Storia‐異人列伝

歴史に名を残す人物と時間・空間を超えて―すばらしき人たちの物語

「賢治小景」

2006-03-05 20:31:24 | 音楽・芸術・文学
  
昨日は岩手県盛岡市の知人の結婚式に行って来た。
すこし早く着いてすぐそばの北上川べりや、材木町あたりをぶらっと散歩。あたまのうえで小鳥がピーピーピー、チチチチ、チュチュ、チュキチュキ、キキ、風はまだ肌寒く、サワサワ、ざらざらざら、遠くに岩手山、上の方は霧がかかって見えない。

材木町商店街は歩道や町並みを一新し老舗も新しい装い。宮澤賢治が腰掛けていた。
光源社」は落ち着いた工芸品店。裏庭が北上川の岸べに面す。ここは宮澤賢治が名づけた店で、1924年、29歳のとき、「注文の多い料理店」をこの「光源社」から出版した。近くに啄木新婚の家、例の四畳半あちらは少し暗い。

盛岡の停車場のちかく、「光源社」の庭に喫茶店がありました。
一番奥のご婦人は白猫でした。文芸誌ふうのを窓際で静かに読んでおりました。
二番め席には虎猫のカップルがふたりだけに通じる声でお話。
三番めの小さなテーブルには一眼レフ持った三毛猫オジさんが、外に出てケータイを受けます。
四番めのもっと小さな椅子にはボクが座りました。カウンタには熟年の竈猫ご婦人の連れがおりました。ゆったりした時間がながれ、文庫本でも読んでいたいところでしたが。あいにく時間の持ち合わせがない黒猫の僕は、最後に来たのに最初に出ました。
(寓話 猫の事務所 ふうに...)

「賢治小景」という本を駅ビルの本屋で見つけた。賢治の作品に関わる逸話、研究、観賞など104話。朝日新聞岩手版2001.4.1-2003.12.20に連載された。
著者板谷栄城氏は「宮沢賢治の宝石箱」(朝日新聞社)、「宮沢賢治の、短歌のような」(NHK出版)なども出されている。
「雨ニモ負ケズ」だけではない、賢治の世界にふれてみましょう。童話だけでも。

宮澤賢治には、きらびやかな音と色彩があって、科学の素養の裏づけのなかに幻想的な不思議な世界。生き物全てがしゃべり、演奏し、地上の束縛から解放され空間も超える。銀河鉄道の夜では、賢治はブラックホールにも気づいていますね。

(貝の火 から)
風が来たので鈴蘭は、葉や花を互にぶっつけて、しゃりんしゃりんと鳴りました。
...
つりがねそうが朝の鐘を「カン、カン、カンカエコ、カンコカンコカン。」

(よだかの星 から)
そらのなかほどへ来て、よだかはまるで鷲が熊を襲うときするように、ぶるっとからだをゆすって毛をさかだてました。
それからキシキシキシキシキシッと高く高く叫びました。その声はまるで鷹でした。

(烏の北斗七星 から)
<ああ、マヂエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように早くこの世界がなりますように、そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまいません。>

(注文の多い料理店 から)
「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。
「遁げ……。」

(セロ弾きのゴーシュ から)
大きな三毛猫、かっこう、狸の子、野ねずみの親子、
...
「どこまでひとをばかにするんだ。よし見ていろ。印度の虎狩をひいてやるから。」ゴーシュはすっかり落ちついて舞台のまん中へ出ました。

(銀河鉄道の夜 から)
銀河ステーション...
ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、そらのすすきの風にひるがえる中を、天の川の水や、三角点の青じろい微光の中を、どこまでもどこまでもと、走って行くのでした。
...
白く光る銀河の岸に、銀いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて
...
水晶細工のように見える銀杏の木、
燐光の川の岸を進みました。向うの方の窓を見ると、野原はまるで幻燈のようでした。
百も千もの大小さまざまの三角標、その大きなものの上には赤い点点をうった測量旗も見え、野原のはてはそれらがいちめん、たくさんたくさん集ってぼおっと青白い霧のよう、そこからかまたはもっと向うからかときどきさまざまの形のぼんやりした狼煙のようなものが、かわるがわるきれいな桔梗いろのそらにうちあげられるのでした。じつにそのすきとおった奇麗な風は、ばらの匂でいっぱいでした。
森の中からはオーケストラベルやジロフォンにまじって何とも云えずきれいな音いろが、とけるように浸みるように風につれて流れて来るのでした。
...
ああそこにはクリスマストリイのようにまっ青な唐檜かもみの木がたって
その中にはたくさんのたくさんの豆電燈がまるで千の蛍でも集ったようについていました。「ああ、そうだ、今夜ケンタウル祭だねえ。」

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「賢治小景 熊谷印刷 文・板谷栄城 絵・橋場あや ISBN4-87720-294-3」
「セロ弾きのゴーシュ・グスコーブドリの伝記 宮沢賢治 角川文庫ISBN4-04-104002-7」
「風の又三郎 宮沢賢治 角川文庫ISBN4-04-104009-4」
「まなづるとダアリア 宮沢賢治 角川文庫ISBN4-04-104010-8」
「宮沢賢治作品館」宮沢賢治の童話と詩 http://why.kenji.ne.jp/index2.html

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熊谷印刷出版部

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