獣医師インディ・ヤスの冒険!

家畜伝染病と格闘する獣医師インディ・ヤスさんのブログです。インディ・ヤスさんはロシア・東欧のオタクでもあります。

西アフリカでエボラ出血熱が流行!

2014-08-11 01:01:12 | 仕事
 先週から今週にかけて恐ろしいウイルス感染症のニュースがテレビやインターネットで報道されている。エボラ出血熱である。国立感染症研究所のHPで確認したところ、病名がエボラ出血熱からエボラウイルス病(Ebola virus disease: EVD)に変わりつつあるらしい。理由は、出血症状は重要な臨床症状ではあるが、必ず現れるものではないためだそうだ。それはそうとして、非常に致死率の高いウイルス感染症であることは間違いない。
 エボラ出血熱は、1976年にスーダンやザイールでの発生でその存在が確認されたウイルス感染症で、今回(2014年)の流行まで十数件の発生例がある。原因ウイルスは、フィロウイルス科のエボラウイルスで、このウイルスは核酸としてRNAを持ち、その電子顕微鏡写真は、ひも状というか、U字状というか、ぜんまい状というか、兎に角、奇妙な形をしている。教科書的には、「多形成を示す」ということだから、変幻自在ということか。
 今回の発生の特徴は、過去の発生がアフリカ大陸の中央部であったのに、現在までのところ、ギニア、リベリア、シネラレオネ、ナイジェリアといった大西洋に面する西アフリカの諸国であることである。厚生労働省の資料では、8月4日現在、患者数1,711名、死亡者数932名と大きな流行と被害を起こしている。
 エボラ出血は、その存在が確認された当初はアフリカの風土病と一つで、専門家でもあまり知らない感染症であった。世界中にその病名を知らしめたのが、名優ダフティン・ホフマン主演の映画“アウトブレイク”である。空気感染をするようになったエボラウイルス(映画の中ではモターバウイルス)が、中央アフリカのジャングルからアメリカ合衆国に持ち込まれ、アメリカ社会を絶体絶命の危機に追い込むというもので、なかなか面白かった。ただ、その内容はあくまでエンターテイメントであり、科学的な観点からはかなり荒唐無稽なお話でもあった。
 実際のところ、エボラウイルスは、患者の血液や唾液の体液、尿や便など体液を含む排泄物を介して感染し、空気感染は起こさない。すわなち、患者との強度の接触がないと感染しないウイルスであり、インフルエンザウイルスのような大流行は起きない。現地では、死者を弔うのに近親者や隣人が死者の身体を素手で清める風習が広くあり、これが感染が広げる主な原因らしい。当然ながら、背景には劣悪な衛生環境と医療事情がある。
 西アフリカから遠い日本で暮らす我々にとっては無縁のような話ではあるが、エボラ出血熱の治療法も予防法もない現状では、まずは本病の流行地に行かないこと、そして、日本にエボラウイルスが入り込まないように警戒して検疫にあたることである。