獣医師インディ・ヤスの冒険!

家畜伝染病と格闘する獣医師インディ・ヤスさんのブログです。インディ・ヤスさんはロシア・東欧のオタクでもあります。

2016年12月の高病原性トリインフルエンザの発生

2016-12-29 22:20:51 | 仕事
 先日、青森県の2アヒル農場と新潟県の2採卵養鶏場で発生した高病原性トリインフルエンザの記事を書いたが、その後1か月足らずの間、北海道、宮崎県及び熊本県の3道県で高病原性トリインフルエンザが発生した。まずは、12月16日に北海道十勝清水町の21万飼育の採卵養鶏場、3日後の12月19日に宮崎県川南町の12万羽飼育の肉養鶏農場、さらに8日後の12月27日に熊本県南関町の9万2千羽飼育の肉養鶏場での発生であった。原因ウイルスの血清型は、北海道と宮崎県の症例では先の4症例と同じH5N6亜型と判明、熊本県の症例は現在検査中である。
 感染経路については、いずれも現在調査中ではあるが、北海道十勝清水町の採卵養鶏では防鳥ネットに破損があった、と農水省消費安全局の報道発表資料、疫学調査チームの調査概容に記されている。
 ところで、今回の原因ウイルスであるH5N6亜型トリインフルエンザウイルスであるが、農水省消費安全局のサイトでは、15道府県計133例の野鳥のトリインフルエンザでの死亡例を調べた結果、いずれも原因ウイルスはH5N6亜型トリインフルエンザウイルスであったとある。まさに、今年はH5N6亜型トリインフルエンザの当たり年らしい。
 また、農水省消費安全局によると、隣の韓国では、今年の11月から12月27日までに、17ある地方行政区のうち9行政区で計278件(鶏151件、あひる122件、うずら4件、鶏・アヒルの混合1件)のH5N6亜型トリインフルエンザウイルスによる高病原性トリインフルエンザが発生し、その被害は計567農場の2,676万羽の殺処分とある。実に恐ろしい被害である。今回の高病原性トリインフルエンザにより、韓国での鶏肉鶏卵、家鴨肉の価格が高騰して庶民生活が影響を受けないか、他人ごとながら心配になってくる。
 韓国では、朴槿恵大統領の大変なスキャンダルのため、現在、政治が殆ど機能していないとの報道もある。そのようなリーダーシップの無い状況では、対策が後手、後手になるのも当然であろう。韓国に比べると、我国の政治状況や家畜防疫対策が如何に優れているかを改めて実感させられる。

北方領土交渉、今回もロシアに軍配!

