東京国際映画祭の正式作品として丸の内ピカデリーで上映された小田香監督のドキュメンタリー「Underground アンダーグラウンド」を鑑賞。地下空間にこだわったドキュメンタリー映画を制作してきた小田監督が日本の地下空間に取材し16ミリで撮影した作品だ。
アンダーグラウンドというと私の世代は60年代のアングラという言葉が浮かぶ。映画、音楽、演劇、詩など新しい息吹はまさにアンダーグラウンドから生まれた時代があった。作品を観るために暗闇を必要とする映画は、アングラの記憶を今も残すメディアかもしれない。
さて、本作の地下とは主に札幌の地下街の地下世界で撮影したらしいが、冒頭その雨水トンネルに懐中電灯のような光をあてるショットから始まり、一転暗闇に蛍が湧き上がるような映像に変わる。それは、洞窟の貯水池のような暗闇で水面に映像を反射させていて、幻想的な映像がつぎつぎと映し出される。
ドキュメンタリーなのだが、地下世界への案内役としての影を演じる女性(吉開菜央)が登場する。その影とともに私たちは地下世界とそこに染み付いた歴史の記憶を辿ることになる。札幌地下鉄の線路脇の暗闇、巨木の下の防空壕のような地下、石仏が並ぶ洞窟など。戦争中防空壕代わりになった沖縄の鍾乳洞では語り部が戦時中の記憶を語り、土中から人骨を拾う。もちろんその展開は劇映画の語り口とは全く違うので、観客はむしろ提示される暗闇とそこに映し出される映像と強烈なウーファー音に身を浸すことになるだろう。
最後に影はダム湖に沈んだ街へ観客を導く。水が干上がって水中にあった住居の痕跡が現れ、ひび割れて苔がこびりついた地底が露出する。ここもかつては水底にあったという意味でアンダーグラウンドなのだ。
地下水を吸って樹木が育ち汲み上げた水を利用して生活をする私たち。映画は地下と地上を往来しながら、地下世界に堆積する歴史の記憶へ見るものを誘っているように思える。来年2月から全国公開される予定だが、小劇場での上映になるだろう。そうした意味で丸の内の大スクリーンで鑑賞できたことは、特別な映画体験となったが、公開時にはぜひ観ていただきたい作品だ。
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