ガミラス戦役勃発後、国連安保理決議により結成された国連軍、その基幹戦力として地球防衛艦隊は設立された。
とはいえ、その成立と実働に至る道は決して平坦なものではなかった。開戦当初は主要各国の宇宙戦力が豊富であったことに加え、人類初の対異星人戦争に対する見解と姿勢も様々であり、開戦から一年ほどは国連加盟国間の足並みが全く揃わなかったからだ。
各国宇宙軍事力の効率的運用と統一指揮を目的として、安保理下に『国際宇宙軍参謀委員会』が発足したものの、各国に戦力を供出させるような実質的権限に乏しく、当初の実体は有名無実に近かった。
加えて、更に大きな問題があった。国連軍構成国の中で最も強大な宇宙戦力を持った二国――アメリカ合衆国と中華連邦――が軍・政共に全く協調できなかったことは、この時期の地球人類全体にとって致命的な問題であった。全地球軍事力の実に七割を占めるこの二国は、各国政府と国際宇宙軍参謀委員会の権限なき反対の下、文字通り争うように独自の軍事行動を推し進めていった。ある意味喜劇的であったのは、二国の対立と行動の原因が『ガミラス戦役“後”を見越した国際社会における主導権争い』であったことだ。
だが敵手たる大ガミラス帝国軍にしてみれば、こうした地球内国家間の対立に起因した個別アクションは、単なる各個撃破の好機でしかなかった。
当時、地球の科学技術力がガミラスに圧倒的なまでの差をつけられていたのは事実であったが、全くの無力というわけでもなかった。『宇宙魚雷』と称された(直径二〇インチ以上の誘導弾を“魚雷”、それ以下を“ミサイル”と分類)当時最新の熱核兵器弾頭搭載誘導弾は、直撃すればガミラス艦艇であっても十分に撃破可能な威力を秘めていたし、航空機(航宙機)の能力では部分的にガミラス軍のそれに匹敵する機体も開発されつつあったからだ。事実、徹底した隠遁戦術(小惑星帯や暗礁宙域での待ち伏せや奇襲)でガミラス軍に出血を強い、遂には撤退にまで追い込んだ事例も少数ながら存在していた。
『防御側の優位を活かした内線防御であれば、勝てないまでも負けることはない』
後に救国の英雄となる沖田十三提督(当時の日本国航宙自衛隊 第二空間護衛隊群司令)はそう主張し、米・中艦隊の単独出撃を思い止まらせようと日本政府に強く意見具申したと言われている。
どの国家においても宇宙軍は最も新しい軍種だけに比較的リベラルな者が多く、それは特に将官クラスにおいて顕著だった(最初期の各国宇宙軍は保安・軍事組織というよりも学術研究組織としての側面が強かった)。事実、米・中すら含む宇宙軍提督の多くが自国政府に沖田と同様の主張や具申をしていたことは後の時代にもよく知られている。
だが、あくまでも従来からの国際政治の延長線上でしか事態を捉えられない米・中政府首脳の決定が覆ることは遂になく、開戦初頭にして地球は最精鋭の航宙艦艇と練度の高い将兵多数を一挙に失うことになってしまう。
それは、地球にとって単なる正面戦力の喪失という事実以上の意味を含んでいた。開戦と同時に開始されたガミラス宇宙軍による遊星爆弾攻撃を防ぐに足る機動戦力の喪失をも意味していたからである。
その点で、国威発揚・国際政治における主導権獲得といった矮小な目的の下、貴重過ぎる戦力を無為に失う結果を招いた当時の米・中政府首脳の責任は厳しく指弾されなければならないだろう。そして皮肉なことに、彼らに対する懲罰は速やかに為された――人類自身の手によってではなく、他ならぬ侵略者の魔手によって。
米・中艦隊壊滅からまもなく、大規模遊星爆撃が北米地域と中華地域を集中して襲った。地球で最も有力なエリアが判明した以上、ガミラス軍にしてみれば当然の行動であった。そして宇宙戦力の主力を失った地球にこれを阻止する力はなく(当時、充分な数の機動艦艇があれば、遊星爆撃阻止は決して不可能ではなかった)、投下された六〇パーセント以上の遊星爆弾の落着を許してしまう。
