捕食したネズミやカラスなどの野生動物が養豚場内に持ち込んだ。又は、まき散らされた豚コレラウイルスが車両や機材に付着して農場内に持ちこまれたなどである。
以上を一言で言うならば、今回の豚コレラウイルスは病原性が低い、しかし伝染力は強いという、神出鬼没のウイルスである。そのため、従前の豚コレラのような、豚の大量死が起こって家畜保健所に連絡、家畜保健所の検査で陽性と判明したら全頭殺処分、というこれまでの対策では今回の豚コレラの感染拡大を防ぎきれない。その結果、国は豚コレラワクチンの使用を認めざるを得なくなったのである
今回の豚コレラでは、これまでの想定された疾病と大きく異なっていたため、農水省の対応が後手後手になったことは否めない。一部の新聞はそのことを強く批判している。しかし、本当に批判されなくてはならないのは、今回の豚コレラウイルスが日本国内に入り込む要因となった、中国人観光客への大幅なビザ緩和、中国他からの技能実習生という単純作業労働者を大量に受け入れなど、無責任な入国管理政策ではないか。