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絵じゃないかぐるーぷ
* 四獣神 暴れる
「
クルクルカルマン、
チャラチャラ、
シジュウシン。
クルクルカルマン、
チャラチャラ、
シジュウシン。
クルクルカルマン、
チャラチャラ、
シジュウシン。
京の都を滅ぼしたまえ
」
四獣神とは、青竜・朱雀・白虎・玄武のことを指す。
タタラ丘の壁画に描かれていた、
あの獣神たちであった。
壁画から抜け出てきたのであろう。
本来、この獣神たちは悪神でも善神でもない。
頼む者の言う事を聞くだけの存在にすぎない。
頼む者が善い事を頼めば、善い行いをし、
悪い事を頼めば、
その通りに実行するだけなのである。
その強さは、願いごとをかける者の心の強弱に、
正比例するのである。
彼らは、善悪の基準を持ち合わせてはいない。
人間自身の善悪感が、時代とともに変わるのを、
よく知っているから、彼らにも、
善悪の基準があるのであろうが、
人間に押しつけたりはしないようである。
その昔、何度も、いい事をしたつもりが、
悪い行為とされたり、悪いと思ってした事が、
誉め讃えられたりしたので、
ほどほどに、人間と付き合えという気に、
なったようである。
本当に人間というものは、計りがたいものである。
青竜は、その名の通り、青い竜で、
都の東の破壊を受け持った。
四本の足には、鋼鉄の玉を挾み、
ヨーヨーのようになってもいる。
朱雀は、巨大な赤い鳥で南、
白虎は西から、玄武は亀に蛇が巻きついた形の、
獣神で、北の方から都を破壊してゆく。
たちまちの内に、京の都は、
パニックと化したのである。
大風、雷雨、宮殿、お寺、塔などが次々と倒れてゆく。
火の手もあがる。
牛、馬が、通りで暴れ、犬がけたたましく吠える。
人々は逃げる方向を確定できず、
あちらこちらに、走り回っている。
弓矢刀で装備した侍たちが、四獣神に向かってゆくが、
歯が立たない。
都は、確実に、破壊されてゆく。
せっかく修理の進んだ羅城門も、
朱雀の羽の数扇ぎで、崩れさってしまった。
オヅヌは、ざまをみろと叫んでいた。
朱雀の方を見上げると、朱雀が、
ウィンクのような、オレンジ色の細い光線を送ってきた。
お前の願い、聞きてやるぞという合図なのであろうか。
オヅヌの心は、爽快だった。
生まれて、今までに味わった事の無いような、
快感に酔いしれていたのである。
「やれ、やれ、もっとやれ。頼むぞ」
そんなことを、なおも念じているオヅヌに、
「こんな所にいると、危ないわよ。さあ、逃げましょう」
腕を後から、引っ張る女の声が、
聞こえてきたのである。
振り返ってみると、そこには、
必死の形相をした、清純そうな15~6才の、
女の子がいたのだ。
オヅヌは、若い女から、声を掛けられた、
経験などなかった。
そもそも、嫌われていると思っているので、
女の子に近づいてゆかないものだから、
話す事などあり得なかったのだ。
それが、話が出来て、腕まで掴まれたものだから、
オヅヌは、びっくりしてしまった。
目がまん丸く、見開いたままだった。
頭が、ぼーっとなって、立ちすくんでしまったのである。
「さあ、早く、行きましょう」
腕を引かれるままに、ついていった。
その子は、右足が不自由なようである。
朱雀の送り出す強風が、吹き荒れていた。
瓦や木の枯れ枝が、飛んでくる。
「ここよ、ここ」
その子は、小さなほこらの中に、
ある神さまを祭ってある洞窟に案内した。
「ここの神さまにお願いすると、
悪魔がやって来た時、退治してくれるそうよ。
私は、おバァさんから、いつもきかされていたのよ。
クルクルカルマン、チャラチャラ、大魔じんって3度、
心の底から唱えるのよ。
そして、最後に、お願い事を言うの。
そうすれば、大魔じんさまが雲に乗ってやってきて、
悪魔を追っ払ってくれるの。
さあ、あなたも一緒に祈ってね」
オヅヌは、呪文の一致に驚いた。
心臓が、飛び出しそうでもあった。
己が呼んだ四獣神を退治する、
大魔じんといるということにも、
度胆を、抜かれたのである。
自分を受け入れてくれる女の子に、
すっかり心を許してしまった。
女の子の名前は、清香といった。
オヅヌは、清香が一生懸命お祈りをしている姿を見て、
「ああ、この子に悪いことをした」と、反省した。
{この子を知っていたら、四獣神など
呼びはしなかったかもしれない。
でも、今となってはもう遅い。
願い事は、一回きりだと言われている。
どうしようもないのだ}
ただ黙って、清香の後で手を合わせていた。
つづく