これにより、遊星爆弾が直撃した中華連邦の政府中枢は完全に消滅、元より反乱・造反を極度に恐れる政治風土から非常時の代替政府機能の準備に乏しかったことも災いし、これ以降、事実上の国家崩壊・無政府状態に陥ってしまう。
これに対し、アメリカ合衆国の状況は多少ましであった。政府機能が一時的に消滅し、市民全体に制御不能のパニックが発生したところまでは中華連邦と同様だったが、入念に準備されてい政府機能維持システムが辛うじて作動、臨時政府によって戦役終結まで国家機能と体裁を保つことになる。
断末魔にのたうつ二大国はともかく、それ以外の国々も確実に追い詰められつつあった。米・中以外の国家の宇宙艦隊を総動員しても、質・量共にかつての米・中いずれかの艦隊にも到底及ばなかったからだ。
だが、米・中の影響力低下と各国の危機感の高まりが、各国宇宙軍の指揮権統一と一元化をようやく現実のものとした。これにより、遂に実質的な意味での『地球防衛艦隊』が成立することになる。
実に五〇億もの地球人類の生命と全宇宙艦艇の六割を犠牲にした後で――。
ようやくのことで全地球的視野に立った活動を開始した地球防衛艦隊。しかし、その前途はあまりに多難であった。
大ガミラスとの圧倒的なまでの科学技術力の差、絶望的なまでの戦力不足、人類を足下から揺るがしつつある高濃度放射能の脅威――困難を挙げればきりがなかった。
そんな状況の中、国際宇宙軍参謀委員会から再編されて新たに発足した『地球防衛艦隊司令部』は一つの戦略方針を示した。
徹底した『守勢防御』である。
当時、ガミラス軍の最有力拠点が冥王星に存在することは判明していたが、あらゆる意味で攻略作戦など不可能だった。科学技術力に劣る側から仕掛けた安易な攻勢がどのような結果を招くかは、米・中艦隊の末路を見るまでもなく明らかであったからだ。出撃時点からガミラス艦隊のマークを受けていた米・中艦隊は、撤退不可能な宙域にまで誘引された上で攻撃を受け、徹底的に殲滅されていた。
地球防衛艦隊司令部と英国出身の初代司令長官ジェレミー・マウントバッテン大将が執った具体的な戦術は、アステロイドベルトや暗礁宙域を拠点とした遊撃戦術であった。更に攻撃は、奇襲が成立する場合か、相手が単艦である場合にのみと厳しく制限された。仮に戦術的奇襲が成立しない状況であれば、たとえ目前のガミラス艦隊に地球の有力拠点が攻撃を受けることが確実であっても、攻撃は中止されなければならなかった。
当然、この方針について強い反対を示す一線部隊もあった。しかし、地球防衛艦隊司令部は反対する部隊には再三に渡り司令部参謀、場合によっては司令長官自身が足を運び、方針説明と説得に努めた。
また、この頃ようやく長きに渡る解析努力が実り、太陽系に存在するガミラス艦隊の規模と活動サイクルが把握されるようになった。解析によると、ガミラス艦隊の戦闘艦総数は四〇隻程で(個艦識別は『熱紋』と呼ばれるエンジン部からの熱放射パターンの分析によって行われた)、一度の出撃・帰還から次回の出撃に至るまでの期間は凡そ三ヶ月であった。
この分析結果は関係各部門に驚きをもって迎えられた。ガミラス軍が予想以上に小兵力であったからだ。
三交替のローテーション(三グループが交替で出撃・待機・休養/整備を行う)で運用されていると考えれば、ガミラス艦隊が一度に動かせる戦力は精々十数隻、無理をしても二グループ二五隻程度が限界の戦力に、地球側は翻弄され続けていたからである。
それほどまでにガミラス艦隊が強力であったわけだが、逆に言えば兵力不足に対する悩みは地球以上と考えられた。恐らく、“辺境の蛮族相手にはこの程度の戦力で十分”として非常に限定された支援・補充しか得られていないのだろう――地球防衛艦隊司令部はそう判定していた(事実も限りなくそれに近かった)。
