名塩御坊 教行寺

西宮市北部にある蓮如上人創建の寺 名塩御坊教行寺のブログ
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京都・法蔵館の「板木蔵見学」(一部修正)

2023年08月01日 23時04分04秒 | 日記
住職の娘です。

6月から7月末にかけて、いろいろと学ばせて頂く機会に恵まれました。

今回は、7月24日に見学させて頂いた法蔵館の板木蔵に関する内容です。 
学ぶということは、新しい視点・価値観を得ることなのだと改めて実感しました。
 
文章が長いので、ご興味ない方はここで回れ右してください!笑

また、以下の内容は、私のにわか仕込みの知識、法蔵館職員さんや先生方からの聞きかじりの内容になりますことを、あらかじめお断りしておきます。

7月24日、有り難いご縁(龍谷大学のとある研究会のオマケ)で、京都・仏教書系老舗出版会社である法蔵館(ほうぞうかん)さんの「板木(はんぎ)蔵」を見学させて頂きました。




↑法蔵館「板木蔵」入り口

法蔵館の歴史については下記リンクからどうぞ。
法蔵館の歩み


〇版本(はんぽん)と板木(はんぎ)

・版本(はんぽん)
「版本」とは彫った板木で印刷した書物のことで、刻本、整版本などともいいます。手で書き写した書物である「写本」に対して、印刷された書物が「版本」です。

じつは、去年、本堂の裏を整理している時、以下のような書物が何冊か出てきました。
最初、「え??この汚い本、どうしよう?」というのが正直な気持ちでした。

しかし、さまざまなご縁が重なり、版本やそれにまつわる文化というものに興味がムクムクとわいてきまして、今回の板木蔵見学に至りました。




↑教行寺所蔵の版本(江戸時代)
※享和元年は1801年、安永二年は1773年。


・板木(はんぎ)
板木とは、木版印刷や版画を摺(す)るため、文字・絵図などを彫った板のことをさします。法蔵館の編集長・戸城さまの説明では、板木の材木の多くは「ヤマザクラ」とのことです。

版本用の板木は表裏の両面彫りが多く、一面に二丁が天地逆さに彫られており、両面で四丁分を摺ることができます。写真は汚いメモ書きです。汗


もちろん、他にも板木の形式はあるようですが、この両面彫りで四丁張の形式がもっとも多く確認されています。
↑法蔵館所蔵の板木「冠註 御文(明治29年)」

↑法蔵館所蔵の板木(絵の部分)


・端食(はじばみ)
板木の両端には、端食という部分があります。これは、板木が歪曲するのを防ぐための物で、通例では、板木本体より厚く大きく作られています。

↑法蔵館所蔵の板木・端食

端食がこのような形状で存在することで、板木を重ねて保管する際、刻面と刻面が接触して損傷するのを防ぎ、重ねた際に隙間を作って通気性を保つのに役立ちます。

↑法蔵館「板木蔵」一階

↑法蔵館所蔵の板木「内典塵露章(享保以前)」
積んで保管する際、この木札が目印です。


法蔵館の戸城さま曰く、板木研究の第一人者である金子貴昭先生の研究によると、この加工方式には大きく分けて3つの形式があり、だいたいの年代と順番があるとのこと。

「端食の形式の変化は、1枚の板木をそのまま保管していた時代から、制作した板木を再利用(彫った面をすべて削り取って新たな彫り込みをおこなう)する時代になります。
その際、削って薄くなった板木の釘打ちによる損傷リスクを減らすために、取り付け方法がスライド式になっていきます。しかし、明治以降、その加工の手間も省いた釘を打ち込むだけの形式へ変化しました。」(意訳…実際はもっと丁寧かつ詳細な説明でした)

元禄時代の建築ラッシュによるヤマザクラの減少、板木・端食もコストカット…世相が感じられて興味深かったです。日本人はリサイクルの工夫が上手ですね。
 

〇板木蔵
法蔵館には蔵が3つあり、そのうちの一つが印刷の原版となる板木や紙型を保存する蔵になっているそうです。
今回は、その蔵を見学させて頂きました。

数多くの板木が積み上げられており、中でも一部の板木以外は未調査です。使われなくなってから手つかずのままの板木と紙型が大量に保存されているとのことでした。


↑法蔵館「板木蔵」一階

板木に関しては、金子先生が調査に入って長年放置されていた板木をデジタルデータとして保存・閲覧のための作業を続けておられます。ただ、大量に保管されている紙型は、まったくの手つかずです。


〇紙型(しけい)
紙型について、私は聞けずに終わってしまったので、ご一緒した先生に後から伺った内容を少しまとめました。

古いものを扱っておられる龍谷大学・研究会の先生方をして「紙型という言葉は知っているが、実際に見るのは初めて」と言わしめる貴重な紙型。

法蔵館の職員さんでさえ未確認のまま、大量に板木蔵に保管されていました。


↑法蔵館所蔵の紙型

紙型とは、特殊に作られた紙に活字版をプレス(型押し)してできた紙製の鋳型ということで、この紙型に、溶かした鉛合金を流し込むことで版面を作ります。

江戸時代に発展した日本の木版印刷技術とヨーロッパから入ってきた金属活版印刷技術、この両者それぞれの長所を活かし、弱点克服のためにできたのがこの紙型です。
薄くて軽い紙型は、地方へそのまま送ることも可能でした。

それによりコストダウンがすすみ、情報が都市から地方へと伝達・共有されるスピードが速くなり、全国津々浦々、庶民も様々な情報を得られる時代の一端を担ったのでしょう。

お恥ずかしながら、このお話は、印刷機が普及した時代に生まれた私にとって想像がつかない部分が多くありました。
しかし、この技術や発想が素晴らしいものだということだけは理解できました。


〇板木の調査・研究について
金子貴昭先生の『近世出版の板木研究』に、このような板木に関して詳しく書かれています。

ついでに、金子先生が、法蔵館で板木について説明をしておられる動画はこちら↓
『法藏館の板木蔵について』ミニレクチャー&板木蔵見学 
ご興味があればご覧ください。

ちなみに、法蔵館さんとしては、板木・紙型について研究してくださる方を募集しておられます!


最後に

この度の一連の学びによって、私自身、新しい視点や価値観を与えて頂きました。

去年、本堂の裏で見つけた小汚い版本仏書。
何も知らない時には、私にとってこの版本はゴミ同然でした。
粉塵にまみれて虫食いも…正直、今後必要でもなさそうな書物の保管に困っていたのです。

しかし、縁あってとあるご住職さまから『近世仏書の文化史 西本願寺教団の出版メディア』という法蔵館から出版された本を貸して頂き、そこで仏書(版本)から当時の世相を見ることができる、興味深い分野があるのだと知りました。

そして、この度、法蔵館・板木蔵見学という「版本製作過程」の一端をまざまざと感じられるような経験をさせて頂くことで、本堂裏の版本もこういうところから生まれて、縁あって今ここに存在しているのだと実感がわくようになりました。

貴重な学びの場を与えてくださった研究会の先生方、法蔵館の職員の方々に心よりお礼申し上げます。

南無阿弥陀仏


⭐︎「法蔵館(ほうぞうかん)」の漢字表記について、正式には「藏」ですが「蔵」で表記しています。

【文献】
金子貴昭著『近世出版の板木研究』(法藏館)



万波寿子著『近世仏書の文化史 西本願寺教団の出版メディア』(法藏館)





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