その日はエコー検査(腹部超音波検査)の為だけに病院に行った。
受付を済ませ、予約の時間まで間があったが
いつもとは違う階上フロアーの吹き抜けを見下ろせる椅子に座り
私は最近座ると習慣になってしまった*****をした。
この病院は私にとっては不思議な場所であった。
最悪な印象から入ったものの、担当医の人柄のおかげで
本音で話し合いながら病に向き合う事が出来るのは
病院に行く事の抵抗感を和らげるのに十分であった。
そして、検査や診察までの長い待ち時間を使って
私はずっと*****をするのだが、
この病院でする時は何がパワースポットでブーストがかかったような
感じがして、良い*****が出来た感じがするのだった。
その日もひたすら待ち時間を*****で過ごした。
やがていつもの診察とは違いほぼ予約の時間どうりに名前を呼ばれた。
中にはいると靴をスリッパに履き替えるように言われ
検査用の浴衣になった。
看護師さんに促されて検査室に入ると
二人白衣を着た人がいて一人は男性一人は女性であった。
ベットに仰向けになるように言われ看護師さんに少し手伝ってもらって
天井を見上げた。
「研修者が最初行ったあと ベテランの者がもう一度検査を行います。」
とその看護師さんが言った。
私は別に同意は求められなかったが、違う人が2回検査をやるなら
何かあった時に見つかる可能性が高いから別に気にせず
返事もしないでされるがままにエコー検査を受けた。
最初の人はとても時間が掛かった。
体をスキャナーのようなデバイスを
ジェルで滑らせるようになぞってゆくのだが、
慣れていないのだろう
丁寧だが寝返りを打つのも手伝ってもらわけなければならない
私のような患者にはけっこう負担がかかる時間であった。
二番目の方は手際よく最初の半分くらいの時間で終わった気がした。
初診の時もそうだったが、 初回は二人に診てもらうという偶然の一致が
何が可笑しくて、
何となくツキを感じて笑みを浮かべてその日は病院を後にした。
何日かしてエコー検査の結果も兼ねて定期の診察の日を迎えた。
尿細胞診検査は相変わらず陽性のままであった。
血尿は量は減ってはいたがまだ出ていた。
エコー検査の結果は異常なしであった。
「エコーの検査では腎臓、膀胱、を含め内臓に異常は認められませんでした。
しかし、まだまだ不十分ですから、次に大腸内視鏡検査か胃カメラのどちらかを
しませんか。?」
担当医はいつもの静かな口調で癌を否定する為に必要な検査名を言った。
「CRP値(炎症値)は 前回からまた下がっていますよね。」
私は日常の動作の不自由さに変化がなく
夜の辛さは実感として増しているという事実は告げずに
CRP値が下がり続けている事実を盾に
「もう少しだけ検査を待ってもらえませんか」
とお願いをしてみた。
担当医はディスプレイを眺めながらしばらく考えた後に
「わかりました。確かに何も治療もしない現状でCRP値が下がり続けている事は
悪性腫瘍の可能性である確率が受診時よりも低い事を示しています。
でも体調の急激な変化があった場合は、すぐに来院してください。
救急もやっていますから」
と力を込めた声で答えてくれた。
私は理解のある担当医に感謝を述べて診察室を出た。
今現在の自分は日常生活で一人で立ったり歩いたりする事が出来る瀬戸際であった。
椅子から立ち上がる事。歩く事。階段の昇り降り、ペットボトルの蓋を
補助具を使わなければ開けれない事、財布から小銭を出す事、
何もかもが、なんとか時間をかけて出来ている状態であった。
しかしそれも深夜の痛みのレベルが昼間に降りてきたら
それも無理になるだろうという事は分かっていた。
帰りの電車はラッシュにかかり座れなかった。
手の平が膨れ手すりを掴む事が出来なくなっていた私は
ドアに体を押し付けて揺れに耐えていた。
真っ暗な外を見ながら
私は若い時の病院に通っていた時の事を思い出していた。
⑮に続く