ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

なんかムンクあるかよ!

2006年05月31日 | 
「明暗」と「虞美人草」を残してちょっと漱石を一休みした。

で、何を読もうかと思うのだが、漱石に匹敵するものでないとどうも四つに組む気になれなくて、マルセル・プルースト「失われた時を求めて」全訳が集英社文庫で出始めたので、よしこれだとばかり、まず「スワン家の方へ」を読み始めたが30頁くらいで挫折。そうだグレン・グールドが「草枕」とともに愛読していたのがトーマス・マン「魔の山」だったと、これは快調に進んでいたが、途中で盗まれたムンクの「叫び」奪還のノンフィクション「ムンクを追え」(エドワード・ドルニック著・光文社)に手をつけたら、「魔の山」が中断のままになってしまった。

読書の核がなくなるとあれもこれもと目移りがして浮気してしまうのは悪い癖。でも「ムンクを追え」は、「叫び」奪還に挑んだロンドン警視庁美術特捜班の囮捜査官チャーリー・ヒルにスポットをあてたノンフィクション。連続TVドラマチャーリー・ヒルシリーズなんかにしたらさぞかし面白かろうというようなエピソードが一杯の本ではある。専門の美術捜査官が活躍する舞台があるところが、盗難品、贋作も含め表裏の豊かな美術市場を形成しているヨーロッパならではなのだろう。この手の本を読んでいつも感じるのは、美術館の防犯がとても甘いということ。日本では最近仏像なんかが盗難にあっているけれど、大掛かりな美術品盗難事件はない。この前行った「プラド美術館展」でもゴヤの小品などは、サイズも手ごろで壁からすぐ取り外せそうだったから、やれば案外簡単にできるかも。

 学生時代だったと思うが、フェルメールの贋作で有名なメーヘレンの話を種村季弘の本で読んで以来、美術品盗難や贋作に関する話は大好きで、割と最近読んだ中では、「偽りの絵画」(アーロン・エルキンズ/ハヤカワ・ミステリ)、「フェルメール殺人事件」(講談社文庫)といった小説、とりわけエルキンズには学芸員クリス・ノーグレンシリーズがあり以前はこのシリーズが出版されていたのだが、いまは「偽りの絵画」しかないのが残念。「消えた名画を探して」(糸井恵/時事通信社)はバブル期に日本を舞台に高価で売買されたゴッホやピカソの名画にまつわる話、タイトルどおり盗難絵画王フェルメールにはまってしまうのが「盗まれたフェルメール」(朽木ゆり子/新潮選書)、「にせもの美術史」(トマス・ホーヴィング/朝日新聞社)はメトロポリタン美術館館長と贋作者たちとの頭脳バトルがおもしろい。

あとナチの略奪絵画に関するものなど、この分野にはワクワクするエピソードがあふれているけれど、「ムンクを追え」にも書いてあったように、最近は緻密な計画で防犯網をかいくぐって目的の絵画を略奪するより、いきなり拳銃突きつけて奪ってくるという荒業がまかり通っているというのは、盗むほうも盗まれるほうも怠慢じゃないだろうかと思うのだった。

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