つまり、ガミラス軍にとって僅か一隻の喪失は、地球にとって一個戦隊の完全損失に匹敵するほどの重みがあると考えられた。守勢防御と戦術的奇襲の徹底はこうした予想と判定から決定されたものだった。そして、この地球防衛艦隊司令部の判断は、短期間で効果を上げることになる。
補給と補充、支援体制に乏しいガミラス軍は、艦隊行動時に機関不調等で少ない数の落伍艦を出していた。本来なら、こうした落伍艦は護衛を付けて根拠地に後送すべきところであったが、絶対的な戦力不足と地球軍に対する侮りから、単独での帰還を命じられることが多かった。地球防衛艦隊の標的は、この落伍した独航艦であった。
いくら科学技術力に格差があるとはいえ、機能不十分な状態、それも単艦では戦力差を覆すにも限界がある。そして、初めて狩る側に立った地球艦隊の戦術も徹底したものだった。
航空隊による牽制と足止め、その間に艦隊による包囲を完成させ、最後は同時多方位から肉薄した突撃駆逐艦による統制宇宙雷撃戦により落伍したガミラス艦は悉く撃沈された。その数は2195年に限っても四隻を数えた。
つまり、ガミラス宇宙軍太陽系派遣艦隊の実に一割が無力化されてしまったのである。この時初めて、ガミラス宇宙軍は地球防衛艦隊を“敵手”と認識することになる(それまでは精々“辺境の蛮族”であった)。
だが、敵手たるガミラス軍の評価とは裏腹に、国連並びに地球各国からの要求と圧力は日を重ねる毎に厳しくなる一方だった。彼らは地球防衛艦隊司令部の戦略方針を『フリート・イン・ビーイング(現存艦隊主義)』だとして強い口調で非難した。――今も地球は遊星爆弾とガミラス艦隊の攻撃によって日々耐えがたい損害を受け続けている!何故地球防衛艦隊は決戦を希求し、この国難の元凶たるガミラス軍を殲滅しようとしないのか!?――そうした声は、皮肉なことに地球防衛艦隊が地味ではあるが着実な戦果を上げれば上げるほどに大きくなっていった。
これらの非難と圧力に対し、地球防衛艦隊司令部は懸命に沈黙を守った。怯懦故ではない。実際にガミラスと戦い、その実力を知る立場である彼らにしてみれば、“決戦をしても勝てない”ことはあまりにも明白だったからだ。それどころか、今度こそ地球はガミラスを“苦しめる”戦力すら永遠に失ってしまう。
だが、この時点で既に様々な個人権利が抑制されていたとはいえ、地球は基本的に民主政体の国家群であった。故に市民がそれを望む以上、市民によって選ばれた政府の指揮下にある軍隊はそれを実行しなければならない。たとえそれが、どれほど愚かしく無謀な要求であったとしても――。
カゲロウ型突撃駆逐艦。
所属国によっては“ミサイル護衛艦”とも称された。
本クラスが装備した“宇宙魚雷”は当時の地球防衛艦隊にとって
ガミラス艦艇を撃破可能な唯一の兵器であった。
2197年6月20日、地球防衛艦隊は三ヶ月に一度の割合で行われるが故に『定期便(プルート・エキスプレス)』と呼ばれていたガミラス艦隊による地球本土攻撃を月近傍宙域で正面から迎撃した。
後に『“静かの海”直上会戦』と呼ばれる戦闘である。
それは、地球側にとっては乾坤一擲、ガミラス側にとっては青天の霹靂とも言うべき戦いであった。
直前まで正面からの決戦に反対していたとはいえ、決定した以上、地球防衛艦隊司令部の準備に怠りはなかった。小惑星帯で落伍艦狩りに励んでいた艦隊主力が悉く引き抜かれ、その数は一線級艦艇だけで四〇隻にも及んだ。消耗著しい航空隊も、未だ開発中の増加試作機まで投入して定数が確保された。
それらの機動戦力に加え、月面には艦隊主力の存在を決戦直前まで秘匿するための仮設艦隊泊地と、多数の電磁カタパルト砲台が設置されていた。それらは正に、ガミラス艦隊を一網打尽にするために周到に準備された地球防衛艦隊の“巣”であった。
