遥かなる未踏峰〈上〉 (新潮文庫) | |
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新潮社 |
三浦雄一郎氏、エベレストから下山、カトマンズの空港で「酸素が濃いな・・・」。7年前に記録しておいた「三浦ファミリー!」、このあと75歳でまた登り、今また80歳で、「いくつになっても夢をあきらめない.その基本として健康、体力、気力を持てるということが必要」「よせばいいのに合計1時間ぐらい(酸素)マスクを取った。逆に疲れた。別のゾーン(次元)の空気だった」(毎日新聞2013.5.27より)、たいした怪物ですなあ。
エベレスト、チョモランマというべきなのだろう。ちょうど、ジェフリー・アーチャーの「遥かなる未踏峰」(Paths of Glory) を読んでいたところであった。文庫本の後書きから引用させてもらえば、— エヴェレストに挑み「なぜ登るのか?」と訊ねられ「そこに山があるからだ」と答えた悲劇の登山家ジョージ・マロリーGeorge Herbert Leigh Mallory 。彼は山頂にたどり着くことができたのか?いまでも多くの謎に包まれている彼の最期・・・—
名前だけどこかでうろ覚えの人であったが、「そこに山があるからだ」はマロリーの言葉。この人物に、ぼくのお気に入りの作家ジェフリー・アーチャー氏が迫ってくれたすばらしい小説だ。アーチャーさんの産物はCat-O'Nine-Talesもメモし、その後ゴッホの謎解きも面白かったが最近とんと御無沙汰していた。ところが出版社の言う所で、壮大なるサーガとか、「時のみぞ知る」Only Time Will Tell がいよいよ開幕だという。本国ではすでにこの「クリフトン年代記」第3部迄出たがこちらでは最近戸田裕之さんの翻訳で出たばかり。面白すぎてあっという間に読んでしまった。昔のリッチマン・プアマンを凌ぐドラマも作れそうな感じ。第2部以降は邦訳はすぐ出そうにないので道草喰っていたのが2年前出た、この本。
アーチャーさんが、新田次郎みたいな山と山男/山女の話を書くのかなあと思ったら大違い、人物のものがたりであった。マロリーはこれでまたまた21世紀に生き返ったすばらしい史伝、だけど、物語の最後には、やはりまた亡くなってしまった、残念。1924年6月、37歳の短い一生であった。日本では大正13年、オヤジや五十人町のおじいちゃんの生まれたころ。頂上まで600フィート(約182M)の「セカンドステップ」に立つマロリーとアーヴィンの姿が27300フィート(8321M)の第6キャンプのオデールの眼に入った。がまもなく霧のなかに消えた・・・75年経った1999年5月、マロリーの遺体が見つかる・・・マロリーは、いまエベレスト8164メートル地点に眠る。
孤独なむさくるしい蜘蛛男のような山男かというと、さに非ず、ケンブリッジを出た明るいインテリだったようだ。お友達の一人には「ビクトリア女王」の伝記作家リットン・ストレイチー、教師をした時代の教え子に、I,Claudius / Claudius the GOD「この私、クラウディウス」のロバート・グレイブズ。ジョージ・マロリー、第5キャンプでもイーリアスの翻訳をつづけ、ジョイスのユリシーズを読んでいた人だ。無事に下山出来ていればどれほどの仕事と作品を残したことか・・・ジェフリー・アーチャーが描いたものはジョンブル魂、よき家庭人、イギリス人の理想とするもの、と解説で三橋曉氏は書いている。最愛の妻ルースにあてた膨大な手紙の最後は頂上アタックの第6キャンプに残されていた。栄光への途のみ目指したのではない人の、命がけのラブストーリーであろう。
1953年のきょう5月29日はヒラリー卿がテンジンとともにエベレスト登頂に成功した日のようだ。偶然知ったことで、これはそのうち忘れるだろう・・・
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NHKBSプレミアム「ザ・プロファイラー」—エベレスト人類初挑戦伝説の登山家マロリー(2014.3.5)を観た。第3次遠征隊の第6キャンプとマロリー最後の笑顔の動画像その他の写真が観られたのが収穫だったが、どうも違うなあ、という感じ。酸素ボンベも使うこと自体が邪道と言われた時代だったのだろうし・・・それよりも、肌身離さず持っていたルースの写真は、遺体からは見つからなかった、だから・・・アーチャーの作家としての嗅覚。これをボクも信じて、登頂成功後の下山中でのザイルパートナー滑落が命取りになったと、思いたい。まあいいか、今日の番組の視点はその部分ではないから・・・(2014.3.5追記)