【人生をひらく東洋思想からの伝言】
第48回
「三尺箸(さんじゃくばし)の譬(たと)え」(仏教)
仏教では、「自分の収入に見合った等身大の生活をする」
「困っている人のためにお金を使う」ことによって「富の循環」が生れると考えています。
自分自身がどんな状況にあろうと、「先に他人に与える」「先に、他人の役に立つ」のが
仏教の教える富の方程式と言われています。
その教えの源泉にこんな説話(寓話)がありますのでご紹介させていただきます。
(参照:『華厳の思想』鎌田茂雄著 講談社学術文庫)
ある男が「地獄」を覗いてみると、罪人たちが食卓を囲んでいました。
食卓にはたくさんの食事が並べられていましたが、
なぜか罪人たちはみな、ガリガリにやせていたのです。
不思議に思ってよく見ると、彼らは1メートル以上(3尺)もある長い箸を使っていました。
箸を必死に動かしますが、箸が長すぎて、ご馳走を口に入れることができせん。
やがて、イライラして怒りだす者が出てきて、他人がつまんだ食べ物を横取りするなど、
醜い争いがはじまったのです。
次に男は、極楽を覗いてみました。
すると、極楽に往生した人たちが、食卓に仲良く座っていました。
極楽でも、地獄と同じように1メートル以上の長い箸を使っていたのですが、
箸の使い方が違いました。極楽の住人は、長い箸でご馳走をはさむと、
「どうぞ」と言って、他人の口の中にご馳走を運んであげていました。
ご馳走を口にした住人は、「ありがとうございました。今度はお返ししますよ。
あなたは、何がお好きですか?」と言って、お返しをする。
極楽では、みんなが喜びあって、感謝しながら、楽しく食事が進んでいたのです。
地獄では、「自分さえよければいい」と先を競い、争った。
しかし、極楽では「お先にどうぞ」の気持ちで相手を思いやった。
だから、すべての人が食事を楽しむことができたのです。
この寓話は、「先に与えるから相手からも与えられる」
「相手の幸せを優先するから、相手からも大切にされる」という循環を象徴していると思います。
仏教はその本質を教えてくれています。少しでも、そんな生き方に近づいていきたいものです。
自分自身の心に余裕がないと、ついついまずは自分からという選択をしてしまいがちですが、
そういうときこそ、この話を思い出して、先に与える事を実践していきたいと思います。
参考文献
『苦しみの手放し方』大愚元勝著 ダイヤモンド社