これに対し、本土攻撃に挑むガミラス側に油断が無かったといえば嘘になる。彼らにとって、地球艦隊が正面から立ち向かってくることはないという判断は、三年以上に渡って覆されたことのない定説であったからだ。故に、緒戦におけるガミラス艦隊の対応はかつてないほど混乱したものだった。
月の反対側というレーダー覆域から突如として出現した地球艦隊。驚きつつも、対地艦砲射撃陣形から艦対艦打撃戦陣形に移行しようとしていたところに、月面から一斉に打ち上げられた多数の宇宙魚雷が驚愕と混乱に拍車をかけた。そして、背後から敵航空隊の接近が伝えられたことで、ガミラス艦隊の混乱は頂点に達する。
初動を制した地球防衛艦隊であったが、その時間が非常に限られたものであることは彼ら自身が一番よく知っていた。故に、ガミラス艦隊の混乱を更に助長すべく、艦隊旗艦『ウォースパイト』から全艦艇へ命令が飛んだ。
――全軍突撃セヨ 其々ノ神ガ皆ヲ守リ給ウ――
彼らの取った戦術は、多数の独航ガミラス艦を葬った統制宇宙雷撃戦術であった。フェーザー砲威力の圧倒的差から、砲撃は牽制程度にしか期待されておらず、この時点の地球艦隊の戦術は完全に宙雷撃戦一本槍だった。しかし彼らは、攻撃ヴァリエーションの乏しさを物量で補っていた。根こそぎ投入された主力艦隊も、月面に急ぎ設置された多数の仮設砲台群も、全てはこの攻撃を完全なる飽和戦術に昇華させる為の努力であった。そして彼らの努力は遂に報われた。
ガミラス艦一五隻の内、六隻が一時に被雷、悉く戦力を喪失してしまう。もし、地球艦隊に同じ規模の攻撃を波状的に繰り出せるだけの戦力があれば、ガミラス艦隊は確実に殲滅されていたであろうほどの状況だった(この時、地球艦隊はガミラス艦隊を完全包囲下に置いていた)。
だが、この時点で既に艦隊・月面砲台共に、宇宙魚雷をほぼ射耗し尽くしていた。敵艦隊の三分の一を葬り去ったものの、本来ならばこの時点で敵を完全に撃滅していなければならなかったのだ。つまりそれが――地球防衛艦隊の限界であった。
体勢を立て直したガミラス艦隊による逆襲が開始されると、宇宙魚雷という唯一の牙を失い、機動性にも著しく劣る地球艦隊に逃れる術はなかった。それでも、自発的に殿(しんがり)を引き受けた少数の艦艇の犠牲によって、艦隊戦力の完全消滅という最悪の事態だけは避けることができた。
しかし、この時点で地球に残された宇宙艦隊戦力はもはや両手の指の数ほどでしかなかった。地球防衛艦隊司令長官マウントバッテン大将は敗戦の責任を取って辞任、総参謀長であった日本国出身の藤堂大将が職を引き継いだ。
だが、スケープゴートを用意したところで地球の置かれた現実に変わりはなかった。ここに、地球防衛艦隊は実質的な壊滅を迎えたのである。
『“静かの海”直上会戦』には後の九九式宇宙艦上戦闘機
『ブラック・タイガー』の増加試作機四機が急遽投入された。
一機の未帰還機を出したものの、パルスレーザー砲だけで
ガミラス艦を中破した攻撃能力に対する搭乗員の評価は
高く、実用化が急がれた。
これ以降、国連並びに地球防衛艦隊はガミラス軍との戦闘よりも、地球人類の種の保存を目的とした地球脱出船建造計画(箱舟計画、アーク・シップ計画)に残されたリソースを注ぎ込むことになる。
各地で建造が開始された地球脱出船の完成目標は2199年9月~11月とされた。それまで、ガミラス軍の目を避けるべく建造工事には細心の注意が払われたが、全てを隠し通すことはできなかった。2199年6月までに貴重な脱出船三隻がガミラス軍によって発見され、例外なく破壊されていた。
しかし、問題はむしろこれからだった。数ヶ月後に迫った完成に向けて、各地の秘密工廠では昼夜を問わない突貫工事が行われ、何よりほぼ完成状態に達した巨大な船殻そのものが隠蔽をより困難にしていた。そして最も厄介な事態は、直近の動向分析から、9月中旬という最悪のタイミングでガミラス艦隊定期便『プルート・エキスプレス』の来襲が予想されたことであった。
