10月の寺だよりに掲載しました。
昔、あるところに片足を失ったバッタがいた。バッタは、なくした足を探し回ったがどうしても見つからない。そこで、村はずれに立っているお地蔵さんに尋ねてみた。「私の足がどこにあるか知りませんか」と。
お地蔵さんは、「それならこの山を二つ越えた原っぱにあるぞ」と答えた。これを聞いたバッタは喜んで、お地蔵さんに言われたところまで歩いて行った。片足のバッタに山越えは大変だったが、それでもバッタは頑張った。
お地蔵さんに教えられた原っぱにようやくたどり着いて、バッタは自分のなくした足を探し回ったが、どうしても見つからない。「くそお、地蔵にだまされた」バッタは腹を立てながらお地蔵さんの元へ帰ってきた。
バッタはお地蔵さんに言った。「あんたの教えてくれたところまで、大変な思いをしながら行ってみたが、私の足は見つからなかったぞ」バッタが文句を言うとお地蔵さんが答えた。
「なくした足は見つからなかったかもしれないが、おまえは、片足で立派に山二つを越えて往復できたじゃないか。一度なくしたら、二度とは得られないものもある。それならば、なくしたものをいつまでも探し回るのではなく、ないものはないと覚悟を決めて生きていくしかないだろう。」
今となっては、この話を、いつ、どのようにして知ったのかさえ定かではないし、話の詳細までは正確に覚えていない。ただ、「あるがままに物事を受け止める(如実知見=にょじつちけん)」という仏教の根本の教えに近いものがあるので、今も心に残っているのだろう。