YOSHIの果てしない旅(人々との出会い、そして別れ)

ソ連、西欧列車の旅、英国滞在、欧州横断ヒッチ、イスラエルのキブツ生活、シルクロード、インド、豪州大陸横断ヒッチの旅の話。

ロンドンの旅~シーラの友人宅訪問とキスの見解

2021-08-28 15:12:53 | 「YOSHIの果てしない旅」 第5章 イギリス
△夜10時過ぎ、ヘンドンセントラル駅へ腕を組んで歩く私とシーラ By M.Yoshida

・昭和43年8月28日(水)曇り(シーラの友人宅訪問とキスの見解)
 3日間続いて、又今朝も胃が痛くなって来た。異国の地でいつまでもこんな状態では、非常に心配、不安であった。『日本へ帰ろうか。帰らなければいけないのか』とも考えた程であった。しかし、やっとここに来たばかりで、もっと旅をしたいし、もっと自由を満喫したいのだ。『その内に腹の調子も良くなる。ここは我慢のしどころ』と1時間ばかり、ユースのベッドで痛みが和らぐのを「ウー、ウー」唸りながらじっと耐えた。
 今日、私は彼女の友達のMrs. Janet Tomlin(ジャネット・トムリンさん。以後「ジャネット」と言う)の家へ、彼女と共に遊びに行く予定であった。午後5時30分、Wembley Park(ウェムブリー・パーク駅。Bakerloo又はMetropolitan-Lines)で彼女と会う約束になっていた。
 胃の痛みが治まり、ペアレントに「昨日と今朝、お腹が痛く食べられなかったので、2日分の朝食代金を返して下さい」と払い戻しを請求した。
「食事の用意をしていたのに、食べなかったのは貴方の都合上であり、申し訳ありませんが払い戻しはしません。もし、食べないようでしたら、前日までに申し出して下さい」と言われてしまった。血も涙もない仕打ちに感じられた。苦しんでいるので、私はそう感じてしまった。でも、仕方ない事であった。
観光の為にユースを出たが、腹が空いていた。食べられるか如何か不安であったが、ユース近くのカフェ店で軽く朝食を取ろう、と入った。この店は安いので労働者やダブルデッカーの運転手や車掌達でいつも大勢いた。
コーヒー(9ペンス36円程度)に、パンにバターを塗ってもらって食べた。栄養はないが、何でも腹に入ればこの場合はそれで良かった。腹痛は10時を過ぎた辺りから今日も和らいだ。全くおかしな病に苦しめられる毎日であった。
観光は、ウェストミンスター寺院 、テートギャラリー(美術館)等をゆっくり見て廻った。
 夕方、彼女の友達の家に訪問するので、何を手土産に持って行って良いのか、トンと分らなかった。日本人以外の家庭を訪問するのは初めての機会であるし、それに彼女の為にも悪い印象はしたくはなかった。
ヴォークソールブリッジ通りを散策していたら、初めてロンドンに来た時のヴィクトリア駅前に来た。駅周辺は、人々が商業活動をして賑やかであった。その駅前に花屋さんがあった。そこで彼女の友達・ジャネットに花束を買って持って行く事にした。『女の子であるから、お花であれば喜んでくれるであろう』と吾ながら良い手土産と思った。
 散策しながらハイドパーク前まで来た時、急に雨が降り出して来た。待ち合わせ時間にそろそろなるので散策を切り上げ、ピカデリーサーカス駅から電車で待ち合わせ駅のウェムブリー・パークまで行った。
約束の午後5時30分過ぎても、彼女は来なかった。『待ち合わせ駅を間違ったかな。若しかしたらPiccadilly-LinesのWoodside Parkかな』と思って、ここの駅員に「ウッドサイド・パーク駅へ電話をして、ミス・シーラ・モーガンを呼び出して欲しい」とお願いした。しかしその駅員は「電話はないので出来ない」と断られた。電話がない訳はないのだ。イギリスの鉄道は、個人的な事を受け入れない、そんな制度になっているようだ。日本では不親切に捉えるが、ここでは不親切でなく、乗客の個人的な事を言ってくる方が不当な要求、と私は認識した。
とにかく、ロンドン郊外の中西部地域だけでも、『何とかパーク』が付く地下鉄の駅名は5~6駅あった。私は彼女が言った駅名を聞き違いしたのかと、連絡方法がなく不安と心配で仕方がなかった。20分位そんな状況の中、彼女が申し訳なさそうに、「遅れてゴメン」と言いながら現れたのでホッとした。
 この後、私と彼女は駅前からバスに乗ってジャネット宅へ向かった。今回、私達はバスの2階に上ったので街の景色が良く見えた。「シーラ、2階からだと景色が良く見えるね」と私。
「そうだね。でもYoshi、貴方は話が上手になって来たね」と彼女に言われた。今までそれほど彼女に積極的に話し掛けなかったのだ。私は英会話力がないもので、どうしても受身的(彼女が話し掛けないと、私も話さない状態)な状況になっていた。何度か会っている内、彼女の言っている事が、最初の頃より分るようになって来た事は確かであった。
 ジャネットの家はロンドン郊外の中西部Wembley(ウェムブリー)で、バスの2階から物珍しそうに街並みを楽しみながら乗っていたので、直ぐ着いた感じがした。