もしこのタイミングで来襲を許せば、相当数の地球脱出船が発見されてしまう――この判断の下、遂に地球防衛艦隊最後の残存戦力に命令が下った。
“冥王星宙域まで進出し、ガミラス艦隊を誘引、戦闘状態に持ち込む”
要約すれば、それが彼らに下された命令の全てだった。命令の中に『撃滅』や『殲滅』といった景気の良い言葉が一言も含まれていないことが、この任務の異常さと凄絶さを何よりも物語っていた。
つまり、彼らに敵の撃滅は期待されておらず、ただ自らの命を的(まと)にしてガミラス艦隊を最低三ヶ月間行動不能にすることのみが求められたのだ。
後のヤマトのような特殊な例を除き、軍用艦艇とは一度戦闘行動を行えば、修理やら補給やらで数ヶ月間は根拠地で時を過ごさなければならなくなるのは地球であれガミラスであれ同様であったから、命令は最低限度の戦略的合理性を含んでいた――だからといって、このような異常な任務が肯定されるわけではなかったが。
全ては地球脱出船計画を成功させる為に断行された作戦であったが、座視し得ない問題もあった。艦隊指揮官である沖田十三提督を含む艦隊乗組員が、一人の例外もなく地球脱出船計画の中核人員であったことだ(彼らが基幹乗員となり、候補生や訓練生で水増しすることで最低必要人員数を確保する予定だった)。この作戦で彼らが失われた場合、予備人員など世界中探しても皆無であり、地球脱出船計画そのものに大きな支障が生じるのは確実だった。しかし、最終的には藤堂地球防衛艦隊司令長官が作戦決行の判断を下し、沖田提督率いる混成地球艦隊(残存戦力があまりに乏しく、所属国など既に無意味となっていた)は一路冥王星に向かって出撃していった。
地球艦隊の動きは、ガミラス軍に出撃直後から把握されていた。更に、その目的地が冥王星であることも軌道計算から正確に認識もされていた。しかし――何故かガミラス軍は動かなかった。
“静かの海”直上会戦の後、その損害の大きさからガミラス軍太陽系派遣軍司令官は更迭され、本国から新司令官としてシュルツ中将が送り込まれていた。当然、彼は前任者更迭の経緯を熟知しており、それであるが故に沖田艦隊の“あからさま”な動きを警戒していた。彼の派遣と合せて月での戦いの損害は補充されたものの、未だ太陽系のガミラス軍は戦力充分な状態には程遠かったこともシュルツの判断に影響を及ぼしていた。彼は、地球艦隊に別働部隊が存在するのではと疑い、哨戒目的の高速空母を単独出撃させただけで、艦隊主力は冥王星に留め続けた(当然、別働部隊などいつまで経っても発見されなかった)。
この結果、沖田艦隊は自らでも信じられないほど簡単に冥王星を指呼の距離に収めることに成功する。ここに至り、シュルツも遂に沖田艦隊が地球艦隊主力であり、全てであると判断、麾下の艦隊に全力出撃を命じた。その数は、稼働艦艇を根こそぎ投入したことで実に三〇隻。地球艦隊の三倍の艦艇数であり、個艦レヴェルの戦闘実力を加味した戦力係数差は数十倍にまで達すると思われた。
カイザー型指揮戦艦『ツルギ』。
著名な同型艦として沖田十三提督が指揮した『エイユウ』がある。
当時最新のフェーザー砲多数を搭載した新鋭艦であったが
砲威力の差からガミラス軍艦艇には苦杯を舐め続けた。
しかし、その指揮管制能力は高く、地球防衛艦隊の決戦戦術である
多方位からの集中宇宙雷撃戦術の指揮統制艦として威力を発揮した。
その運用思想は後のアンドロメダ級戦略指揮戦艦にも受け継がれることになる。
――我レ、敵大艦隊ノ攻撃ヲ受ケツツアリ。コレニ可能ナ限リ耐久セントス――
『冥王星会戦』開始直後に沖田艦隊から発せられた電文は悲壮ではあったが、ある種自虐的なまでの歓喜に満ちていた。彼らは敵主力艦隊の誘引という戦略目標を達成しつつあったからだ。電文の一語一語を発する間も、搭乗した艦艇と自らの生命を犠牲にしつつ。
