獣医師インディ・ヤスの冒険!

家畜伝染病と格闘する獣医師インディ・ヤスさんのブログです。インディ・ヤスさんはロシア・東欧のオタクでもあります。

牛の恐ろしい伝染病牛疫

2016-09-10 22:11:52 | 仕事
 山内一也著、「史上最大の伝染病牛疫」を読まして貰った。著者の山内先生は、東京大学名誉教授で、北里研究所、国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)を経て、東京大学医化学研究所教授としてご活躍された方である。私には、日本獣医学会の最重鎮で、兎に角偉い先生、という記憶がある。この方が、牛疫について、疾病、歴史、そして牛疫との人類の戦いを解りやすく説明してくれたのが本書である。
 牛疫は、2011年6月に根絶宣言され、現在、疾病としては地球上には存在しない。しかし、その伝染力と致死率は激烈であり、かつてヨーロッパで発生した流行では2億頭の牛を死亡させたこともある。また、アジア、アフリカでも歴史上何度も発生しており、その被害も、毎回、牛や水牛が数百万頭から数千万頭死亡している。
 日本でも、牛疫は、江戸時代に2回、明治から大正にかけて28回の流行が起こった。被害の程度は様々で、少ない時は数十頭、多い時は数万頭の牛を死亡させた。日本では幸いにして大正11年(1922年)の発生を最後に牛疫の発生はない。
 本書では、牛疫が、歴史上ペストや天然痘と同じくらい人類に多大な被害をもたらしたこと、その牛疫対策のために獣医師という職業が生まれ、その獣医師を養成するために獣医科大学が設立され、さらに最重要な家畜伝染病(例えば、口蹄疫や高病原性トリインフルエンザ)発生時の最も効果的は対策である摘発淘汰、家畜伝染病に対する国際的な監視や連絡機関である国際獣疫事務局(OIE)設立、現在の世界獣医師大会になる国際獣医学会議の開催、各国が行っている検疫体制や家畜伝染病対策の法整備等々、全て元を辿れば牛疫との戦いの中で生まれたということであった。
 本書を読んで感激したのは、牛疫ワクチンの開発において、戦前から現在まで日本が多大な貢献をし、この分野では日本人研究者が世界をリードしてきたこと、その結果、牛疫がコントロール可能な疾病となり、最終的には牛疫の根絶に繋がったという事実である。本書を読んで牛疫と戦った先人たちへの感謝と敬意の気持ちが自然に湧いてきたが、同時に「自分も牛疫との戦いにいたらなあ」という残念な気持ちにもなった。