ジャネットとジェネットのご主人は歓迎して私を迎え入れてくれた。ご主人は間もなくして仕事の都合で出掛けてしまったが、彼はなかなかの知日的の様で、彼女やジャネットも知らなかった日本のSONYやカメラ製品、或いは自動車等の良さを知っていた。
彼女がSONYのトランジスターラジオをプレゼントされた事を知った彼は、「シーラ、Yoshiから良い物をプレゼントして貰ったね。SONYのトランジスターは、最高なのだよ」と言ったのだ。私もその事を言ったのだが、彼も言ってくれたので彼女もプレゼントの良さを改めて認識したようであった。彼は、『彼女達はSONYも知らないのか』と云った様な顔をしていたのが印象的であった。
 ジャネットの家は、彼女の所と同じテラスハウスで、その一戸に住んでいた。間取りは広い感じはしなかった。確か、2部屋と台所(2DK)、部屋は良く整えられ、新婚家庭の雰囲気が感じられた。
 私はジャネットに花束をプレゼントした。ジャネットは大変喜びして「明日は私の誕生日なの。その事をシーラから聞いたの」と言われた。
「シーラはその事について何も言いませんでした。自分で花束を贈るのを決めました」と私は言った。
「Oh、Yoshi. 貴方は優しいのね。有り難う」とジャネットに感謝された。彼女からも、「Yoshi, You are a good guest 」と褒められてしまった。私は彼女達に大いに心証を良くした。花束を買ったのは正解であった。
 それから夕食をご馳走になった。彼女と私(私はシーラの『つま』)は、ゲストとして招待されたが、だからと言って特別用意された料理ではなく、彼等が普段食べている様なスィンプルな料理であった。
私が、「テレビを点けませんか」と言ったら、ジャネットは「ゲストが来ている時、テレビを点けるのは『バッドマナー』で、決してテレビは点けません。点けないのが習慣になっているの」と言った。「どうして」と聞くと、「折角、友人が来たのだから、点けると大事な、或いは楽しい会話が出来ないでしょう」と説明されてしまった。『成る程な』と私は感心した。我々日本人は、お客さんや友人が尋ねて来ても、直ぐにテレビを点ける習慣があるが、見習うべきであると思った。 
所で、洋の東西に関係なく女の子のお喋りは、たわいもない話題で盛りあがっていた。猫が如何の、犬が如何の、今年の冬のファッションが如何のとか。
 ジャネットはシーラより少し背が低め、美人タイプではないが(中肉中背で私のいい加減な感じで見て)、感じが非常に良い女(ひと)でした。食事中やお喋り中でもジャネットは、私にとても気を使ってくれて、有り難かった。
何はともあれ私と彼女は、ジャネットのお陰で楽しい一時を過し、10時頃お暇した。ジャネットはバス停まで見送りに来てくれた。 
 私と彼女はバスに乗り、そして最寄り駅の停留場で下車した。人通りのない夜の街を私は彼女と腕を組んで歩いた。
突然、私は彼女の唇が欲しくなったので立ち止まり、「シーラ、キッスしたいのだけど。君が好きだし」と彼女の目を見て言ってしまった。彼女は表情を崩す事なく、「私とYoshiは、恋人同士ではないの。だからダメ」と彼女のあっさりした言葉が返って来た。
日本男子、遥々ロンドンまで来たのだから、せめて彼女の唇だけでも私の物にしたかった。彼女の所へ既に2度行き、部屋には誰も居ない2人だけであった。出来ればその時が良かったのであるが、まだ会ったばかりであり、しかもフィリングがそこまでまだ無かったし、強要もしたくなかった。
しかし、今夜は彼女の友達に会って夕食をして、楽しい時を過ごした。彼女の感情は良く、そして、街は薄暗いし誰もいない、私はこのチャンスを逃したくなかった。
「シーラ、君の唇が欲しい。好きだから」と縋る思いで又言った。しかし彼女は冷静であった。子供を諭すように、「Yoshi、貴方と私は文通を通じての友達同士、否、兄弟姉妹の関係と言ってもよいのよ。だって明後日、家族の一員としてYoshiは私のウェールズの家に来るのでしょう。兄妹がキッスをしますか」と彼女の説得力のある「NO」の言葉であった。
私は彼女の感情を害し、友達関係まで破綻させたくなかったので、「分ったよ、シーラ」と言うだけであった。だって彼女の言っている事は事実であるし、眞であったからこれ以上、何も言えなかった。自分が想い、欲していた事を口に出してしまったので、気も晴れ晴れであった。以後、2度と私は、彼女にこの様な事を口に出さなかった。
 私達は何もなかったように腕を組んで歩き、ウェールズの事等を話しながらHendon Central(ヘンドンセントラル)駅へ行った。駅のプラットホームで電車を待つ若いカップルがキッスをしている光景を見ると、私は何とも口惜しい感じがした。彼女は如何に感じたのであろうか・・・・。
 電車に乗った。彼女が降りるブレント駅は、一つ目であった。彼女は下車し、そして電車が発車して見えなくなるまで私に手を振っていた。彼女の心の温かさ、純情さが感じられた。しかし、私は甘いのだなぁ。彼女に手を振って貰っただけで感じてしまうのだから。先程、キッスを断られ、『シーラは、固いし、真面目過ぎる』と思ったのに・・。
 途中ずっとユースは閉まってしまったか、心配であったが、まだ開いていた。午後11時30分頃、寝た。