そして遂に――彼らは任務を全うした。
戦闘中にイスカンダルから飛来した恒星間宇宙船によって地球脱出船計画は大きな変貌を遂げることになったものの、それすら彼らの任務完遂を否定することはなかった。
ガミラス艦隊主力が当面の作戦能力を失ったからこそ、地球脱出船『やまと』から転じた宇宙戦艦『ヤマト』発進に際し、ガミラス軍は大規模な艦隊攻撃といったアクティブな行動を取ることができなかった。ガミラス軍に可能であったのは、冥王星会戦の折に出撃させていた高速哨戒空母を個別にヤマト偵察・攻撃に向かわせたことと、冥王星から超・長距離ミサイル攻撃を加えたことだけであった。
それを思えば、後に特攻、統率の外道などと酷評されることの多い冥王星会戦における地球艦隊出撃は、悲惨ではあったが『無駄死』などといった言葉とは対極の存在であったことが理解できる。
様々な新機軸を搭載した画期的宇宙戦艦とはいえ、発進直後は各種装備の試験も訓練もままならず(恐るべきことに、最初の戦闘は建造に携わった技師と訓練生、沖田艦長のみで実施された)、もしこの時点でガミラス宇宙軍による大規模な艦隊攻撃が行われれば、撃沈という最悪の事態すら考えられたからだ。
ヤマト発進後、程なくしてガミラス軍の太陽系橋頭堡であった冥王星基地は殲滅された。これにより、地球に対する直接的脅威は激減したものの、地球防衛艦隊の任務が消失したわけではなかった。むしろ、ヤマト帰還まで地球近傍宙域を保持する為、最低限の戦力の再整備が試みられた。
冥王星会戦唯一の生き残りである『エイユウ』、そして資材不足や整備不足で会戦時に稼働状態になかった為、出撃が見送られた僅かな数の艦艇が簡易式波動エンジンへの換装工事を受けた。
また、極少数であったが新型艦(後に“護衛艦”として知られることになるハント型フリゲート)の建造も行われ、ヤマト帰還までの地球防衛任務にあたることになる。
ハント型フリゲート『エクスモア』
波動機関実用化後初の量産戦闘艦艇。
従来の地球艦艇とは異なり、ショックカノンを主兵装とした重武装フリゲートとして就役した。
戦時急造艦ながら運用実績は良好で、ヤマト不在の間の地球防衛艦隊の切り札的存在だった。
――終わり
(その後の地球防衛艦隊の苦闘については、『続・地球防衛艦隊2199』及び『ハント級護衛艦/ハント型フリゲート②』を参照下さい)
さて、旧年中の宿題でした『地球防衛艦隊2199』をようやく公開することができました♪ヽ(^◇^*)/
とかく無力に描かれる地球防衛艦隊ですが、公式年表ではガミラス軍に対して七年も戦闘を続けているんですよね。
きっと作中では描かれなかった苦闘や善戦の記録もあるはず・・・ということでデッチ上げたのが今回の駄文ですw
いやはや……ちょっとした説明文のはずが、長くなりすぎました(^^;)
え?オメーの下手な文章のことはいいから、模型のことを書けって?(エーン)
えーっと、まずは使用キットです↓。
1/700 宇宙戦艦ヤマト(B社 TV DVD-BOX初回封入特典)
1/500 (一部略)宇宙防衛連合艦隊 艦隊旗艦(F社)
NON-スケール 古代艦(B社メカコレクション)
古代艦をF社の『ミサイル護衛艦』にすることも考えましたが、艦隊旗艦とスケール的なバランスが悪いような気がしてメカコレを採用しました。
あくまで個人的な意見ですが、艦隊旗艦が1/1000、ミサイル護衛艦が1/700、古代艦1/800~900くらいのサイズが妥当な気がします。
結局、三隻並べた時の大小バランスを考慮して、今回のラインナップにしてみましたが、結構良い具合に落ち着いたと思います。
カラーリングは全てヤマト・ツートンカラーです。
『やっぱり軍艦や艦隊はこうでないと…』という趣味丸出しですが、カラーリングを統一すると妙に強そうに見えて、気に入っています(笑)