2016-12-18 09:54:10 | 国際・政治
 先週の12月15日、16日に安倍首相とロシアのプーチン大統領の日露首脳会談が行われた。会談の結果は、日本からはロシアに3,000億円規模の経済協力を約束、一方、ロシアは北方4島へ元島民が墓参りに行くためのビザ発給の緩和などの検討など、余りにもロシアの取り分が多い内容になっている。肝心の北方領土については、日露の共同経済活動を検討していく、という返還交渉は実質的には全くなかったかのような内容になっている。これでは、ロシア外交の勝利、日本の完敗と言っても良い。今回の日露首脳会談前に膨れ上がった日本側の期待(私も含めて)は一体何だっただろう。
 そもそもの読み間違いは、ロシア人の領土に対する意識を余りにも軽く考えていた、ということではなかろうか。ロシアでは、第2次大戦の独ソ戦において、如何に国民が多くの犠牲を払い、如何にソ連兵が勇敢に戦って領土を守ったか、学校でも家庭で繰り返し子供たちに教えている。そのような教育で育ったロシア人が、経済的利益を得るために領土を引き渡すことなどあり得ない話である。そのことに対して、我々は余りにも過小評価していたのである。
 また、ロシア側は、日本は憲法上武力を使って北方領土を奪還することはできない、日本がロシアに見せられるは経済的利益だけである、ということを熟知している。プーチン大統領の本音は、日本は適当にあしらっておけば良い、真剣に取り合う相手ではない、ということであろう。そのことが今回の日露首脳会談で明瞭になった。
 それならば、日本は対ロ経済協力など一切しない、という手もあったはずだが、どうして経済協力の約束したのか。しかも、米国やEUからは、対ロシア制裁の足並みを乱しかねない、と注意されたにも関わらずにである。
 それは、やはり資源、特にエネルギー資源の輸入大国である日本は、できるだけ多くの国から資源を輸入できるようにすることが国家存立の絶対条件だからだ。また、日増しに大きくなる中国の脅威に対抗するためには、ロシアとの関係強化も必要である。従って、北方領土返還がないのであればロシアへの経済協力はしない、という選択はなかなか取れないということであろう。
 それでは、今後も北方領土は返って来ないのであろうか。実は、ロシア側にも困った事情があるようである。実は、ロシア極東地方のアムール川沿いでは、ロシア系住民がロシアのヨーロッパ部に移住し人口が激減しているのである。その人口減少を埋めるように多くの中国人が移住してきており、中国人の経済活動なしにはロシア極東部の住民は生活できないレベルに達していると聞く。
 ロシアのアムール州や沿海州などのロシア極東部は、元々は清朝の領土であり、それを帝政ロシアが清朝から割譲させたのである。中国の教科書では、最近、そのことが明記されるようになったそうで、ひょっとすると中国からロシアへロシア極東部についての領土問題が上がる可能性もある。そうなれば、ロシアも、北方領土は第2次大戦の結果として得た領土であり、日本への返還などはありえないとは言っていられない状況となる。
 今後の北方領土交渉には、ロシアと中国の関係がどうなるのか、このことが非常に大きく影響すると思う。ひょっとすると、日本との関係を強化するため、ロシアから北方領土を返還したいとの申し入れがあるかもしれない。

新潟県と青森県で高病原性トリインフルエンザ発生

2016-12-04 19:42:54 | 仕事
 新潟県関川村の31万羽の採卵養鶏場と青森市の1万8千羽のアヒル農場で、11月28日、高病原性トリインフルエンザが発生、4日後の12月2日に新潟県上越市の23万羽の採卵養鶏場、5日後の12月3日には青森市の先のアヒル農場から350m離れた、4千7百羽のアヒル農場でも発生した。この4事例の原因ウイルスはH5N6亜型トリインフルエンザウイルスで、現在、東アジアで流行しており、特に韓国では多発しているタイプである(なお、今回の原因ウイルスが韓国から来たという証拠はない)。
 これまでの高病原性トリインフルエンザの発生では、養鶏場への原因ウイルスの侵入方法として、野鳥が鶏舎に入りこみその糞の中に含まれるウイルスが感染する、というのが可能性の第一に上げられてきた。しかし、実際には野鳥の関与が確認された事例はなく、また、トリインフルエンザウイルスの自然宿主であるカモとの接点が不明なものが大半であった。
 冬季、日本列島にはカモやハクチョウなど水禽類の渡り鳥が飛来する。特に、カモは日本各地に飛来するが、西日本より東北や北陸地方など東日本のほうがその飛来は多いらしい(そのようなデータを以前見た記憶がある)。カモはトリインフルエンザウイルスの自然宿主であり、トリインフルエンザウイルスの感染を受けても発病せず、糞と一緒に大量のトリインフルエンザウイルスを排せつする。そのため、カモが飛来した湖沼ではトリインフルエンザウイルスに汚染されることになる。それらの湖沼の水を飲み水として他の野鳥や野生動物も利用しており、その水を飲んだ鳥や動物がカモ由来のトリインフルエンザウイルスの感染を受ける可能性は高い。
 実は、今回の4事例の農場は、いずれもすぐ近くに池が存在している。そして、そこにカモが飛来しており、その池の水、又は池や農場の近辺で死んだ野鳥や動物からH5N6亜型トリインフルエンザウイルスが分離されたら、過去の事例では推測でしかなかった原因ウイルスの鶏舎への侵入経路が大きく解明されるかもしれない。もし、侵入経路の解明が進み具体的な事実として明確になれば、現在の予防対策の妥当性の検証、養鶏場が十分納得できる指導も可能となり、高病原性トリインフルエンザ予防対策の大きな向上につながると期待される。