ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

マラパルテ邸の青い海にバルドーのお尻が丸い『軽蔑』

2008年05月23日 | 映画
 70年台の初めに出版され、わが書棚にも埃を被っているだろうマラパルテの『クーデターの技術』は、あの頃かなり話題になった1冊だ。通信網、交通網の遮断とか至って実践的なクーデター技術の実用書で、これを読めば誰でもクーデターができるという気にさせる危ない本なのである。ゴダールの『軽蔑』に登場する裏カプリの断崖に立つシュールな階段の別荘こそ、かの奇人マラパルテの家というのは、その事実を知れば、家の存在感は映画の舞台装置だけでは片付けられない建築物のアウラなのだろう。こんな家を建てたマラパルテもすごいが、ここを見つけてきたゴダールもすごい。さすがは超ブルジョアの坊ちゃんだ。

 その赤いレンガの壁と白い屋上と青いカプリの海のコントラストは、この映画の一貫した色彩計画も、メプリとカプリとオシリの語呂を思えば、ここが発端だったのだと思わせる。屋上に横たわるバルドーの丸いお尻(前半のマンションのシーンでは、ベベの頭部はカットしても丸い尻だけは画面に横たえて見せている)。とりわけ黄色いバスローブをまとったバルドーが断崖の階段を、ミシェル・ピッコリを避けて海へと逃げるワンシーン・ワンショットがすばらしい。カメラは、ピッコリが追うのをあきらめて、断崖の上に片膝をついている眼下に青い海と岸壁をとらえ、その視線の向こうに、まず、岩陰から黄色いバスローブが舞い、やがて海に飛び込む音が聞こえ、青い海を白く丸い尻をした裸のバルドーが横切っていくという、この一連の動きがワンショットでとらえられ、これはもう溝口だと思わないわけにはいかない。マンションでの2人が会話をとらえた横移動のカメラといい、すべてが溝口だといいたくなるほどなのだ。フリッツ・ラングが渋い。
 
 浪人時代、文芸座で観たときは色彩の鮮やかさを感じなかったが、今回、デジタル・リマスター版DVD2,500円の『軽蔑』は、ラウール・クタールのカメラを鮮やかに再現して絶対お買い徳だと思うのだった。

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