それにしても・・・・・・メカコレ古代艦って、発売開始は20年以上前だと思いますけど、ものすごく造形いいなぁ。
他の二隻と並べても全然遜色ありません(^_^;)
それと・・・言うまでもないことですが、ここに書いた駄文は公式設定とは全く関係のない妄想設定ですので念のためw
※23年2月25日:『護衛艦』画像とキャプションを追加しました(^_^)
過分なお言葉、本当に恐れ入ります。
こちらで公開しています文章は、あくまで模型写真に添えるためのものでして、決して深く考えてのものではないのですよ(^^;)
私もヤマトの二次創作モノは大好きなので、過去あちこちで色んな方の作品を読ませていただきました。
その中で得た考察や知識が今の私の血肉となっていますので、私の文章はそれほどオリジナリティーを主張できるようなものではないと思っています(汗)
何卒、生暖かく見守ってやって下さいませ(笑)
> 護衛艦
私の知る範囲では、公式設定ではないと思います。
ただ、現実的に十分有り得そうなアイデアなので、同人や二次創作で独自設定化されていることは多いですよね(ウチもそうなんですけど)。
作品によっては、護衛艦のみならず巡洋艦級の艦まで配備されていることもあります。
『ゆきかぜ』の波動エンジン搭載改装も同様で、公式には存在しないと思います。
唯一、PS2ゲーム版で搭載(したと思われる)改装を受けていますが、それもガミラス戦役時ではなく『新たなる~』前のタイミングで、元よりゲーム版がどこまで『公式』として扱われているか微妙なところがありますので・・・・・・。
> 『2199』
ラスト近くでヤマトを出迎える地球艦隊に護衛艦が混ざっていたりとか、太陽系到着直前にガミラスの追撃艦隊に捕捉されて危機に陥ったヤマトを急行してきた地球艦隊が支援するとか(完結編のデスラーみたいに)、そんな燃える展開が見たいですねぇ(^_^)
ところで、あちらでも質問させていただきましたが、『ゆきかぜ』の波動エンジン換装や、『護衛艦』の建造時期の設定って元ネタあるのですか?私の読んでいる二次小説でも、少しだけこの辺のくだりが出てきて、とても興味をもってしまって、色々と調べたのですが有力な情報を見つけることができませんでした。
ご存知でしたら教えていただければ幸いです。
新作『2199』では、その辺のことも描かれるとメカフェチとしては燃えるなぁと思いつつ、関連模型のリニューアルにも期待したいところです!
本年も一つ、宜しくお願いします!!m(__)m
さてさて、早速のコメントありがとうございました(^^)
ヤマト発進~帰還の間の時代は非常に妄想し甲斐があるんですよね。
『さらば』駆逐艦のショックカノンを搭載した突撃駆逐艦とか、ヤマト副砲を搭載した沖田艦とか、設定的には十分ありえると思います。
もちろん主機はワープと波動砲機能をオミットした簡易波動エンジンに換装済みとかで(^^)
あと、『さらば』護衛艦は、この時期の地球が量産可能な最大戦力として整備された艦だったとか、妄想は尽きませんw
こちらこそ本年も宜しくお願いしますm(__)m
科学技術的には決して高くなかった地球相手に送り込んでいた戦力は決して多くなかった、という解釈は充分あり得るコトだと思います。
いわば安牌であった筈の地球から「ヤマト」のような艦が、それも兄弟星であるイスカンダルからの助力で完成してしまったのがガミラス帝国最大の過誤だった気がしてなりません。
実際、ヤマトが冥王星基地を粉砕した後は地球に対する直接的な攻撃は殆ど途絶えたみたいですし。
直接的な脅威が取り除かれ、遊星爆弾による攻撃がなくなった事で地球にも余力が発生、太陽系内に残存するガミラス艦隊に対抗するだけの戦力を構築することが可能になった……という妄想もまた楽しいものです(沖田艦や突撃駆逐艦の強化とか)。
最後になりましたが今年も弊ブログともども宜しくお願い致します。